こんにちは。ニューヨークで役者やってます、まみきむです。

NYアクターの生活、オーディション、現場での様子、そして独断のツッコミなどをお届けしています。

 

実は公演の期間中は、なるべく時事ネタは避けたかったので、少し前からアメリカ中を賑わせているこのトピックについてもしばらく発言を控えていたのだが、その問題の本質は、実は日本にも通じるものがあるような気がしたので、やはり突っ込ませて頂く…

なので今回はボケません。

 

アメリカ最高裁が、中絶の合憲判断の元となったRoe v. Wadeの判例を覆す判決を出そうとしている…という事が、事前に漏洩したものである。

 

 

日本語の記事は、こちら。

 

この場合漏洩自体については実は問題ではない…これが、その辺に放ったらかしにしていた文書が外部に漏れた…というのなら、「セキュリティもうちょっと何とかせんかい!」という問題になるのだが、この場合はリークした人は「これは絶対に許してはならない。」という事をメディアに伝えるために、敢えて実行したものだからだ…見つかった時にはただでは済まない事も覚悟の上での勇気ある行動をとったその人を、私は「漏洩者」というより「Whistle-blower(内部告発者)」と呼びたい。

 

この前例が覆されるのがなぜ問題か…というと、それによって「中絶を禁止する法律」が全て合憲になってしまうからである。つまり、それまで中絶の権利が保障されていたのは、「それを禁止するのは違憲である」というRoe v. Wadeの判例のおかげなのだ…事実、もしその判例を覆す判決が出たら、速攻で中絶禁止を合法化しようとしている州が、アメリカには22州もあるという…この21世紀に?!曲がりなりにも自由の国を歌うアメリカで?!…このあまりにも時代錯誤な展開に、私も目が点になった…

 

ちなみに、Pro-Chiceを「中絶促進派」と訳すのは、実はかなり無理があるし、何となく意図的に悪いイメージを植え付けようという悪意が見える…むしろ、文字通り「選択促進派」…つまり、「女性に中絶をする選択をする権利を認めろ」という事で、何も「どんどん中絶しましょう!」というわけではないのだ。

 

さらに中絶禁止を訴える側「Pro-Life」と呼ぶが、その人達が問題にする「Life」とはどうも生まれる前の胎児もしくは止まりであるようだ…というのも、その同じ人達が、貧困家庭の子供達への経済的サポートや、教育費のサポート、さらにその安全を守る為の銃規制には、徹底的に反対しているからだ…つまり、胎児の「命」を中絶で殺すのはいけないが、生まれた後は金も出さないし、銃で殺されても全然OK?!

おまけにその同じ人達が、コロナ渦中に「ワクチンを打たない権利や、マスクをしない権利を認めろ!」という…「My Body, My Choice!」という「Pro-Choice」のスローガンをそのまま使い回しているのだから、呆れて物も言えない…

 

また、前にも言ったが(過去記事参照)、「中絶」と言えば、遊びまくっている若い女が、やりまくって気軽に妊娠しては中絶しまくる…というイメージが意図的に植え付けられているようだが、中絶で一番多いのは未成年者、それもレイプによって妊娠してしまったケースで、その中には父や兄による近親相姦も多く含まれる…その次に多いのは、夫婦間…不倫ではない…妊娠したものの、経済的な理由でこれ以上子供が持てない…というケースである…こっちに関しては、経済的な援助さえあれば中絶せずに済むのだが、さっきも言ったように、一旦生まれた赤ん坊の命は、生まれる前の胎児ほど大事にされない

 

今回のRoe v. Wadeの判例を覆す理由は、「憲法に中絶の権利なんて書かれていないから」…というのだが、その中絶の権利を認める根拠は、修正第14条の「プライバシーの尊重」…つまり、中絶しなければならない事情やそのプライバシーは尊重されるべきで、法律で規制してはならない…というものなのだ。

そのプライバシーの保障は、その後の「異人種間結婚」「同性婚」合法化の根拠でもある…なんと1967年まで州によっては異人種間結婚は違法だったのだ?!…私も異人種間結婚だが、その頃アメリカにいたら、もし違う人種と結婚したら逮捕されてしまうわけだ…そして、同性婚が合法化されたのは、ごく最近なのは言うまでもない…

しかし、もしこのRoe v. Wadeの判例が覆されると、それらの「権利」の根拠も揺らぐ…となると、州によってはまた同性婚や異人種婚を違法にする法律を作れてしまう?!

このことから、これらは決して妊娠する年齢の女性だけの問題ではない…のがお分かりだろう…

 

また、合法的な中絶の禁止は、必ずしも中絶そのものをなくす事にはならない…むしろ違法の中絶を増やすだけである。

もそもそも中絶なんて、「合法だからどんどんやろう!」と気楽にやるものではないからだ…たとえ専門家によって「安全に」行われたものでも、やはり身体と精神に負担をかけ、時には傷跡を残す…それでも中絶をする人が絶えないのは、そうしなければならない理由があるからで、それは中絶が違法になっても同じ事…違うのは、その時中絶が必要な女性達は、危険な違法中絶に頼らざるを得なくなる事だ…違法であるから、もし技術的に問題があって死んでも泣き寝入り…実際中絶が合法化されるまでは、そんな風に多くの女性達が殺されていたのだ…選択の権利がなくなるというのは、そういう事である。

また、金持ちは他の州に行ってさっさと中絶できるが、貧困層はそうはいかない…そしてそういう中絶が必要な事情を持つのは、得手してそういう貧困層なのだ…中絶が違法になれば、そういう貧困層にその選択の権利がなくなってしまう

 

確実に中絶を減らす方法もないわけではない…父親になる資格のない男性全員にパイプカット、または精管結索を行い、妊娠させられないようにする…あるいは、妊娠させた場合はDNA検査で父親を特定し、養育費の援助を義務付け、中絶した母親を罰するなら、父親も厳しく罰する…この方が中絶を違法にするよりよほど効果があるはずである!

…というのは、半ば冗談だが、要するに問題は、女性だけに責任を押し付け、その権利を規制しようとしている点である…蛙じゃあるまいし、妊娠は女性だけではできないのだ…

 

こんな風に、弱い立場の人達が選択の権利を奪われている事…というのは、実は日本にもあるのではないか?…まぁ、日本は中絶大国なので、少子化とはいえ中絶の禁止はないと思いたいが、それでもそれは「女性だけの問題」だと思われていないか?…ちなみに「責任を取る」と言うのは、決して「結婚する」ことだけではなく、その「子供の養育費を負担する事」である…という事を、男性の方々はよく覚えておいてほしい。

 

また結婚しても旧姓を保持できる別姓結婚や、同性結婚の選択の自由は、いまだに日本では許されていない…ちなみに、これは先進国では日本ぐらいで、人権問題にも関わると国連から何度も勧告されている…というのだから、かなり恥ずかしい

 

アメリカの恥を他人事だと思って笑っていると、日本も近い内同じ目に晒される…そうなってからでは遅い。

 

 

★過去記事★