脳の活動と「私」は無関係ではないものの、脳の活動が「私」を創っているのではない。「私」とは私の事だけではなく、普遍的に存在する主体としての「私」である。

 

 というのは、ドーパミンがどれだけ放出されても快楽物質がどれだけ放出されても、「私」は理性的な行動をとれる。どれだけノルアドレナリンが放出されても、「私」は恐れずに立ち向かえる。どれだけアドレナリンが放出されても、私は冷静に戻れる。神経伝達物質の放出やニューロンの発火やその作用は、「私」の観察対象に過ぎない。

 

 「私」はこれらの、無意識や意識が創った表象的なもの、観察可能なものを観察でき、かつ反証を行える。無意識や意識が創るのは、感情や衝動や言語その他の表象や記憶や行為などだ。「私」とは、もともと記憶など持たないのである。だから原生動物にも当然、「私」が在る。「私」は記憶など持たなくとも唯一無二性を持っている。

 

 前頭葉が理性の座であるとしても、「私」はその理性を観察できる。前頭葉が「私」の理性を司どるというよりも、むしろ、「私」の道徳性によって前頭葉は発達してきたと考えるべきだ。前頭葉の発達とは、「私」の道徳性を線形に時空間的に構造化し、「私」が「私」自身の道徳性を観察するために発達してきたのである。

 

 「私」が、「私」そのものとして「私」を観察できる事は、不思議な事であり、この部分は脳科学では解決できないだろう。

 

 一つの提案としては、まだ未確定ではあるが、「意識と無意識」という区分けではなく、「私」と「意識」と「無意識」が適当ではないかとも思う。そして「私」とはむしろ「無意識」だ。

 

 「私」には今しかない。だから「私」が反証を行ったとしても、「私」は常に過去の反証の先に在る。「私」の反証は常に過去であって、無意識・意識が、その反証を利用し、表象化し、あるいは行為を実行する。だから「私」は自分の行った反証を覚えていない。記憶は「私」の本来的な役目ではない。意識と無意識が「私」に思い出させるだけだ。また「私」の反証というプロセスは必然的に時間幅を持たない事になる。「私」の反証は線形的ではないはずだ。無意識と意識は「私」の反証を記憶し、思い出させる。思い出す時、「私」の記憶は観察可能であり、この事は過去の記憶が今に送り込まれた事を意味する。「私」は今しか観察できないからだ。何を記憶すべきで、何を思い出すべきかは、「私」が何らかの指標を与えているのだろうが、「私」はそれを知らず、無意識だけが知っているということになる。線形的には意識が知っているという事になる。つまり行為のトリガーも「私」が過去に与えているだろう。

 

(精神を病んでいる人は、過去の反証に苦しめられることになる。言語化や表象化されている場合は妄想障害だが、過去の反証は必ずしも言語や表象とは限らず、感情のような前表象でもあり得るのである。しかし、その反証にタグ付けを行い、再現させたのは「私」である。なぜなら苦しみによってこそ実在感を得る事ができるからだ。喜びは非実在、同化、「私」の消失への誘惑だ。楽しい主観体験しかない人生を送っている人は、この世には存在しないと断言できる。実在を求めて、苦しみを求めるからだ。しかしながら、表象や前表象による苦しみは、「私」と無意識の対立構造だ)

 

「私」とは何かといえば、多くの視点が在るのだが、一つは、以前書いたように、「私」とは反証であり、反証を創り続けるメカニズムである。「私」自身が反証であり、唯一無二性を持つ反証であって、唯一無二性を持った反証を自己生成するメカニズムである。言い換えれば、「私」とは唯一無二のイレギュラーであり、唯一無二性を持つイレギュラーを自己生成するメカニズムである。

 

 予想ではノルアドレナリンの分泌タイミングが、このイレギュラーの自己生成のタイミングだ。ノルアドレナリンは常時分泌されているが、このタイミングは「私」のイレギュラー性そのものを顕している。

 

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ノルアドレナリンの本質は 「予測不能性の検出と更新」 にある。

 

以下はChatGPT調べの参考文献

Payzan-Le Nestour, E., Dunne, S., Bossaerts, P., & O’Doherty, J. P. (2013).
 「The Neural Representation of Unexpected Uncertainty During Value-Based Decision Making」 (Neuron, 79, 191–201) が主要な実証研究です。

 The Neural Representation of Unexpected Uncertainty During Value-Based Decision Making - PMC


この研究では、被験者に不確実な報酬タスクをやらせながら fMRI を行い、unexpected uncertainty(予期せぬ不確実性) をベイズモデルで定量化して、脳活動と結びつけています。 その結果、青斑核(locus coeruleus, LC)、すなわちノルアドレナリン作動性の脳幹核が、unexpected uncertainty によって反応することが示されました。 また、皮質領域(後帯状皮質、頭頂葉、海馬など)にも unexpected uncertainty の符号化が見られ、学習率の変動 (learning rate) と結びつくという解析モデルを示しています。 

Bayesian Learning in Unstable Settings
 同じ著者 (Payzan-LeNestour ら) の前段研究 (PLoS Computational Biology, 2011) でも、青斑核 (locus coeruleus) とノルアドレナリンが “unexpected uncertainty を追跡 (tracking)” する可能性が理論的に提案されています。 
Risk, Unexpected Uncertainty, and Estimation Uncertainty: Bayesian Learning in Unstable Settings | PLOS Computational Biology

“Involvement of locus coeruleus and the neurotransmitter norepinephrine in tracking unexpected uncertainty …” という文があります。 つまり、ノルアドレナリン (norepinephrine) は学習率 (learning rate) の調整など、不安定 (volatile) な環境への適応に関わるという考えを、モデル理論と結びつけています。 


理論的背景:Yu & Dayan のモデル
 実験・理論両面でよく参照されるのが Yu & Dayan (2005) の不確実性・神経調節 (neuromodulation) モデル (Uncertainty, Neuromodulation, and Attention)。彼らの理論では、ノルアドレナリン (norepinephrine = NA) が予測されない不確実性 (unexpected uncertainty) を信号する役割を持つという仮説が提示されています。 
Locus Coeruleus in Non-Mammalian Vertebrates

このモデルが Payzan-LeNestour らの実験に理論基盤を提供しており、unexpected uncertainty を扱う計算論 (Bayesian) モデルとの整合性があります。

最近の補強研究
 - Pajkossy, P., Gesztesi, G., & Racsmány, M. (2023) の研究では、反転学習タスク (reversal learning) を使って、予想される不確実性 (expected uncertainty) と予期せぬ不確実性 (unexpected uncertainty) を分離し、瞳孔 (pupil) の拡張反応 (pupil-linked arousal) を使って測定しています。 
How uncertain are you? Disentangling expected and unexpected uncertainty in pupil-linked brain arousal during reversal learning | Cognitive, Affective, & Behavioral Neuroscience

 瞳孔反応はノルアドレナリン系 (arousal system) と強く関連する指標とされており、この実験は brain arousal がunexpected uncertainty とモデル更新 (model updating) に関わっていることを示しています。 


 Jordan, R. et al. (2023) の研究(eLife 誌)でも、視覚‐運動の不一致 (visuomotor mismatches) によって青斑核 (locus coeruleus) が活性化され、ノルアドレナリン放出が起きて、学習/予測更新に関与している可能性が示されています。 

The locus coeruleus broadcasts prediction errors across the cortex to promote sensorimotor plasticity

 

 

 

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 つまり脳は、「私」を予測不能だと判定している。この予測不能性が「私」を唯一無二の存在にしている。「私」が常に先行しているのであり、ノルアドレナリンが追随している。