第16話
そうこうしているうちに、オレんちへ着いた。
随分久しぶりな気がするが、いつぶりだろう……一昨日の昼ぶりか!
「へぇ~ここだったのか…」
キョロキョロ見渡しながらレッダーは言った。
「あれ?レッダー、この辺知ってるの?」
「近くに親戚の家があるから、何回か近くに来たことがあるんだよ」
「へぇ~偶然だね。じゃあ、あとでそこへも寄ってくの?」
「いや、いいよ。彼女や友だちの家に寄るわけじゃないんだから」
まあ、そうか。親戚って言っても、年に何回かたまーに会うくらいなんだろう。
それに、メリグロウォスからもあまり離れていないし、来ようと思えばいつでも来れるし。
「ただいまー」
「お邪魔しまーす」
玄関を開けると、奥から母さんが顔を出した。
「ディール、お帰りなさい。それより大丈夫だった?なんかすごいニュースになってるじゃない!」
靴を脱ぎ、消臭スプレーを掛ける。レッダーの靴にも掛けてあげる。
「なんとかね。危ないからあまり外へは出ない方がいいかもみたいなこと言われた。フィリス先生に」
レッダーにも消臭スプレー(靴用)を掛けてあげる。手で仰ぎながら嫌がっている。
「そっちの子は……レッダー君?」
「ちょっ、なんで知ってんの?!」
驚いたのはレッダーじゃなくオレの方だ。
「よく練習試合してたわよね?メリグロウォスのキャプテンでしょ?」
「へへっ、なんか、俺って有名人?」
にやにやしながらレッダーはこっちを見た。
「そんなことはいいから、オレの部屋で作戦会議しようぜ!」
ライバーの足を雑巾で拭いてあげる。コーン…も……ま、まあ、部屋に入れるか。
「ちょっと、その馬、家に上げるの?!」
母さんはビックリして止めに入る。
「くぅ~ん…」
コーンは悲しそうな瞳で母さんを見つめた。
「……大人しく遊んでちょうだい…」
「よっこらしょ、っと!」
荷物を部屋の棚に投げ、ズボンやシャツを脱いだ。
「ずっと同じ服だったから、飽きた」
そう言って、適当に普通のポロシャツを引っ張り出して着る。下は…
「半ズボンとかねぇの?」
ぷぷっと笑いながらレッダーは提案した。
「どれだけ子どもなんだよ?!せいぜいゲーム用のハーフくらいだよ?部屋着にはいいけど、外にそのまま出るのは恥ずかしいだろ?」
ハーフのジーンズもあるが、それはランセットの服とかぶってしまう。
―――いや、あいつももう着替えてるかな?
「あ、これがいいや!」
奥の方から発掘した七分丈のパンツを穿いた。
「っつーかレッダーってさ、毎日タンクトップなの?」
レッダーの家を拠点に活動していた為、レッダーは何度か着替えている。でも、大体色違いとか微妙なデザイン違いのタンクトップばかりだった。まるで筋肉を見せつけるためかのように。
「おう、筋肉を見せつけるためにな!」
明るく爽やかに答えらえた。
ちょっとこっちが恥ずかしい。
オレは椅子に座る。レッダーとライバーはベッドに座る。コーンはそのまま足を折って座った。大人しくていい子だ…。
「そういえばランセットは来ねぇのか?すぐ来るとか言ってただろ?」
レッダーに訊かれ、オレはケータイのメール履歴を確認した。
「うん…ガッコーのレポートの提出すっぽかしてたのが親にバレたみたいで、とにかく今日は無理なんだって!」
レッダーは若干ドキッとした顔になった。
こいつも何かさぼってんな。
「まず…マインドマスターの最初の研修を受けたい!が目的だよね?」
オレはデスクのPCとルーターの電源を入れる。
「あと、昨日の事件のことも何か判明してたら知りたいよな?!」
レッダーの言う通り。そこへ母さんがオレンジジュースを持ってきてくれた。
「母さん、ずっとテレビでニュース見てたから教えてあげようか?」
「いいよ。ネットで観る」
オレはきっぱり断った。
「なんでよ?主婦なめないでよ?」
「そうじゃなくてさ…どうせテレビのこういうニュースって、ナントカ評論家とかうさんくさい人が出てきて、ああだこうだと仮説ばっかり並べ立てて余計に混乱するだけでしょ?視聴者の興味を煽るために敢えてその仮説をさらに誇大してたり」
「まあ…大体、そう…だけど……」
図星だったのか、ちょっと渋い顔をしながら母さんは引き下がった。子どもの作戦会議には昔からあまり首を突っ込ませないようにさせている。
「まずは…マインド協会で検索―――っと!」
Enterキーを押して、協会HPをチェックする。
