「だからあんたなんなんだよ。いきなり出てきて勝手なことばっかり言って。こっちはいきなりこんな場所にいてわけわかんねぇんだよ」
右も左もわからないまま不気味なばかりの現状に抱えていた不安が男の態度の悪さでイラつきに変換されていく。
「んだよ逆切れかよめんどくせぇ。なんでお前がわかってねぇんだよ」
「やっぱりうまくまわってないんじゃないの?」
言い合う僕らの会話に割り込んでくる女の子。
全く気づかなかった。一体いつの間に…って、浮いてる!この子浮いてるよ!
「ここに来るまでも異様に長かったし、やっぱり全体的におかしいんだよ」
「ったくどうなってんだよ、めんどくせぇ」
見た目的には小学生くらいだろうか、羽根などがあるわけではないが浮遊しているその少女。愛想のない男と違って明るくかわいい印象だ。
とそのとき、辺りに地鳴りが響く。
彼女を飲み込み停止していた黒球がゆっくりと後ろにさがり、180度方向転換。
そしてそのままゆっくり霧の彼方へと消えていく。
「あーあ、持ってかれちまった…。どーすんだよったくよぉ」
「こっちに何とかしてもらうしかないんじゃない?一応今の主役なんだし」
二人の視線が自分に向く。
「……へ?俺?」
「そうだよお前だよ。他に誰がいんだよ。主役さんよぉ」
「主役さんって…初対面で変なあだ名つけるのやめろよ」
「あだ名じゃないよ、君の役職」
「はぁ?役職?」
「そっ。君は今、世界の主人公な訳。ホントになんにもわかってないんだ」
「だからさっきから何度もそう言ってるだろ」
「う~ん…普通はそんなことないんだけどなぁ。まいいいや、えっとね~…」
「待ちなさい」
現れたのは黒いコートに身を包み、左手には本を抱え、丸いフレームの眼鏡を掛けた長髪の男。
「ライター、なんであんたがいるのよ~?」
「ひっきーが外出たぁ珍しいなぁ、明日は嵐か?」
「天気は私の担当ではありません」
眼鏡の男は愛想の悪い男の嫌味を軽く受け流しながら僕の目の前まで来ると僕に軽く触れようとする。しかし彼女のときと同じように男の手は僕の体に触れることは叶わずになんの感触も持たないまますり抜ける。
「やはりそうですか……、説明は必要ありません。記憶がないと言うのならちょうどいい。そのまま帰っていただきましょう」
「えっ、いいの?」
「今はまだその方が都合がいい。まだこちらだけでやれることが尽きた訳じゃありません。今後の選択肢は多く残しておいたほうがいいでしょう。彼女の存在が消えてしまった場合、そのまま主人公になってもらうことだってできるかもしれません。その場合、こちらでの記憶は邪魔にしかなりませんから」
「あぁ、まぁそうだな」
「すみません。我々はあまり他と接する機会というものがないもので、自分勝手な者ばかりで。これからあなたを元の世界に帰します。こちらに来てください」
眼鏡の男はこちらに愛想笑いをかけ、扉の方ではなく先ほどまで黒球のいた方向へと進む。
「あの…」
「気になることはいろいろあるでしょうが知らないほうがあなた自身の為でしょう。安心してください。向こうに戻れば元の日常が待っています」
「はぁ…」
話をしている間に黒球の喰べた街の端まで着いた。そこには何もない世界が広がっていた。霧で見えないとかではない、まるで雲の中でプールの飛び込み台にでも立っているかのような感覚。どう考えても下があるとは思えない。
「それでは、飛んでください」
「………はい?」
「ここから飛べば元いた場所に戻れます」
「おらー、さっさとしろ~」
後ろから愛想の悪い男の面白半分の野次が飛んでくる。
「怖いとは思いますが大丈夫です。この世界はこの道以外、すべて出口につながってます。ここから落ちれば自然と目覚めますから」
眼鏡越しに見える愛想笑い。いやいや、この状況で大丈夫と言われてハイそうですかと平気で飛び降りれるやつがどれだけいるだろうか。少なくとも僕にはそんな度胸もないしそんなに単純にはできていない。
「どうしました?」
「え…いや、どうしましたと言われましても」
「どーーーん!!」
「どわっ!…ったったっっと…ぉ…」
宙に浮く女の子が僕の体を思いっきり押した。なんとかふんばっては見たものの一度外に向いた重心を片足のふんばりだけで盛り返す事なでできるはずもなく……
「おわあああああああああああああああ!!!!!」
僕の体は霧の中へと消えていった。
「ああああああああああああああ!!!」
「いつまでそうしてるの?」
「あああぁぁぁぁぁ………ぁ?」
気がつくと着地していた。
いや、これは着地といえるのだろうか。落下の感覚はないが、いま自分が接地しているのか浮いているのか、はたまた飛んでいるのかわからない。
これまでとは違う、道も建物もない完全に真っ白な世界。霧の白さではなくそこに何も存在しないかのような延々と続く白い世界、自分の足がどこに面しているのかわからない不思議な感覚。
そして目の前には白い半そでのシャツに白いハーフパンツ、色白に白髪の少年がしゃがんで積み木で遊んでいた。
「あっちだよ」
少年はこちらに目をやることもなくうつむいたまま腕を伸ばして方向を指し示す。
その先にはごく平凡なドアがあった。
この少年がなんなのかも気になるがなんと声をかけていいかもわからず、様子を見つつも黙って扉へ向かった。
ノブに手をかけるとドアを開けきる前に隙間から光が溢れ出した。僕はその光に飲み込まれていった。
彼女を食した巨大な玉はコンセントでも抜けたかのようにその破壊活動を停止しその場に沈黙する。
目の前で起きた絶望をきっかけに全身をどっと疲労が襲い、その場に大の字に倒れこみ必死に酸素を求める。
「ハァ…ハァ…なんなんだよ、クソッ…」
腕を顔の上にのせ目を覆い、ぐちゃぐちゃな頭の中を整理しようと思考を巡らせる。
ここはどこなのか、どうしてこうなったのか、彼女はどうなったのか……だめだ、なにも考えられない。目の前の事実を
反すうするばかりでなにも思いつかない。
このどこまでも続く道がどう考えても普通じゃないこと。彼女がすり抜けた事。そして、彼女が最後に言った言葉…
俺を殺したって?それじゃあここは死後の世界、あの世って事か?
