こんにちは。ニューヨークで役者やってます、まみきむです。

NYアクターの生活、オーディション、現場での様子、また独断によるツッコミなどをお届けしています。

 

この前からお話ししていたミュージカル公演過去記事参照)の本番がようやく終了終わってみれば、やってよかった!と思える素晴らしい経験だったし、そこから得られるものも多かったが、しかしまたやろうね!と言われて「勿論!」と即答できるか…といえば実は躊躇する…というくらい、実は苦難とツッコミどころ満載だった…そしてそういう大変な事はネタにするに限る!…というわけで、その裏話を少しお話ししたい…

 

まず何が一番大変だったかといえば、リハーサル時間が無茶苦茶少なかった事だった…最初予定されていたリハーサル時間はたった6時間…これには歌のリハーサルも込みである…これは台本を持ってパフォーマンスするリーディングならOKだが、今回は全てオフブック…つまり全て暗記していなければならない?!…つまり、ほとんどフルプロダクションと同じものが期待されているのだ…これはいくら何でもあまりにも無謀だ…ということが後にわかり、追加のリハーサルが2時間ほど設けられたが、まぁ、ないよりマシ…という焼石に水感は拭えない…逆に言えば、もしこの倍のリハーサル時間があれば、ここまで大変ではなかったかも知れない…

 

その作品は10分間の短編ではあるが、最初話を聞いた時には3曲過去記事参照)…それが後に1曲増えて、4曲となった…しかもその4曲の歌だけでも10分かかるのに、その前後に芝居が入る…まぁ、ある程度の説明は必要だし、私は芝居の方が安心できるのでありがたい…とも言えなくもないが、作品全体から見ると「これ本当に要る?!」という無駄な台詞が実は結構あった

 

その脚本の作者は、その音楽の作曲家でもあるのだが、その音楽は文句なしに素晴らしかった…もっとも、コンテンポラリーのミュージカルは、リズムも変則的だし、しょっちゅうキーチェンジがあったりするので、歌う方は決して楽ではないのだが、その音楽のメロディ自体が十分物語を語ってくれているので、その後のごちゃごちゃした芝居は帰って邪魔?!…という印象を抱いたぐらいである…

 

その脚本についてのディスカッションが行われた演技のリハーサルの時、過去記事参照)時に、一応全体の時間を計ると、13分?!…いきなり3分オーバーしている…制限時間は10分でなければならず、特に今回のようなフェスティバル形式は、時間にうるさい…それを許せば、どんどん長くなってしまって収拾がつかなくなってしまうからだ…

 

なので、そのリハーサルの後、脚本の変更が告げられた時は、これはある程度カットされるのだな…と私は思っていた…実は、この後はテクで、最初は他のリハーサルは予定されていなかったので、本当ならそういう段階で脚本を変えるのはルール違反である…まぁ、リーディングなら本番直前に変えられても、その台本を読めば良いので、まだ何とかなるが、オフブックとなれば話は別…一旦覚えたことを覚え直すというのは、実は結構大変…俳優は機械ではないのだから、すぐに変更上書き…と簡単に行くものではない…それでも3分もオーバーしていれば、これはしゃぁないな…と思っていた…のだが、送られてきた変更後の台本には、何と台詞が付け加えられている?!

ただでさえ長過ぎるのに、もっと長くしてどないすんねん?!…と思わず突っ込んだが、これがまだ良くなっている…というのならまだしも、明らかに無駄な説明を付け加えているばかりか、この追加部分が歌の効果を薄めているではないか?!…私には、これは明らかに改悪に見えた

 

ただ、実は脚本家の心理も全くわからないでもない…その前のリハーサルで、様々な意見が出た時に、「これはちゃんと説明しておかねば観客もわからないかも?!」と不安を抱いて、ついつい余計な説明をしたくなったのだろう…しかし、こういう時の説明的な台詞は大体失敗なのだ…また、台本の紙面上では不明確でも、実際に俳優達の演技でそれがはっきりする事も実はままある…なので、本当は、実際のプロダクションの前に、リーディングなどで実際にそれを聞き、また経験のある人達からフィードバックを得る…というプロセスが必要なのだが、今回の脚本家は、それをこの少ないリハーサル期間中にやろうとした…それがあまりにも無謀である事は経験者にはすぐわかるのだが、経験のない人にはそれも当然わからない

 

