#079 冬の怪談 「タクシー運転手の話」 | 后前弐時のブランチ

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少し特異な体験を中心に書いています。
背中がゾクッとするのが苦手な方は片目で
読む様にして下さい(笑)

冬の怪談を冬の終わりまで持たせようと思い、ペースを考えて書いて


いたのですが、微妙です…。冬の間持つかな~(笑)



この数日寒かったですね。神戸でも雪が降り、冬を満喫出来ました。


事務所の向かいの屋根が真っ白だったり、山の方から下りてきた車


の屋根が雪を積んでたり、すごく神戸では新鮮な光景でした。



今日は昔、サラリーマン時代の話です。


あれはちょうど今の時期だったと思います。


もう十数年前になりますが…。


その日の夜、仕事で遅くなり、帰りはタクシーで帰りました。


すごく寒い日で雪がちらついてました。


私の勤務する会社の向かいには病院があり、タクシーを呼ぶ時に便


利なので、その病院の名前を言って呼んでました。


するとタクシーの運転手は私を病院の先生と勘違いする事が多くて、


疲れている私はそのまま通した事も何度もありましたね…。



その日も同じでした…。



「大変ですねー。こんな時間まで、医者も楽じゃないですねー。」


などと言われます。


「そうですねー。大変ですよ…。」


なんて適当な返事(笑)


ある意味コンピュータのドクターなんですが…(笑)



少し走るとどんどん雪が積もっているんですよね…。


ただ神戸のタクシーは北の方へ走る事もあるので、スタッドレスタイ


ヤを装備しているタクシーが多いので安心していたのですが…。



深夜。あまり車も走っていなかったので、道にも雪が積もり始めまし


た。


少し行くとスリップ事故を起こした車が中央分離帯にぶつかって止ま


っており、渋滞していました。


「あーあ。やってますねー。」


などとタクシーの運転手はその事故を見ながら言います。


「雪は嫌ですね…。」




「あ、そうだ…。先週も雪積もったじゃないですか…。あの日ね。」


と運転手は話しを始めました。



私は少し眠く、ぼぉーっとしながらその話を聞いてたのですが、


「今日お客さん乗せた場所から、男の人乗せたんですよ…。」


そう言うとルームミラーで私をチラッと見ます。


運転手さんも深夜になると話でもしておかないと眠いんでしょうね(笑)


「そのお客さんがね。北区に行って欲しいって言うんですよ。しかも有


馬の方へ。かなり雪が積もっているのを覚悟して走ったんですが、


思いのほか雪は無くて結構スイスイ行ったんですよ。」


私は適当に返事をして聞いていました。


「温泉街を通り越して、かなり人気のないところで下ろせって言うんで


すよ。」


そんな話になってきました。


ん…。なんの話なんだろうか…。


「特に近くに家もないし。私もそのお客さんに、「こんなところで降りたら


何にもないですよ…。」って言ったんですけどね。」


「何にもないところなんですか…。」


「ええ。もう裏六甲の山の中ですからね…。」



確かに、有馬温泉を抜けるとそういう場所があります。


本当に山の中で、夜になると真っ暗です。



「雪も降ってましたし、本当に心配だったんですよね。できれば下の温


泉街まで戻りましょうかって言ったのですが、そこで降りると聞かない


んですよね…。」



「それでとりあえずお金をもらい、お客さんを下ろしたんですよ…。」


「そんな場所でね…何なのでしょうね…。」


私も話に食いついてました。


「それがそこのトレーにお金を置いてもらったんですが、そのお金がね。」


「はい…。」


「ビショビショに濡れてるんですよ…。拾ったお金みたいに…」


私は目の前のトレーを見ました。


「それでね…。その先に走る訳にもいかず、Uターンしてその男性を下ろし


た場所をハイビームで照らしたんですが・・・。」


「はい…。」



「そこには既に誰もいなかったんですよね…。」


「…。」


「もちろん一本道ですし、隠れる場所も無いのですが…。」


「それは幽霊だったんですかね…。」


私は身を乗り出してました。



「いや…私もそう思って少し行って車を止めて、外に出て探してみたんで


すが…。やっぱり誰もいませんでしたね…。」



「ほら、そういうのってシートが濡れてて…なんて話があるじゃないですか。


でもそれは無かったんですよね…。」


私は自分が座っているシートがそれかと思うとちょっと良い気はしません


でした…。



「まぁ、お金もちゃんともらったしえーかーって思って山を下りたんですけ


ど…。」



その話をしながらタクシーは高速を走ってました。


視界は強く降る雪で真っ白でした。



「で、その後休憩してると同僚がやって来ていうんですよ。」


私は唾を飲み込みました。


「お前、さっき誰も乗せてないのに、メーター倒して走ってたやろ…って…。」



「なんか少し怖いと思いませんか…。」


いやー。少しどころか…(笑)



「で、その日、売上の勘定してたら、ビショビショに濡れたお札。その札だけ


古い札だったんですよね…。」



「旧札ですか…。」


私は背筋がぞっとしました。



「ちょっと怖いでしょ…。タクシー運転手を長い事してるとそんな目に会う事


も何年かに一度あるんですよね。逆にお金持ってない女の客がお金の代わ


りにーなんて気色の良い話も、私は二度ほどありますけどねー。」


なんて言いながら笑ってました…。



ちょうどその話くらいで自宅に着いたと記憶してます。


会社から自宅まで1万2千円くらいかかります。2万円出して、領収書とお釣


りをもらいタクシーを降りました。


お釣りと領収書をポケットに突っ込んで…。



部屋に入りポケットからお金を出してテーブルの上に置きました。


その時ふとそのお札が気になりました…。



旧札の5千円札がそこにはありました…。


何かで濡れてしわしわになった様なお札でした…。









TODAY'S BGM 「雪の音」 柴田淳