こんにちは。ニューヨークで役者やってます、まみきむです。

NYアクターの生活、オーディション、現場での様子、また独断によるツッコミなどをお届けしています。

 

オフ・ブロードウェイというのは、実は観る方にもある種のリスクがつきまとう…ブロードウェイの舞台は、普通はブロードウェイの前に別の場所でトライアウトして、ある程度の評判を得たプロダクションであることが多いし、評判が悪いと速攻でクローズしてしまうシビアさがあるので、そんなに「大ハズレ」に当たる事は比較的少ないしかしゼロではない)のだが、オフ・ブロードウェイは、その前の段階…リスク覚悟で思い切った実験をしてみる…というようなプロダクションも結構あり、またそれこそが実はオフ・ブロードウェイの魅力でもあるのだが、その分「ハズレ」に出会う確率も、ブロードウェイより高い…

もっとも、オフ・ブロードウェイは一応ユニオンのプロダクションなので、少なくとも俳優達のスキルレベルは高い分、オフオフ・ブロードウェイよりはリスクは少ない…とはいえ、「やりたいことはわからないでも無いけどなぁ…」という、独りよがりな演出だけが暴走する残念なケースも、決して少なくない…事実、私自身もつい最近もそんな大ハズレに遭遇してしまったばかりである…しかも最近のオフ・ブロードウェイのチケットは結構高額?!ハズレでも「まぁいいか…」と言える価格ではなくなっているのだ!…人々の「シアター離れ」を嘆く前に、関係者は今一度この経済的な問題を真剣に考えた方がいいのではないか?!

 

しかしそういう中で、「隠れた宝石」のような優れたプロダクションに出会った時の喜びは、また格別なものがある…先日観たこのオフ・ブロードウェイのミュージカル「Empire」はまさにそんな作品だった。

 

 

 

よく練り上げられた脚本と、ヒップホップからジャズまで幅広いスタイルを取り込みつつ正統派ミュージカルシアター路線をキープする音楽心に響く歌詞そして、それらを表現豊かに歌い上げる俳優達の歌唱レベルは圧巻そしてダンスもまた素晴らしい…プロダクションによっては、派手なダンスナンバーと場面が全く別のもの…というものもあるが、この舞台では、ユニークかつシンプルで的確な動作から、実に自然にダンスに移行する…その振り付けもさることながら、それに応えるダンサー達…しかし何よりも、そうした素晴らしいパフォーマー達を最大限に活かしつつ、テンポ良くまた的確にストーリーを伝える演出…上演時間は2時間半を超えるのだが、一向に長さを感じないのは、絶えず舞台の上で確実に何かが起こっているから…そして、どんな「小さな役」でも、いつもどこでもしっかりその世界を生きており、またそれをちゃんと見せる演出…実はこれは案外レアである…この演出家は俳優のことをちゃんとわかってる人やなぁ…と、そのプログラムを見ると、何とDirectorはCady Huffman…トニー賞受賞&エミー賞候補の女湯さんではないか?!…勿論、俳優業以外にもシアターの脚本家、演出家、プロデューサーとしてのキャリアも長い…と聞いて心から納得した…

 

実は今回のチケットは、例のユニオンの招待券過去記事参照)を頂いたもので、だからこそ観に行った…というのが正直なところだった…というのも、実はその前日に見た舞台が大ハズレだったからだ…このところ落ち込み気味だったので、何か元気になれるものを!…と思って映画や舞台(オフやオフオフだが)を色々観に行っていたのに、何故か大ハズレ続きで、「これは観ている私の方の問題なのかな?」…と思い始めていたくらいだったので、実はこのミュージカルも危うくキャンセルするところだった…というのも、そのミュージカルについても、まぁ、タイトルからエンパイア・ステイト・ビルの建設の話だ…という事はわかったが、それってガリゴリの男芝居なネタでは無いか?!…という先入観があって、どちらかといえば女性キャラが頑張っている作品が見たかった私は、イマイチ気が乗らなかったからだ…が、他に行きたかった人もいたかもしれないのにチケットを押さえてドタキャン…というのは、やっぱり悪いな…と、思ったので行ったが、それは大正解だった…というのも、「男芝居」どころか、このミュージカルを確実にリードしていたのは、様々な女性キャラ達だったからだ

 

劇場は、ミッドタウンのシアター・コンプレックス「New World Stages」…この建物の中にオフ・ブロードウェイの劇場がいくつかあり、入口のボックスでチケットをもらってその劇場に移動…通常、この手の招待券は、要するに空いている客席を埋めるためのものなので、普通は端っこの方とか、後ろの方の余り人気のない席である…が、まぁ自分でチケット代払っていないので、文句を言ってはいけない…と思ったら、何と前から4列目のほぼ中央?!…無茶苦茶良い席では無いか?!

