第17話
事件の翌日―――夕方の段階で、意識を取り戻した人はまだいないようだ。有害な細菌やウイルスによる疾患などではなく、やはり精神面での衰弱が著しいようだ。いつ死んでもおかしくないほどの。精神面での衰弱は肉体の防衛体力の低下にも繋がる。細菌やウイルスに感染しないように万全の態勢で看護を続けているという―――
国王の緊急記者会見もあった。テロに屈することなく、全力を挙げて組織の壊滅へ乗り出すと。ガーディアンの投入も言ってた。
トリさん……実は有名人なのかな?
レッダーは馬の散歩に出掛けている。今晩はオレの家に泊まって、明日そのまま一緒にサエラへ経つ。オレはちょっと行くところがあるからと、ライバーと共に家を出て1分。赤い屋根のオシャレなデザイン…リカの家だ。
玄関のインターフォンでリカを呼び出す。
扉を開けて出てきたのは、いつものヘアバンド姿のリカだった。服は、ゆったりした部屋着でハーフパンツだ。扉から見えるすぐ中に、ケアリーもいる。いつもは登場するなりキャッキャキャッキャしているが、少し落ち着いた、しっとりした印象だ。
「ディール、元気?」
声も落ち着いていた。…というより、疲れているのかな?
「ああ。リカは…だいぶ疲れてるみたいだな」
「大丈夫よ。遅くなったけど…助けてくれてありがとう。ニュースずっと見てるけど、ディールとトリさんが助けてくれなかったら、あたし、ここには帰ってこれなかった…」
命の恩人。そんな自覚はないが、リカからするとそうなってしまうのだろう。ちょっと照れ臭い。
「気にすんなよ、らしくないな!」
そう言ってオレはリカの肩を叩く。明るく励まそうとするが、リカは泣き出してしまった。いつも強気で暴力ばかりのリカ。こんな姿はオレでも見たことがなかった。
「あたし…ほんとに弱い…自分の無力さがここまで悔しかったことなんてなかった…!」
ふっ…悔し泣きか。リカは昔からそういう女だったな。
「ミユミユ」
「クック、クック!」
ライバーとケアリーがリカを励ます。
「ニュース見ただろ?リカも狙われるかもしれないから、気を付けて。あまり遠くを出歩かない方がいいよ」
「…ディールは?」
「オレは…研修寝坊して受けられなかったからな!遠いけど、よその支部で研修だけは受けてこようかと。だから明日、ランセットと…あとメリグロウォスで出来た新しい友だちと一緒にサエラに向かう!」
「そうなんだ…あたしも、昨日は研修の資料を配られて、つまらない話をきいて…試しにリュニオンからやってみましょうってところで襲われたの。ケアリーとのリュニオンはうまくいけるけど、教わったのなんてそれだけ。テキストとか資料一式もあの事件でなくなっちゃったから、あたしも分からないことだらけなの」
じゃあ、一緒に行く?―――と、オレは言い出せなかった。
サエラは―――非公開とはいえマインドマスターが集まる。まだ襲われていない協会の支部もある。それは、今後そう遠くないうちに急襲される可能性が非常に高いということ。
リカを危険なことに巻き込みたくなかった。
ん?―――ランセットやレッダーはいいのか?
そういうつもりじゃないけど、二人とも男だから。えっと…ランセットがケンカするから…?
そう考えていくと、自分の気持ち―――考えに、矛盾があることに気が付いた。でも…
「とにかく、リカはゆっくり休んでろ?まだ体調も万全じゃないんだろ?」
そう言ってオレはリカの手を握った。
「ミユ!」
ライバーが一声鳴く。何か言っているようだ。
「ありがとう…心配しないで」
笑顔を作ることなく、大人しく―――それでいてしっかりとリカは答えた。
元々強い女なんだ。オレがそんなに心配するほどでもなかったのかな?
