こんにちは。ニューヨークで役者やってます、まみきむです。

NYアクターの生活、オーディション、現場での様子、また独断によるツッコミなどをお届けしています。

 

先日の大雨過去記事参照)以来、ニューヨークは急に涼しくなった…まぁ、それはありがたい事ではある…我家はいまだにエアコン無しで過ごしているし、空気が乾燥しているので、油断するとすぐ脱水状態になってしまうし、秋の放映に向けての撮影では衣装は長袖気温が高い日だと本当に悲惨だからだ(過去記事参照)…なので、涼しくなるのは大歓迎…ではあるのだが、何と言っても北国NY…朝夕は特に肌寒くなり、日中でもどこか冷んやりとした空気…これって、ひょっとして、もう夏終わってしもた?!…そう思うと、何だか寂しくなる…北国の悲しさで秋はもの凄く短く、肌寒くなってきたなぁ…と思ったら、もうそのままいきなり冬に突入してしまうからだ…

 

 

そんな季節の移り変わる時期は、ただでさえ何だか気が滅入りがちだが、またそのタイミングを狙ったかのように、凹む様な出来事が次々起こる…と言っても、生死に関わる様な深刻なものではないのがせめても…だが、「仮押さえ」されていて、ブッキングの情報を待っていたらいきなりドタキャンされる…なんて事が続くと、「私って、実はかなりどうでもいい存在だと思われてないか?」とついついイジケたくなる

普通なら、こんなのよくある事…と流せるのだが、こういうどうでもいい事が気になる時には、考えても仕方がない事もクヨクヨ考えてしまう

 

実は、少し前にSelf-tapeのオーディションを受けた…普通なら、オーディションは自分のビデオを送ったらすぐに忘れる事にしている…この後は、もう自分ではどうする事もできないから、あれこれ考えても仕方がないからだ…しかし、実はこのオーディションはそれまでずっと待ち続けていたものなので、わかっちゃいるけど、どうしても気になってしまう…

 

ある事を「考えない様にする」というのは、実はかなり難しい事である…もし疑うなら、試しに次の実験をしてみてほしい…

やることは簡単:これから1分間、絶対に「シロクマ」の事を考えてはならない…これだけだが、その1分の間は、「シロクマ」の姿形はもちろん、「シロクマ」という言葉や文字、また「シロクマ」関連のキャラクター商品や食品を含む、「シロクマ」関係の事は、一切考えてはならない

ではこれから1分間…用意…スタート…

 

(10秒経過)…繰り返すが、「シロクマ」形を思い浮かべるのもダメである

 

(30秒経過)…あ、「シロクマ」と実質的に同じ「北極熊」もNGやで

 

(45秒経過)…「シロクマ」だけではなく、単に「白い」「熊」もあかんで

 

(1分経過)…はい、お疲れ様でした…さて、胸に手を当てて、正直に答えてほしい…「シロクマ」について考えてしまった人、正直に手を挙げて!

 

これはワークショップで時々やる実験だが、大体参加者の90%は、「シロクマ」の事を何か考えてしまう…(そして残りの10%は多分嘘をついている)…もっとも、それらの人達が普段から「シロクマ」の事が頭から離れない…という「シロクマフェチ」であるわけでは決してない…要するに「考えてはならない」という制限ゆえに、余計考えたくなってしまうのが人間なのだ

 

だから「考えてもしゃーないやんか!」と自分では十分わかっているのだが、何かの折にふと、「あ、締め切り過ぎたから、今選考しているところかな…」「いや、もう選考は終わって、コールバックの連絡をしているところかもしれない…」「何で私には、その連絡が来んのや?!」「一体何があかんかったんやろう?」「いやいや、まだそうと決まったわけではない…」…という不毛な思考の輪廻に陥ってしまう…何ちゅう無駄な時間の使い方や?!…と、自分でも突っ込みたくなるが、そのシロクマの例を出すまでもなく、「考えるな」と言われれば、余計頭に浮かんでしまうのだ

 

もっとも、これがもし仕事で超忙しければ、そんな余計な事を考えている暇もないのだが、さっきも言ったように、「仮押さえ」のドタキャン続きで、無駄にスケジュールが空いてしまっている…要するに暇だからあかんのや…と、自分でもわかってはいるのだが、「ひょっとしたらコールバックが来るかも?」と思うと、BGの仕事を入れる事にも躊躇してしまう…さらに、その同じ作品のBGのキャスティングの方にうっかりサブミットしそうになったり…そして、その作品名を見る度に、自分のオーディションの事を思い出し、さっきの無駄な思考の輪廻に巻き込まれてしまう

 

そうやって、無駄な事をウダウダ考えている内に、あっという間に昼が来て、夜になり、翌朝に…と、月日だけが加速的にどんどん経っていく?!

これではあかん!…と、こうなったら、自発的になるべく予定を入れる事にした…考えてみたら、NYにはトップレベルのアートが揃っているのだ…また出かけなくとも、これまで時間がなくて中々見られないでいるStremingのシリーズが一杯あるではないか?!…こういう「暇」な時こそ、インプットの時期!

 

そこで、とあるイベントに参加する…TVシリーズのエピソードのスクリーニングの後に、そのキャストとキャスティング・ディレクターが、オーディションについてお喋りするQ&Aがそのイベントのメインだったが、そこで言われた言葉が、その時の私には心のど真ん中に刺さった…曰く、「もしそれが『自分の役』なら必ず受かる…もちろん全てのオーディションに受かるわけではない(というか、その90%は必ず落ちる)が、それはその役が『自分の役』ではなかった…というだけの事なのだ」…また、そこでも言われたように、オーディションは「試験」ではないのだ…実は「Job Interview(採用試験)」でさえないと言う?!…オーディションに落ちるのは、何も自分が劣っているとか、誰かに負けた…という事でもない…もちろん、明らかな失敗&玉砕というケースもないわけではないが、それはあくまで「事故」で、その時はその失敗から学べばいいだけの事…

実はオーディションとは、「自分ならこの役をこうやる」という演技のサンプルを無料提供する、いわば営業活動過去記事参照)で、もしそのサンプルが相手のニーズに合えば「買い」となり、もしニーズと合致していなければ「また今度」となるそれだけの事なのである…

その「また今度」がいつになるのか?!…という問題もあるが、その「今度」こそ「自分の役」が来る!…と信じ続ける事…そして、その時にベストの営業ができる様に準備しておく事…我々にできるのはそれだけである…そのやり取りを、客席で一人号泣しながら聞いた…特に新しい事ではないが、おそらく今の私には必要な言葉だったのだろう…

 

もしそのオーディションに受からなくても、それは「私の役はなかったのだ」と、さっさと過去の事として忘れ、また新たな気分で「自分の役」が来るのを待ちたいと思う

 

 

★過去記事★