こんにちは。ニューヨークで役者やってます、まみきむです。
NYアクターの生活、オーディション、現場での様子、また独断によるツッコミなどをお届けしています。
舞台公演の最初のリハーサルの日を、「First Day of School」と呼ぶ事がある…これは、学校の新学年初日の新しいクラスに対する不安と緊張、そしてワクワクするような期待と同じような思いを、俳優達はリハーサル初日に抱く事から、そう呼ぶようになったのだと思うが、中々言い得て妙な喩えである…
実は私も、そのFirst Day of Schoolに行ってきた…例のミュージカル公演(過去記事参照)のリハーサルである…もっとも、私はその前に、ミュージカル・ディレクターとZoomでリハーサルしてもらっていた(過去記事参照)のだが、その公式のリハーサルが、関係者一同との初顔合わせである…
そこで俳優達に渡される台本には、それぞれちゃんと名前と役名が書かれている…
もっともその中身はすでにデジタルでもらっているのだが、やはり私はリハーサルのあるものは紙の台本の方が使いやすい…そこにどんどん書き込めるからだ…もっとも、若いデジタル世代の人達はタブレットの台本でもどんどん書き込みをメモとして入力していたりするのだが…
まず簡単に自己紹介した後、いきなりリハーサルが始まる…というのも、歌にフォーカスしたリハーサルはその日の2時間だけ…ミュージカル・ディレクターはその時間内に4曲全部カバーしなければならなかったからだが、そのリハーサルはものすごく速い展開で進んでいく?!
私の予想では、まず各自のパートを一通りさらって、セクション毎に全員で合わせる…てな感じかな?…と思っていたら、そのミュージカル・ディレクターは「まみきむとは、すでにZoomで音取りリハーサルやったよね。」と言い、他の出演者の女優さん達に「あなたはどう?音取りいる?」と聞くと、その人達は何と「I’m OK.(私は大丈夫。)」と言うではないか?!…事前に楽譜はもらっているのだから、自分で音を把握しておくことは、もはや当然?!…そこで、いきなり最初っからほぼぶっつけで全員一緒に歌う…と言うのに、一瞬パニックしそうになった…
もちろん、私だって自主練はしてきたから、一応音は把握しているはずなのだが、ピアノの前奏が始まると、それはまるで全く知らない曲に聞こえる?!…練習で使っていたデモ録音のキーボードと、そのピアノの音は全然違う音のように感じられたからだ…しかも、考えてみたら、デモ録音では私のパートを歌ってくれるボーカルと一緒にずっと歌ってきたのだが、この生演奏では勿論私一人…さながら、水泳の初心者が、ずっと浮き輪付きで泳いでいたのを、いきなり浮き輪無しでプールに放り込まれたようなものである…
内心無茶苦茶動揺しパニック寸前だったが、表面は一応平静を装う…まぁ、どのみちいずれか化けの皮が剥がれる事になるだろうから、せめて最初だけでもあまり素人っぽく見えないようにしよう…という、オバチャンの悪足掻きである…というのも、関係者のほとんどは、私より若い人ばかりだったからだ…が、内心は心臓バクバク…ともすれば声も震えそうになる…
私の若い時代のキャラクターを演じる女優さんは、ミュージカル・シアターのベテランで、落ち着いたアルトの声…きゃぁ~!かっこええ~っ!…実は私は女性ならアルト、男性ならバリトンの声に弱い…実は私は元来メゾソプラノなのに、婆ちゃん&おばちゃんキャラでアルトのパートを歌う事が増えてきたのだが、その音域の声は出てもどうしても声質が軽い…なので、ないものねだりで、迫力のあるアルトの声が羨ましくてならないのだ…
思わず聞き惚れて、自分の出のキューを逃しそうになる…実はこの人と一緒にハーモニーをやる事が多いので、こうなったらひたすらついて行こう!…と密かに決意する…本当はそれぞれがイニシアチブを取っていかねばならないのだが、それはもっとリハーサルが進んでから言うてくれ~!
いきなりぶっつけの通しの後、ミュージカル・ディレクターは音程などに細かくダメ出しをしていく…一回聞いただけでよくそんな細かいところまで?!…という指摘もあったりするのだから、さすがプロである…私はといえば、あれだけ自分で練習したにも関わらず、いざ「浮き輪無し」でやると、パニックして昔の間違って覚えてしまった音に逆戻り…
しかし落ち込んでいる暇はない…ダメ出しの後には、今度は「ここは抑えて」「ここはメゾフォルテで」と音楽のダイナミズム…という観点からどんどん指示が出る…が、この時点で私の許容量は飽和状態…
さながら、初めて英語を習う時に、一応アルファベットは覚えておいたが、他のクラスメート達はすでに基本的な英会話は知っていて、いきなり「Hello, how are you?」「Fine, thank you! You?」なんて言い合っているのを、目を点にしてポカーンと眺めているようなものである…
頭の上を飛び交う音楽用語のイタリア語も、「クレッシェンド」ぐらいは覚えているが、「ここはテヌートで」って…テヌートってなんやったっけ?!
それでも、一番長い1曲目を終えると、後の3曲は気分的にもかなり楽になった…こうなったら完璧を目指す…のは多分無理だから、ともかくまず逃げ場のないソロのところだけなんとか必死で仕上げ、それ以外のハーモニーは音だけ外さないようにして、やれるだけやっとこう…と、開き直った…というのもある…(ええんかい?!)
そういえば、私がミュージカル・シアターを早々と諦めたのは、ダンスが苦手だったというのもあるが、コーラスでは必須のハーモニーが苦手だったからだった…というのを改めて思い出した…なのに、ミュージカルのオーディションをあまり受けなくなってからの方が、ワークショップ公演とはいえ、なぜかミュージカルのプリンシパルの機会が舞い込むようになった…というのは、なんとも皮肉な話だが、この機会に、もう少しハーモニーも頑張ってみよう…と少し殊勝な気分になった…さながら、新学期最初の日に他のクラスメート達を見て、「もうちょっと勉強せなあかんな…」と思わされるようなもの?!…やはりこの「First Day of School」という喩えは、言い得て妙である…
★過去記事★