こんにちは。ニューヨークで役者やってます、まみきむです。

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先日、この映画のスクリーニングに行った。

 

 

この「Poor Things」は、先日のゴールデングローブ賞のコメディ映画部門受賞…ということもあって、私はこのスクリーニングをとても楽しみにしており、これに出席する為に仕事の機会を見送ったほどである…(働かんかい!

 

ここから先はややネタバレ警告

 

確かに非常にユニークな映画である…「パリコレかい?!」と言いたくなるようなゴージャスな衣装は、19世紀のヨーロッパの要素を取り入れながらも、化繊っぽい素材や、「この時代にミニスカート?!」という様な、ファッション史も時代設定も無視した大胆なデザインで、ここまでくるともはやアート…またリスボンの美しい街の様子も、歴史的な建物の上空には飛行船やケーブルカー(?)という様な不思議な乗り物が浮かんでいたりもし、ナウシカの世界のような空想上の都市…という趣き?!…また、豚や鴨、犬の混合動物の様な、動物愛護協会の人が卒倒しそうな不思議な合成生物達も登場するし、そもそもそのキーとなる「大人の身体に赤ん坊の脳を移植」という事自体がすでにSFなのだから、これは時代物SFとしてみるべきものなのだろう…これらの芸術的なアートデザインは、おそらくオスカーを獲得すると思う…

 

そんなシュールな世界観での女の子の成長物語を単身リードしていくEmma Stoneは、この役でゴールデングローブのコメディ映画主演女優賞を獲得したが、確かにその大役を見事に務めた彼女の仕事は大いに評価されるべき…赤ん坊から大人の女性に成長していく過程が、はっきりわかるし、あの非現実的な衣装を着ているとき以外はオールヌード…というのも、決して容易いものではなかったと思う…ちなみに彼女はこの映画のプロデューサーでもある。

 

また娼館のマダム役を演じたKathryn Hunter存在感は圧巻…彼女は、言わば「アメリカ版白石加代子」のような女優さんで、以前お話しした「The Tragedy of Macbeth」過去記事参照)の魔女役でも、強烈な印象を残した…なんせ今回も「総刺青にコルセット姿」なんて格好が無茶苦茶格好良い婆さんなのだ…

 

監督は「The Favourite」Yorgos Lanthimosだが、「The Favourite」にあった女王の御寵愛争いにおける生々しいリアリティは、この「Poor Things」にはない…むしろ、現実離れしたシュールな世界で自由にアートしてみました!…という感じで、特にビジュアルの美しさは、その道にあまり詳しくない私にさえインパクトがあった…

 

なので、おそらくこの映画はオスカー候補を獲得するだろう…と思うが、私自身これが好きか?!…と聞かれると、いささか微妙ではある…最初そのモヤモヤの原因がはっきりしなかったのだが、同じ様な「女の子の成長譚」である「Barbie」過去記事参照)と比べた時、その理由がはっきりわかった…

 

どちらもビジュアル的に非常にファッショナブルで、シュールな半架空の世界における女の子の成長譚、さらに主演女優がプロデューサーというところまで、共通しているところもかなりある様だが、それをフェミニズムという点から見ると、「Barbie」は女性目線であるのに比べ、この「Poor Things」は一見女性主導に見えながら、実は徹底した男目線で作られた作品である…というところにが大きな違いがある…

 

ベラ(Emma Stone)は、大人の身体に赤ん坊の脳を移植して作られたので、最初は「身体は大人だが中身は子供」という女の子として登場する…そもそも女の子が精神的に一番複雑な成長を遂げ、「ややこしい」時期を迎えるのは10歳から14歳ぐらいの、いわゆる第二次成長期の前後ではないか?!…と思うのだが、この映画ではその期間はすっ飛ばして、イヤイヤ期の幼児から、いきなり性に目覚めたティーンエイジャーになってしまう…その後はSexの事しか考えていないようで、お前はホンマにそれだけでええんかい?!…と突っ込みたくなる…

「女性の解放」=「性の解放」だと勘違いするのは、男性目線のフェミニズムには実はありがちなのだが、はっきり言って、女性が解放されねばならないものは他にも山ほどあるのだ…

 

これはここだけの話、女性にとってのSexは「ケーキの上のイチゴ」みたいなものではないか?!…勿論世の中には「絶対にイチゴケーキが食べたい!」という人もいるように、「絶対に子供が欲しい!」という人にはその重要度は高いかもしれないが、そうでない人には、全くないのも味気ないが、なければないで別にええんちゃう?!…例えば、「安っぽいスポンジとクリームのイチゴ付き」のケーキと、「高級スポンジと美味しい生クリームのイチゴ無し」のケーキなら、私は迷わずイチゴ無しの方を選ぶだろう…大事なのはむしろSexに至る前の段階だったり「愛されていると感じる事」だったりするからである

 

一方「Barbie」の方には、一切Sexは出てこない…その前の段階の「女性でいる事」という問題から、一気に「母娘問題」に飛んでしまうし、ボーイフレンドとの関係よりも自分の人生の方が大事…だったりするのだ…

しかし、「Poor Things」には、その先がないクルーズ船で知り合った友人の影響で、哲学や社会主義の考えに触れ、本を読む様になって知性も発達させたはずのベラだが、その後、仕事に結局Sexを選ぶさながらそれしかできないから…と言わんばかりに?…また、ベラは後に婚約者(こいつがまたいい奴なのだが)に「自分が娼婦であった事について問題を感じないか?」と聞く…のだが、そもそも娼婦が問題やと、お前も思うんかい?!常識に縛られずに自由に生きてたんちゃうの?!…と突っ込みたくなる…

「Poor Things」には、フェミニズムと呼ぶには、この手のズレが多すぎるのだ…それ故、これだけシュールな世界観であるにも関わらず、何となく古臭い…もとい、レトロな印象が付きまとう…

しかし、そういうレトロな作風故に、この映画が好き…という人も勿論いるだろう…

女性を主人公にしていながら、女性のリアリティがあまりにも希薄…というフェミニズム的なツッコミさえしなければ、非常にユニークで、十分に楽しめる映画だろうし、これは男性の意見も聞いてみたい気がする…

 

 

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