こんにちは。ニューヨークで役者やってます、まみきむです。

NYアクターの生活、オーディション、現場での様子、また独断によるツッコミなどをお届けしています。

 

先日またまたストリーミングのシリーズをビンジウォッチングしてしまった…

よっぽど暇なんかい?!…と言われるかもしれないが、実は「仮押さえ」で空けておいたのを、またもやリリースされてしまったのだ…その中には、このブログでもお話ししたプロジェクト過去記事参照)も入っているが、それ以外にも、実は似たような事が続き、いささか落ち込んでいたので、ちょっと元気になれそうなこのコメディを見てみたら、これがドツボにハマってしまった…

 

 

この「Only Murders In The Building」は、Hulu配信の、Steve MartinMartin Shortの名コンビ(実はもう1人いるのだが、実質的にはこの2人でもっている)による大人の人気コメディで、以前ここでも少しだけご紹介した事がある…(過去記事参照) 今回がシーズン3だが、何とゲストスターにかのMeryl StreepPaul Ruddを加え、一層パワーアップした感がある…

特に私がどハマりしたのは、今回はシアターネタだったからだ…

 

元ブロードウェイの演出家のオリバー(Martin Short)と元TVの大スターのチャールズ(Steve Martin)は、現在はパッとしない身の上…しかし、過去の栄光に縋って引退生活を送るだけでは物足りないし、お金もいる…そんなオリバーに、ブロードウェイの舞台を演出するチャンスが舞い込み、そこへ元TVスターのチャールズも再起をかけて臨む…のだが、ただでさえ色々なアクシデントがてんこ盛りになるシアター公演…今回も例外ではなく、おまけに殺人事件まで起こる?!…その犯人探しの過程で、人々の様々な思惑も入り組み、また登場人物それぞれの過去も炙り出されて、全編がツイスト&ターンに富むローラーコースター観客を巧妙にミスリードし、一旦見出したら最後までやめられない止まらない…実によくできたシリーズである。

 

脚本の良さもさる事ながら、やはり芸達者な出演者達の見事なアンサンブルによるところが大きい…特に、Meryl Streep!…私は元々彼女のファンではあったが、「この人こんなに上手い俳優さんやったんや?!」と何度も度肝を抜かれた…

彼女の演じるロレッタは、中々芽の出ないまま来てしまった無名の中年女優…決して才能がない訳ではなく…というより、才能も実力もあり、女優としての仕事もしてきたのだが、何故かそれまでメジャーなチャンスに恵まれないいつも最終候補には残るのだが、何故かそこから先には行けず、「ニアミス」生活を長年送ってきた…って、これ私やん?!…特に自分もそれに近い事が続いたばかりなので、この時点でもう涙なしには見られない…それでもロレッタは希望を捨てずに続け、ある時ようやくチャンスを掴む…オリバーの演出するブロードウェイの舞台のオーディションを受けるのだ…

そのオーディションでは、その作品からの長台詞を演じる…よくこういったシアターもので、「おそらくこの俳優は、『ずば抜けて素晴らしい』事になっているのだろうな…というのはストーリー上わかるけど、実際この程度ならいくらでもいるのになぁ…」という残念なケースが決して少なくない…実際、キャスティングでも一人がずば抜けている…というのは稀で、大体似たような実力の持ち主が最終候補に残り、ここから先は主観…という場合がほとんどなのだ…しかし、たまぁ~に「この人しかいない!」というケースもない訳ではないらしい…このロレッタの場合もまさにそうなのだが、彼女のオーディションのモノローグは、誰が見てもまさにマスターピース?!…実際私も「そうか、オーディションとはこうやるものか…」と思いかけたが、いやいやいや、それMeryl Streepやからね!…また、これはすでに知られたことではあるが、彼女は実に歌も上手いのだ…そして彼女はついに、「Where have you been?(今までどこに埋もれていたんだ?)」とオリバーに言わせるのだ…これはまさに「発見される」日を待ち続けた無名俳優の夢である…だが、彼女にしても、決して埋もれていた訳ではなく俳優としての仕事はずっと続けていたのだが、たまたまそれまで必要な大物の目に留まる機会に恵まれなかっただけなのだ…実際、こんな風に才能も実力もあるのに、タイミング良くチャンスに恵まれる事がなかったが故に、無名のまま…という俳優は、実はニューヨークには掃いて捨てるほどいる…そして、このシリーズはそれでも希望を捨てずに努力を続けたLate Bloomer(大器晩成型)の俳優達への讃歌でもある…

 

ただ、Late Bloomer達はそれだけ歳も取っているわけで、過去にはそれなりに叩けば埃がいくらでも出てくる…また、実は演劇界とは結構狭い世界で、過去に意外な関わりがあったり…なんて事もある訳で、それがストーリーに重厚な味わいを与えてくれる…

また実際、そのそういうシアター公演の関係者達は、誰もが殺人の動機も機会も持っている…という実にシビアな世界である事も、ここでは描かれる…

 

また「我が子の為ならどんな犠牲も厭わない母の愛」も、このシリーズの重要なテーマである…それはオリバーの演出する舞台作品のテーマでもあると共に、それが犯人候補の重要なキーとなり、大いに観客を惑わせてもくれる…

 

さらに、在NYの有名人が、その「本人」として出演していたりするのも、このシリーズのお楽しみで、シーズン1ではロックスターのSting、シーズン2ではコメディエンヌのAmy Schumer…そしてこのシーズン3でも、意外なブロードウェイの大スターが登場する…が、これまた「こういう(困ったちゃんの)俳優、いるよなぁ~!」という抱腹絶倒の世界だったりする…

 

もう一人のゲストスターであるPaul Ruddの演じるベンは、性格がめっちゃ悪いTVスターなのだが、それでも意外な繊細な部分を持ち、また俳優達の脆さや自信のなさ、そして極端な食事制限やアディクション…といった闇の部分も、彼は的確かつリアルに演じる…それでもコメディになるのが彼のすごいところでもある…また、彼は一人で延々喋り続けるシーンが多いが、撮影時は大体それを1テイクできっちりこなしていた、真のプロでもある…

 

そして何より驚いたのはMartin Short…この人は、ちょっとぶっ飛んだコメディが得意…というか、そういう役で知られていたのだが、今回のMeryl Streepと一緒のシーンでの実に自然な芝居に、「この人こんなに演技が上手い人やったんか?!」と、これまた度肝を抜かれる…また、彼は舞台人なので、実は結構歌も上手いのだ…

 

この「Only Murders in the Building」という作品はHuluのオリジナルシリーズだが、この度全米ではネットワークTVのabcでもシーズン1が放映されるようになった…おそらくストのせいで、abcは放映するオリジナルの新作TVシリーズがなくなったのだろう…いい気味である…

ストリーミングのオリジナルは、ネットワークコードに抵触するような性描写や暴力シーンなどが多いのだが、このシリーズは、殺人事件ではあるものの、品の良い大人のユーモアに溢れた、ある意味「安心して見られる作品」なので、ネットワークにはさぞ有り難かったことだろう…

 

実は私は、このシーズン3にBGとして何度か働いている過去記事参照)…最初は1日だけのはずだったのが、なぜか結果的に何日も呼び戻される事になり、3話分程あちこちでウロウロしている…その撮影は実に楽しいものではあったが、その時に「私もこの番組にいつかプリンシパルとして出たい!」と思い続けた事を、今その完成した作品を見ながらありありと思い出した…

 

 

★過去記事★