 

 

開演前に見えるセットや照明も美しい…入口で何度も「上演中は撮影禁止」と念を押されたが、これは上演前だからセーフ…実はこのステージの両脇の下、客席の近くにも2つ演技の場所があるのだが、そこの写真を撮ろうとすると他のお客さんが写り込んでしまうので諦めた…

実はステージの下で起こっていることが1970年メインステージで起こっていることが1930年…という風に、過去と現在を行ったり来たりする…という趣向だが、いつしかその2つが無理なく混ざり合う

 

メインのストーリーは、一言で言えば、エンパイア・ステイト・ビルの建設物語である…が、これは、その建設に関わった人達の仕事に対するプライドの物語でもある…

建設現場で働くのは主に移民達…この当時(1920年代から1930年代)の移民は、イタリア人、アイルランド人、そしてポーランド人…そこに先住民族のモホーク族も人達も現場で働いており、この時代の人種問題は、実はこの「先住民族 vs 白人」だったりする…

そして、その建設の段取りを支えるオフィスで働く女達と、その建設を企画し実際に金を出すオッサン達…その政治家や大企業のオッサン達の無理な要求を可能にし、マルチタスクでガンガン仕事を進める女性のマネージャー、ウォリーこと、フランシス・ベル・ウォロズキー…これは実在の人物なのかどうかちょっと確認できなかったが、その前に建設されたブルックリン・ブリッジも、夫の代わりに実質的な現場監督となったのは、妻のエミリー・ロブリングだったし、第一次世界大戦後、女性の社会進出も進んできたので、こういう人物がいても全然おかしくない…むしろ、この巨大プロジェクトは、なんと予算内でしかも期限の前に完成した…という事から、これは絶対段取りの責任者は女性だったのではないか?!…という人もいるくらいである…

 

実際、当時ニューヨークで最も高い建物であったこのエンパイア・ステイト・ビル…この102階建ての高層ビルの建設期間は何と14ヶ月弱?!…これは今の感覚でも無茶苦茶早い?!…ほとんど1日1フロアー…という異様に早いペースで建設を進めたというのだから、正気か、お前は?!…と言いたくなるが、まぁ、労働環境への配慮なんかはなかった時代だろう…勿論、これは自然にこのペースで建ったわけはなく、テナント確保と、このプロジェクトを政治目的に使いたかったそのオッサン達の都合のため、先にデッドラインが設定されたからである…

 

また、時代は世界恐慌のトバッチリを受けた大不況の真っ只中多少条件が悪くても、仕事を欲しがる人達は掃いて捨てるほどいる…という超売り手市場…そして、このエンパイア・ステイト・ビルの建設は、そうした街に溢れる失業者達に、仕事と希望、そして仕事への誇りを与えた…という一面もある…そしてこれは、上のオフィスで働く女性達にも同じ事…

この男も女も、仕事を通じて結び付き、それぞれの仕事を誇りを持って一緒に目的に向かって突き進むその過程と皆の頑張りは、実に感動的で、また公演を成功させるためのプロダクションの人達の頑張りとも重なり合い、もうオバチャン号泣…勿論、カーテンコールは客席総立ちのスタンディング・オベーショである…

 

実は私が見たこの日は、ウォリー役を始め、いくつかの役がUnderstady(代役)だった…これはオフやオンのブロードウェイでは良くある事である…が、それに必ずしもがっかりするには及ばない…そもそも代役というのは、確実に実力がある俳優でないと無理なのだ…実際この日も、正直のところこの代役の女優さんが一番良かった…と思ったくらいなので、もし「代役」の案内がプログラムに挟まっていたら、「ラッキー!」ぐらいに思っていいかもしれない…

 

この新作ミュージカル「Empire」期間限定公演なので、もし延長されなければ、千秋楽は9月22日である…もっとも、私は内心、これはいつかブロードウェイに上がってくる作品ではないか…と思っている…そしてそうなったらチケット代は確実に今の倍…そして舞台への距離ももっと遠くなるから、見るとしたら今がチャンスである!もしこの期間ニューヨークにいる方々には、ぜひ今の内にチェックされる事を強くお勧めする…そして近い将来、もしブロードウェイで上演される事になったら、私もまたぜひもう一度見たいと思っている

 

 

★過去記事★