「強いAI」と「弱いAI」。テクノロジーがビジネスを変える | ビジネス人間学




金融にITや人工知能などを組み合わせた「FinTech」や、あらゆるモノがインターネットでつながる「IoT」などがそうであるように、ビジネスシーンはテクノロジーの進化によって大きく変化しつつあります。そんな時代に重要なのは、新しい技術やビジネスモデルをいかに使いこなすかということ。ところが現実的には(各テクノロジーの認知度も含め)、「どうすべきか」の答えにたどり着いている人はまだまだ少数派なのではないでしょうか?

そこで目を通しておきたいのが、『僕たちは「新しい技術」で生き残る テクノロジーで未来のビジネスをつくる戦略会議』(dots.株式会社インテリジェンス編)。テクノロジーに関する疑問を解消すべく企画・開催されたというカンファレンス「dots. Conference SPRING2016『テクノロジー×ビジネス』で未来をつくる7日間」の内容を1冊にまとめた書籍です。



本書は6章構成で、FinTech、IoT、オムニチャンネルやコンテンツマーケティングなど、最新のビジネスモデルを語るSection Iと、チーム開発やサービス開発に焦点を当てたSection IIの二部構成に分かれています。
Section Iでは、テクノロジーを活用したビジネスの最先端では何が起こっているのか、どんなことができるようになっているのかを。Section IIでは、その世界を実現しているエンジニアはどんなことを考え、どんな仕事をしているのかを、それぞれ各界の第一人者やプロフェッショナルが紹介しています。(「はじめに」より)



きょうはFinTech、IoT、オムニチャンネルなどのテクノロジーを支える基礎技術である人工知能(AI)について解説された序章「人工知能の進化でビジネスモデルが一変する」から、ビジネスへのAIの活用法を探ってみたいと思います。人工知能とはなにか


この項で語っているのは、LEAPMIND株式会社の松田総一氏。同社では、顔の画像データだけでオンタイムのストレスチェックができるミラー型デバイスMonolithや、SNS上に投稿された写真をディープラーニング(深層学習)技術で解析し、トレンド分析を行うマーケティング支援サービスDeep Insightなどを開発しているのだそうです。当然ながらこれらはみな、人工知能の技術をベースにしたもの。

人工知能について語られる場合、「人工知能」「ディープラーニング」「機械学習」が並列で紹介されがちですが、それぞれに微妙な差があると松田氏はいいます。とはいっても、明確な艇後があるわけではないので曖昧になりがちなのも事実。そもそも、人工知能とディープラーニングはなにが違うのでしょうか?

人工知能を語るとき、「強いAI」という表現が使われることがありますが、松田氏は"人工知能らしい人工知能"、すなわち人間の脳のすべてを再現しようとするテクノロジーのアプローチのことを「強いAI」だと考えているそうです。そのわかりやすい例は「ドラえもん」だとか。

「強いAI」は全能で、だからドラえもんは人間と同じことがなんでもできるわけです。しかし、そこには「強いAIは本当に実現可能か」という問題も。人工知能を完璧につくりあげるには、経験というデータや、魂、人格などの人間っぽさが必要。しかし人間の感情に共感するためには、人工知能自身がその経験を積まなければならないというわけです。

もし、「まるで人間のような人工知能」を開発できれば、当然ながらビジネスシーンは大きく変貌するはず。ビジネスシーンどころか、社会全体に多大な影響を与えるであろうことは想像に難くありません。でも、そんな人工知能を開発するためには、私たちが人間の脳や意識について、細部に至るまで完璧に把握することが必要。ところが現実的に考えると、理想的な人工知能がすぐに開発できるとはいい切れないというのが現状だというのです。(10ページより)


ディープラーニングは弱いAI?


