テレビをつけるとPBS、CNN、History チャンネルなどでひっきりなしに9.11のドキュメンタリー番組の告知をやっています。今年で9.11のテロ攻撃からちょうど20年。ドキュメンタリーでは前代未聞のテロ現場の悲痛な状況や人々が負った心の傷についてのみならず、テロが起こった原因や背景についてもしっかり検証しているのかどうかが気になります。

 

これは20年前、世界貿易センターやペンタゴンへの同時多発テロ攻撃直後のジョージ・ブッシュ大統領の会見です。

 

 

感情を抑制しつつもアメリカ国民の悲嘆と恐怖に寄り添い、対テロへの強い決意が表明されています。テロと戦う姿勢は当然とも言えるのですが、それでも私が当時耳にした大統領の言葉には若干違和感がありました。

 

Today our nation saw evil.

I fear no evil.

...yet we go forward to defend freedom and all that is good and just in our world.

 

わが国家は今日、を目にした。

私はを怖れない。

されど我々の世界における自由と全ての善、正義を守るために我々は前進する。

 

それまで英米の国家元首からevilという言葉を聞いたことは一度もありませんでした。そんな強い響きの言葉が何度も使われています。勧善懲悪はその判断を下す側に絶対的な善というものが存在するのでしょうか。テロ首謀者オサマ・ビンラディンはサウジアラビア人。彼は湾岸戦争で出兵して来たアメリカ軍のサウジアラビア駐留に異を唱え、中東イスラム圏での米国介入・支配を一掃したいと考えた。自分たちの陣地に外国人が入り込み西洋化するのは容認できず、大胆な「聖戦」を計画。それが9.11でした。

 

西洋民主主義が「善」でそれ以外は「悪」だという考えではいつまでたっても世界平和は訪れません。9.11の翌月から米英軍がアフガニスタンを攻撃開始し、わずか二か月でタリバンの本拠地カンダハルが陥落。アフガニスタンでタリバンがビンラディンをかくまっているという情報の下に大爆撃を加えたものの最大目的のビンラディンを見つけ出すまでに10年もの歳月が経過しています。ビンラディンはパキスタンに逃げ込んでいた為、居場所の特定に手間取ったとはいえ時間がかかり過ぎ。国土が戦場と化したアフガン国民の苦難は何だったのでしょうか?

 

9.11の翌年、ブッシュ大統領は年頭の演説で北朝鮮、イラン、イラクの三国は大量破壊兵器の保持国だという認識でaxis of evil (悪の枢軸)と名付けて批判しました。

 

2003年には米英軍が今度はイラクで開戦、バグダッドを陥落。その後イラクに8年も駐留した後、イラクの米軍は撤退。イラクで核兵器などの大量破破壊兵器があるという事実を裏付けるものは何も出て来ませんでした。

 

世界の安定を図るという大義名分の元に「善」であるアメリカが、いつでもどこでも爆撃投下、駐留して良いはずはありません。今回勃発したカブール空港でのISIS-Kのテロへの報復空爆で地元民を誤爆したことでもその傾向に変わりがないことが認められます。アフガニスタンでは過去にイギリスとソ連が制圧・駐留して失敗しているにもかかわらず、そこから何かを学んだようには見えません。武力で解決できるという奢りから抜け出せないでいるようです。

 

必ずしもタリバン=テロ組織ではなく、どの組織にも武闘派と穏健派がいるのであれば、むしろ穏健派の実力者を組み入れ、アメリカ軍の撤退後も持続可能な準民主主義の政府を育てた方が良かったのではないでしょうか。歴史や文化の相違に留意せず、その国の在り方や思想への理解無しにして新しい国家建設など成功し得ないはずなのだから。

国連のグリフィス事務次長

 

たとえ武力で一時的に過激勢力を制圧しても隣国に逃れた危険分子たちが力をつけていつかまた戻って来る。アメリカはアフガニスタンでの民主主義国家建設を夢見るばかりで、各部族の長老たちと渡り合いながら灌漑工事を進めた故中村哲医師のような多民族国家への理解に欠けていたのではないでしょうか。

 

ペシャワール会の会報によると中村氏のところには国土を潤す灌漑工事の仕事があると聞きつけ、銃を捨ててやって来た元兵士も少なくはなかったそうです。それは銃より鍬の方が貧しい人の為には役立つということですね。水を得た土地では農産物が育つのですから。

 

そもそも、物事を善と悪に完全に分けるという思想は正しいのでしょうか?人間のすることに完全な善も完全な悪もないと私は思うのです。アメリカは国内政治でも民主党と共和党との二極化が進み、今や二党は相いれない敵同志になりつつあります。どちらも民主主義国であるアメリカの成長と発展という共通目的があるというのに。。

 

私がこの国に移住して来た90年代には両党は歩み寄りや妥協案で合意するということが普通に行われていたのですが、今はお互いの勢力拡大ばかりに力が注がれているように見受けられます。

 

あらゆることを政治化させ、二極思考に陥れるというのはとても危険なことのように感じます。ワクチンを打つか打たないか、マスクをするかしないか。こんなことに政治色が混じってくるのはもううんざり。コロナウイルスには政治が分からないのですからね。党派に関わらず、科学と人間の行動の知恵で収束させるしかないのではと思うのです。

 

長くなりましたが最後に以前書いたこちらの記事で「我々はみんなの為に存在している」ことを感じていただければ幸いです。

 

 

 

 

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