オレとライバーはそのまま徒歩1分かけて自宅に戻った。
ランセットの顔も気になるけど…今日のランセットは戦争中なので、敢えて気を散らさない方がいいか。
レッダーも直にコーンの散歩から戻ってきて、夕飯の前にお風呂に入ることになった。
「なぁディール…今日は別でもいいか?」
脱衣所でそう言い出したのはレッダーだった。
今日も何も、お風呂は普通別だ。最近みんなと入るのが当たり前みたいになってただけ。
コーンはうちのお風呂じゃあ無理がある。キッチンで母さんが夕飯の支度をしながら面倒見ている。
「何かあるの?」
「いや…あのさ…俺、普通は毎日抜くんだよね…」
「あぁ~、そっちか!」
それでオレは全て納得した。服の上からだが、よく見るとレッダーの股間もパンパンになってる気がする。
「オレが入ってる間、部屋使ってていいよ。机の一番下の引き出しに、いろいろ入ってるから、それ使って。レッダーの好み知らないから、気に入るか分からないけどね」
すると、この上なく笑顔で(←いやらしい)レッダーは喜んだ。
「サンキュっ!助かるぜ!」
「レッダー。床やベッドに飛び散らかしたらマジで怒るから!ウエットティッシュとかで押さえてからいってちょうだい」
「分かってますって~」
そう言いながらレッダーはオレの部屋に戻って行った。
「ミユ?」
不思議そうにライバーは首を傾げる。
「気にしなくていいよ、ライバー。オレたちは一緒にお風呂入っちゃおう!」
「ミユミユ?」
「えっと…男っていうのはね…その…」
慎重に分かりやすい言葉を考えながら、オレはライバーに説明してあげた。
ちゃんと伝わったかどうかはよく分からない。
お風呂から上がると、すがすがしい表情のレッダーがいた。
「あー、マジ最高…3回イった…」
「誰もそんなの訊いてないから。早く入って」
「ディール、あれなんなの?ちょっとグッツが充実しすぎてない?」
「うるさいなぁ~さっさと入れよ!」
「おまえ、かなりエロいな~」
「黙れ!さっさと入れ!!」
「………あ……~っ、くぅ~……!!」
オレはレッダーの股間を握りしめて痛めつけた。
「さ、行こう。ライバー!」
「ミユ」
若干ニヤニヤしながら、オレはレッダーを横目に部屋へ戻った。
よくやるスキンシップの一環だが、レッダーは本気で辛そうだった。
ちょっと力入れ過ぎたかな…?
部屋に戻ると、別に何も荒れ果てた様子もなく、きちんと元のままだ。
はっとしてゴミ箱を覗くと、……やっぱりちょっと生臭いような気がした。
あまり気にしないようにしておこう。
さあ…明日はサエラかぁ…
気温も高いはずだから、いつもよりもさらに薄着の方がいいかな?
着替えも少しあったほうがいい。タオル。あと…水着も持って行こう。
「ミユ?」
クローゼットの奥から水着を引っ張り出してきたことに疑問の声を上げるライバー。
「遊びに行くわけじゃないのはわかってるけどさ…遊ぶ時間も少しはできるかもしれないじゃん?」
あまり荷物が多くなりすぎても大変なので、最小限に留めておいた。水着はかさばらない、大丈夫!
レッダーの分はどうしようか。
レッダーの家に取りに戻るのも難しい。現地や行く途中で買うのももったいない。
オレは私服の中からレッダーに似合いそうなものをチョイスした。
タンクトップもレッダーほどじゃないけど少しは持っている。
水着ももう一着くらいならあるし。
サイズはどうだろうか…?
レッダーは少しだけ身長が高い。でもそれ以上に体格がいいからオレのよりワンサイズ上のがいいと思う。だけど一昔前に流行ったピタTじゃないけど、ちょっときつめのサイズの服を着て身体のラインをアピールするのも好きそうな気がする。
だから、まあ、これでなんとかなるか!
「よしっ!」
荷物をまとめ、スリープしてたパソコンを起こしてあげる。
あしたのルート確認。スケジュール。協会の場所・連絡先。一応携帯にもデータを転送した。メールでランセットにも送信。
フィリス先生にも、ことの経緯からサエラに行く旨をメールで送った。
怒られるかなぁ…?
でもこれはオレたちが決めたこと。
やりやいように、やる。正しいと思ったことを選ぶ。
大人がなんと言おうとやるんだ。
マインドを狙う組織の事も少し不安だけど…それでも、オレはやらなくちゃいけないと思った。
「よ、ディール。上がったよ」
風呂上がりのレッダーが現れた。
「レッダー。これからご飯だけど…今日もすぐ寝ようね!」
オレは守りに入った。
「あ…ああ。俺も少し疲れた、かな?」
苦笑いをしながらライバーと共にリビングへ向かった。
夜更かしするとうちは怒られるのもある。
もし明日スケジュールが差し迫ってなければ―――わいわいがやがや夜更かしして騒ぎたい気持ちもあるんだけどな。
確か、女子同士だとパジャマパーティーとかって言うんだっけ?(第2章 DECIDE 完)

