こんにちは。ニューヨークで役者やってます、まみきむです。

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最近のグローバル化の影響で、NetflixやApple TVなども、アジアをターゲットにした作品を作るようになり、日本の俳優さんや監督さん達もアメリカのプロダクションと仕事をする機会が増えてきたそうで、その際に、おそらく関係者全員が、そのプロダクションの規定による「ハラスメント講座」の受講を義務付けられるはずである。

これについては、前にも書いたが(過去記事参照)、アメリカの場合、この「関係者」には、下っ端のクルーやBG(エキストラ)までも含まれる…つまり、そのプロダクションに関わる全ての人が、「何がハラスメントなのか」を知り、「絶対にそれをやらない(やった場合は容赦しない)」と言う共通認識を徹底するためである。

 

そのトレーニングで、おそらくほとんどの人が「え、これもハラスメント?!」と驚かれる事だろう…実際私も驚いたが、同時に、そう言う扱いを受けた時に本能的に感じた「嫌な感じ」「ムカついた」「モヤっとした不快感」は私だけではなかったのだ!…と膝を打ちたくなるものも多かった…それは同時に、これまでずっと多くの人がそれだけ不快な思いを我慢してきた…という事でもある。

 

実は、こうしたトレーニングに対して、最初は「ここまでやる?」「これでは何も出来ない!」と言った反応をアメリカでもよく聞いた…しかし、そういう事を言う大半が、実はそういうハラスメントをする立場であった…と言うのも事実なので、そう言う人達は、それまでハラスメントをやりまくっていた人?!…とみなされても文句は言えない…ハラスメント以外に何も出来ない…なんて、そのほうがよっぽど恥ずかしいではないか?!

そしてそういう人達が決まって言うのは、「これまで特に問題なかったのに、なぜ?」と言うのだが、そもそもそれらが問題にならなかったのは、単にそのハラスメントの受け手がひたすら我慢を強いられてきたからに他ならない…ハラスメントのトレーニングは、ハラスメントの被害者に「もう我慢しなくていいんだよ。」と告げ、ハラスメントの加害者に「もうこれからは知らなかった、では済まさないからね。」と宣言したようなものなのである。

 

実はその中に、「相手をNicknameで呼ぶ事」がハラスメントの一つ…というがある。

ひょっとしたら、これは日本人には、少し説明を要するかもしれない。

 

「Nickname」はしばしば「あだ名」や「愛称」と訳されるが、まずこれには「OK Nickname」と「NG Nickname」とがあり、必ずしも全てのNicknameがアウトなわけではない

 

ではどういうものが「OK」かといえば、名前の通称…例えば、「Robert」と呼ぶ代わりに「Bobby」、「Elizabeth」の代わりに「Lizzy」など、自分の通称としてずっと使ってきた呼び方を、本人が相手にもそのまま使って欲しい場合である。

ここで重要なのは、あくまで「本人が望む場合」である事に注意が必要で、他人が勝手につけてしまったものや、ましてやそれを本人が嫌がった場合などは、途端にNGとなる。

というのも、この手の「Bobby」などの愛称は、しばしば子供の頃の呼び名が元になっている場合が多く、大人になってからも同じように呼ばれる事に抵抗を感じる人もいるからである。

 

たとえば、「ヨシオ」という名前の男性が、子供の時は「ヨッチャン」と呼ばれていたのを、大人になってからも「ヨッチャン」と呼ばれ続けたいかどうか?!…これには本人の意思確認が必要で、もし本人がそれを嫌がっても、他人がヨッチャンと呼び続ける場合は、それはハラスメントの一種とみなされる。

 

アメリカは基本的にファーストネームベースなのだが、名前を聞かれた時に「自分の呼ばれたい名前」を伝えるのが一般的で、もし本名と違う場合は、その時に呼ばれたい通称をその時に告げればいい。

(例)「My name is Yoshio but call me Yoshi. (名前はヨシオですが、ヨシと呼んで下さい。)

 

しかし、そう言われたにかかわらず、それを無視して、勝手な呼び名で呼ぶ…というのは、実はものすごく失礼な事なのである。外国人の名前などに、呼びにくいからと言って、勝手な呼び名をつける…などというのも同じで、これはヘタをすると人種差別だと思われる。

 