では、ディープラーニングはどうでしょう? 位置づけとしては「弱いAI」だというディープラーニングは、人間の脳みそーニューロンの発火信号と、それを伝達するシナプスのネットワークを再現した、ニュートラルネットワークというモデルを多層化したもの。たとえば猫の絵を見せ続けると、猫の概念を自動的に学習したりできる人工知能だといいます。人工知能の一分野ではあるけれども、目的は「人間の機能の一部の代価アプローチ」。特定の処理を機械にやらせ、人間を上回る性能を出すシステムだということです。

ここ数年のディープラーニングの進歩はめざましく、ある領域では人間を凌駕しはじめているのだとか。いい例が、囲碁の対局でディープラーニングがプロの棋士に勝ったことです。囲碁はパターン認識量や計算量が多いため、リアルタイムで処理して人間と対局するのは、従来の人工知能には困難とされていたのだそうです。しかし、マシンの処理速度やパワーが向上し、囲碁の対局に最適化されたアルゴリズムが開発され、勝利が実現したということ。「囲碁に勝つ」という目的設計を明確にすることで、ディープラーニングの革新性が証明されたということです。

松田氏は、ディープラーニングがインターネット時代のビジネスを根底から変えると考えているそうです。ディープラーニングは特定の目的では高いパフォーマンスを発揮するため、その特定の目的を人間が正しく設定すれば、既存のシステムを変えることになるからです。

では実際に、ディープラーニングでビジネスするにはどんな方法があるのでしょうか? すぐに思いつくのが、ディープラーニングシステムのオーダーメイド販売やデータ解析事業。たまったデータを解析し、ビッグデータから未来予測をするわけですが、プラットフォーム事業もディープラーニングを組み込むことで大きく変わると予測できるというのです。

そしていろんな方向性があるなか、松田氏のLEAPMIND株式会社では、特に食品、ファッション、家電にフォーカスして研究・開発しているそうです。家のなかで使うものにイノベーションを起こし、ディープラーニングを使ったインパクトのあるビジネスの変革を目指しているということ。(12ページより)


「機械の目」が既存のビジネスを変える


LEAPMIND株式会社が目指しているのは、「機械の目」をつくることだといいます。つまり、ディープラーニングが自分で必要な情報を検知することを目指しているということですが、それは現在の技術では困難でもあります。

たとえばiPhoneを認識するとき、人は「ここがカメラで、ここがリンゴマークで」と検出していき、それらを組み合わせて「iPhoneだろう」と認識します。これを、ディープラーニング2やらせたいということなのですから、たしかに難しそうではあります。

でも、その技術が進化したら、具体的にはレシピ提案などで効果を発揮するだろうと推測しているそうです。自然界に同じ形のものは2つ存在しないからこそ、ジャガイモなど、自然のものを機械に認知させるのは困難。しかしディープラーニングにジャガイモの画像を何千枚と覚えさせることで、現在、9割くらい認知できるようになったのだそうです。今後は「ジャガイモであれば、いまの時期はこんなレシピはどうですか?」と提案するシステムをつくれば、レシピ提案機能は実現できそうだといいます。

あるいは、トレンド・ターゲティングに役立てることも可能。ある地域を撮った写真に写っている建物、店舗などをディープラーニングが学習し、抽出・解析して「なにがトレンドなのか」を把握するわけです。そうすることで、「銀座周辺はお寿司屋さんが多い」「渋谷にはラーメン店が多い」「浅草のビール会社の社員はコンビニ飯を食べる人が多いが、恵比寿のビール会社の社員は定食屋が好きであるようだ」など、エリアごとに特色のあるデータを収集できるというわけです。

もちろん、そのデータを解析して企業に販売することも可能。また、世界中のインスタグラムのデータを解析しても、ビジネスに役立つトレンド把握ができそうだといいます。

つまりはこのように、ディープラーニング技術には現実世界の複雑な情報を判断できる力があるといいます。だからこそ、ディープラーニングを極めていけば、未来はあらゆるものが知性を持つだろうと松田氏は予測します。現代ではインターネットと現実世界の境界線が曖昧になりはじめているため、あらゆる物体が自分で認知できるシステムが必要不可欠になってきているそうです。そういう意味で、人工知能には大きな可能性があるというのです。(14ページより)





このように、いま注目しておくべき「テクノロジーのフロントライン」がわかりやすく解説されています。カンファレンスの内容を書籍化したものであるだけに、話し言葉で解説が進行していくところも魅力のひとつ。それもまた、読みやすさにつながっているわけです。時代を知るために、ぜひ読んでみてはいかがでしょうか?







引用:http://news.biglobe.ne.jp/it/0805/lfh_160805_7999629490.html