「…う~ん…特に真新しいことは何も掲載されていないな…事件のことさえ載ってない…」
「それって、HPの更新権限持ってる人が死んだってこと?」
「死んだっていうか、意識不明の一人なんじゃないかな?あとは…状況が混乱しすぎて発表出来てないとか」
協会の組織体系をクリックして閲覧する。
「メリグロウォス支部、本部、世界の本部。同じアドレスになってる。あのオフィスに全部集約されてたってことか…」
「そうだよな…マインドの研究も、うちの国がリードしてやってたんだよな」
他国にも少し関連施設があるけど…外国語圏ばかりで、距離も飛行機を使うレベルの遠さ。
「メリグロウォス内にあるのは、メリグロウォスと…あ、サエラ支部もあるのか!」
「サエラ?遠いじゃねぇか…」
「遠いから支部作ったんじゃない?」
「それもそうか。特別快速とかでも2時間くらいはかかったんじゃね?」
そう、メリグロウォスのはるか南東、海に面した港町。ちょっとした観光地で、海産物とか食べ物が美味しいことで有名だ。ただ、遠すぎて滅多に行くことはない。海なら、もう少し近くにも海水浴場があるし。他にも2つ支部があったが、それはもう離島だとか北の果てとか、さらに遠すぎる。
「サエラ支部のHPはどうかな……あ、トップメニューにでかでかと書かれてる!」
「どれどれ…」
レッダーもPCの画面を覗き込んできた。
マインド協会本部襲撃事件について。マスターが狙われているから注意するように…と。通常業務の停止…マスター認定試験の延期、イベントの中止。そして…
「マスターの安全のためにマインドの放棄だと?!」
レッダーが声を荒げた内容。マインドのマスターが大量に誘拐されたり半殺しに遭ったりしているこの事件を受けて、所有しているマインドを処分することもできるという内容だった。つまり、ライバーやコーンを殺すということだろう。
「たしかに…そうすればオレたちはマスターじゃなくなる。そしたら、狙われるリスクは大幅に減るのかもしれないけど…これは…」
「許せねぇぜ…全くよ…!!」
ライバーを見つめる。
不安そうな眼でこっちを見ている。コーンもそうだ。みんな、何も悪くない。生きてるんだ。自分の身を護る為だからって処分してしまうなんて出来るわけがない。
オレはライバーに優しく頷いた。
「オレが…護る」
「俺たちが、だろ?」
レッダーはオレの背中を軽く叩いた。
「ああ…」
そのためにも。やらなくちゃいけないことがある。
知らなくちゃいけないんだ。この力を……!
オレはサエラ支部のアドレスを開き、そこへ電話を掛けた。
まず、メリグロウォスの支部がなくなったから研修を受けていないことを伝える。使い方も分からずマインドだけ持っててもどうしたらいいのか分からないということ。最低限の知識だけでも知りたいということ。なんとか教えてもらう場を設けてもらえないかの交渉をした。
―――実は、既にディールさんのような問い合わせを何件か戴いております。公式に研修の開催は防犯の点からも控えておりますが、ディールさんのように熱心に学ばれたい方のために、非公式になってはしまいますが、初歩的な取扱い等の研修を行いたいと考えています。そこで急ですが、明後日サエラ支部までお越しいただくことは可能でしょうか?マインドの取り扱いが何日も分からない状態が続くのも良くないことですので、なるべく早めに来られたほうがよろしいかと思います。
よしっ!
オレはサッカーの練習に行こうかと思ったけどオッケーした。他にも、レッダーとランセットも行くと伝えた。電話を切った後すぐオレのアドレスに申し込みフォームが届き、入力して送信するようにとメッセージが入っていた。
「レッダー…明後日、行ける?サエラ…」
熱くなって電話口ではレッダーも行くと即答してしまったが、考えてみればレッダーの予定を確認していなかった。
「当たり前だろ?ここまできて。それに…色々サボるのは慣れてるし、サッカー部は副キャプテンにも任せられる!」
うちは田舎の小規模チームだからサブいないけど、顧問のコーチやマネージャーには話が通じるし、……サボるのは慣れてないけど、今はこれに行くべきだと強く思った。
「あとは…」
オレはケータイでランセットに電話を掛けた。
課題は今晩徹夜して終わらせて、明日電車の中で寝ると言った。サボりは…後から怒られることにすると言った。…多分、あっちは親が少し厳しいから、大変なことになると思う。