次に「NG」なニックネームは、相手の容貌などを揶揄したもの…例えば背の低い人を「チビちゃん」、太った人を「関取君」と呼ぶような場合で、それがどんなに愛情を込めた呼び方をしても、これはNGである…これは必ずしも本人が嫌がっていなくても、もし周りの人がそれを聞いて嫌な思いをする限り、やはりNG…そもそもそういう人の外見をおちょくった呼び名は、私はイジメを連想するので、自分が言われていなくても100%不快に思うし、そういう人は多いのではないか?…自分がコンプレックスを抱いている部分を、あだ名にして呼ばれたらどんな気がするか?!…これは小学生でも想像できる事である。

 

さらにアメリカの場合、Petnameと呼ばれる、恋人だけに使うニックネームがある…それらは「Honey」「Sweetie」などの甘系や、なぜか「Cupcake」「Pumpkin」などの食べ物…一体なんでこれが愛情表現なんや?!…と思わないでもないが、おそらく「食べちゃいたいほど愛しい」という意味なのだろう…そういう点でも甘党のアメリカ人らしいと言える…

 

これらは、もし恋人同士がプライベートな場でそう呼び合うような場合は全く問題ない…問題は、それを恋人でもない相手から、しかも仕事の場でそう呼ばれる場合である…百歩譲って、たとえ実際の恋人からでも、仕事場でそういう呼び方をされるのは十分「Inappropriate(不適切)」な行為とみなされる…しかし、女性が恋人でもない男性の上司に、仕事場でそう呼ばれる事は、かつてはそう珍しい事ではなかった…そして、このハラスメントのトレーニングで最大のNGとして禁じているのは、実はこの手の「Petname的なニックネーム」なのである。

 

その理由は、「恋人のようなニックネームで呼ばれる事を許す」のは、「恋人になってもいい」「少し自分に気がある」と誤解(もしくは強引に解釈)し、そこからセクハラに発展させる奴がいるから…あるいは、そのセクハラのスタート地点が、しばしばそのPetname呼びであることが多いからである。

 

確かに、ずっと「〇〇さん」ときちんと名前で呼び、敬意を払っていた相手に、いきなりセクハラ行為…というのはいくらなんでもハードルが高いだろう…しかし、普段から「Honey」とまるで擬似恋人であるかのように呼ぶような馴れ馴れしい間柄を築き、そこからセクハラ行為に踏み込むのは、心理的ハードルはかなり低いのではないか?

百歩譲って、全くセクハラの意思がなかったとしても、仕事の場で恋人でもない女性にそういう呼び方をする…という事は、相手に本当に敬意を抱いていれば、まずできる事ではない

自分は全ての人にそういう親しみの感情を抱くのだ…という人には、「本当に自分の上司や重要顧客に対しても、そういうPetname で呼ぶか?!」と聞きたい…答えは多分「No」だろう。

つまり、これは自分より立場が弱い相手にだからこそできるなのだ。

 

「クリエイティブな場では、そんな厳しい事を言わず、もっと自由でいよう!」…などと言う人に限って、もし自分が、自分より遥に若い人からニックネームで呼ばれたりしたら、実は腹を立てたりするものである…つまり、そういう人にもニックネームが「尊敬を欠く」あるいは「失礼だ」という認識はあるわけである…なら、なぜあえてそれをやりたがるのか?…なぜ自分はやってもよくて、若い人はダメなのか?!

 

大体において、ニックネームで呼ぶ方が、呼ばれる方より立場が強い場合が多い…つまり、ニックネームは立場が強い人だけが使える特権なのである…だから、弱いものがその特権を犯すと「礼儀知らず」とみなされる…逆を言えば、「自分の方が立場が上」というマウンティングのために、相手をニックネームで呼びたがる…という事もあるのではないか?

いわゆる日本の業界で「〇〇ちゃん」とやけに「ちゃん呼び」したがる人の、本当の理由は案外それではないか…という気もしないでもない。

 

本当の親しみと馴れ馴れしさは、実は似て非なるものである…ニックネームで呼ばないと親しみが感じられないなら、それはそもそも親しくない…という事だろう。

本気で仕事をする人達の間に、甘ったるいニックネームの入り込む隙などないプロの仕事とはそういうものではないか?!…という事は、そもそも ニックネームで呼ぶ事自体、相手をプロとして尊敬していない何よりの証拠である。

 

一部の人が「昔は良かった」というその「昔」は、プロとして扱われず、蔑ろにされていた人達の不当な我慢の上に築かれていた事を忘れてはならない。

 

★過去記事★