最初はそのまま黙っていようか…と思ったのだが、いずれこの無駄な部分は後にカットされるだろうし、それがいきなり本番の直前だったりしたら、その方が困るので、そうなる前に少なくとも一言指摘しておこう…という気になった…一つは、私の中に「私だって脚本家の端くれだし、すでに何作か観客の前に出しているのだから…」という自負があったのも確かである…なので、その脚本家にストレートに、この変更ははっきり言って余計な説明以外の何物でもなく、返って意味を狭めたり歌の効果を邪魔するものだ…時には「Less is Better(余計な事を排除した方がいい)」という事もあり、これもまさにそのケースだし、あなたの音楽はもう十分にそれを説明しているから、その音楽と観客を信用する事も大事だ…変更するなら、むしろ短くする方向で、例えばこういう風にした方がよくないか?…という具体例も添えて、作者に直接メッセージを送った

 

その私のメッセージに対しては、「意見をありがとう。また考えてみます。」という丁寧な返信があったので、私は単純に「伝わった」と思い、さらなる変更が送られてくるのを無邪気に待っていた…ところが、さらなる変更は全く来ない…そこで私は、もう一度「こういう路線で行けば、全体がもっとすっきりし(つまり短くなる)、わかりやすくもなるのではないか?」という案を再びメールで送った…

 

ところが今度は、そのメールの特定の部分に対して、「ドラマツルギーに関して誤解があるようだが」と称し、演出家にもCCして「私はこれには反対です」と、やけに感情的なメールが返ってきた…いやいやいや、別に私は解釈の問題で議論をふっかけたわけではなく、時間内に収めるようにし、尚且つ音楽を損なわずにすっきりまとめる方法例を提示しただけなのだが

 

しかし、これは後で気がついたのだが、この作者にとっては、私はただの一俳優に過ぎない…その脚本家でもないアクター風情に、いきなりケチをつけられた…と取られてしまったようだった…なので、本当なら演出家にも手を回し、さも彼のアイディアであるかのように仕向ける事もできたし、あるいはそうするべきだったのかもしれないが、私は「話せばわかるだろう」と、あまりにも単純に考えていたのだ…

 

この時点で、この人には本当の問題が何かわかってないな…という事がはっきりし、これには正直のところ、かなりがっかりした…ひょっとしたら後に私と全く同じ指摘をする人が他にもいて、その時には理解するかもしれないが、今私がこれ以上何を言っても無駄なようだ…私は単なる一出演者にすぎず、プロデューサーや演出家の役割ではないのだから…

 

そういう鬱屈を抱えていた時に見たのが、あのブロードウェイのショー過去記事参照)だった…あの舞台も、実は脚本にかなり難があったのだが、それでも出演者達の精一杯の頑張りはそれなりに感動的だった…スケールの違いはあるが、私もそれを見習うべきではないか?!…そうなのだ…我々俳優の役割は、与えられたキャクターに生きたリアリティを与える事…脚本が悪かろうがなんだろうが、与えられた歌をきっちり歌い、その人物を演じる事…それが仕事なのだ

そう覚悟を決め、その無駄な追加台詞も、一言一句きっちり覚えたこうなったらこっちもプロである…この説明的な台詞を何とか会話として成り立たせるようにしてやろうじゃないか…と、立ち寄ったベーカリーで菓子パンを噛み締めながら決意する…

 

 

その後最後のリハーサルが追加で設けられた時、この脚本の直しについては一切触れず、ひたすら歌に集中した…

しかし、その翌日にフェスティバルの主催者やテクの人達の前でそれを見せた時、上演時間が14分に及ぶ事が発覚…当然である…最初の読み合わせですでに13分近かったのだ…そこに無駄な台詞を追加してさらに1分伸びてしまったのだから

しかし、制限時間を40%も超えるのは、いくら何でもあかんやろ?!…というわけで、その作品を短くするように…という命令がイベント主催者から下され、結局、私が「これは絶対ない方がいい」と指摘していた問題部分は、結果的に大幅にカットとなったざまぁみろ!…と言いたくなったが、そもそも何でそれがもっと早くわからへんねん?!

さらに4曲中の1曲が全カット…そのカットされた曲は結構難しい曲で、散々苦労して覚えただけに、何やねん?!…と残念だったが、実はこれも、作者は最初はあちこちから曲の1部だけをカットして短くするつもりだったらしいのを、「それは時間短縮にはあまり意味がないし、この段階ではアクター達も混乱するだけだからそれはやめた方がいい!…とミュージカル・ディレクターが阻止してくれたので、結局特定の曲を1曲カットとなった…ミュージカル・ディレクターよ、ありがとう!…しかしこれも、ミュージカル・ディレクターという立場の人が言ってくれたから通った事だったのだろう…我々俳優が「頼むからやめてくれ~!」」と懇願したところで、「それが仕事でしょ?」と言われるのが関の山だったかもしれない…たとえ、それがぶっつけ本番だったとしても…

 

そして最終的にそのカットが行われたのは、本番の前々日ドレスリハーサルの前日の事だった…

 

 

★過去記事★