道に寝そべったまま辺りをゆっくり見回してみるが、僕の持ってる天国や地獄のイメージとはどちらともまるで似つかな
い。しいてどちらかに分類するなら延々と一本道が続く無限地獄とでも言うのか?
「ほんっと、なんなんだよ全部……ん?」
遠くからなにか人の声らしきものが聞こえる。
ついに耳までおかしくなってしまったのかとも思ったけどそれはすごい勢いでこちらに近づいてくる。
「・・・・ぁぁぁぁぁああああああああああ!!!!・・・っとぉ」
豪快に地面のレンガが砕ける音と同時に噴煙があがる。僕は驚いて上体を起こした。
なんだ、何か飛んできた。またなにかさっきみたいなやつがやってきたのか?
目を凝らすが視界は土煙に隠れてまだよく見えない。
と、その噴煙が晴れる前に中から人らしきものが飛び出してきた。
それは僕の横を雄叫びを上げながら突っ切っていく。
「しゃーーーーーーーーーぁらっっ!!!」
気合のこもった掛け声と共に道路いっぱいにそびえる黒球にとび蹴りを食らわす。
しかし黒球はビクともせず、蹴りを放ったその人は飛び退いて未だ地面に座りこんでいる僕の横に着地した。
「くそっ、やっぱ駄目か……おい、いつまでへたりこんでるんだ」
未だにお尻をついている僕を見下ろしてそいつが話しかけてきた。
「え…はい?」
「お前、どうして助けなかった」
「助けるって…」
「彼女だよ。どうして助けなかった」
「どうしてって、あんなんどうしろっていうんですか!」
「どうにだってなるだろ、お前なら」
「なりませんよ!どうがんばったってあんなボーリングの球100倍にして削岩機くっつけたようなやつ、どうしようもない
でしょ!だいたいあんたなんなんだよ」
不精に伸びきったぼさぼさの髪、ほつれて所々破れているコート、獲物を狙う獣のような鋭い眼の男。
「お前、まだ寝ぼけてんのか?」
彼女にも言われた言葉、まるで僕がこの状況を理解していて当然と言わんばかりの言い草。
「まいいや、お前一旦帰れ」
「は?」
「お前が向こうにいないと世界が崩壊すんだろ、帰れ」
目の前で起きた絶望をきっかけに全身をどっと疲労が襲い、その場に大の字に倒れこみ必死に酸素を求める。
「ハァ…ハァ…なんなんだよ、クソッ…」
腕を顔の上にのせ目を覆い、ぐちゃぐちゃな頭の中を整理しようと思考を巡らせる。
ここはどこなのか、どうしてこうなったのか、彼女はどうなったのか……だめだ、なにも考えられない。目の前の事実を
反すうするばかりでなにも思いつかない。
このどこまでも続く道がどう考えても普通じゃないこと。彼女がすり抜けた事。そして、彼女が最後に言った言葉…
俺を殺したって?それじゃあここは死後の世界、あの世って事か?
道に寝そべったまま辺りをゆっくり見回してみるが、僕の持ってる天国や地獄のイメージとはどちらともまるで似つかな
い。しいてどちらかに分類するなら延々と一本道が続く無限地獄とでも言うのか?
「ほんっと、なんなんだよ全部……ん?」
遠くからなにか人の声らしきものが聞こえる。
ついに耳までおかしくなってしまったのかとも思ったけどそれはすごい勢いでこちらに近づいてくる。
「・・・・ぁぁぁぁぁああああああああああ!!!!・・・っとぉ」
豪快に地面のレンガが砕ける音と同時に噴煙があがる。僕は驚いて上体を起こした。
なんだ、何か飛んできた。またなにかさっきみたいなやつがやってきたのか?
目を凝らすが視界は土煙に隠れてまだよく見えない。
と、その噴煙が晴れる前に中から人らしきものが飛び出してきた。
それは僕の横を雄叫びを上げながら突っ切っていく。
「しゃーーーーーーーーーぁらっっ!!!」
気合のこもった掛け声と共に道路いっぱいにそびえる黒球にとび蹴りを食らわす。
しかし黒球はビクともせず、蹴りを放ったその人は飛び退いて未だ地面に座りこんでいる僕の横に着地した。
「くそっ、やっぱ駄目か……おい、いつまでへたりこんでるんだ」
未だにお尻をついている僕を見下ろしてそいつが話しかけてきた。
「え…はい?」
「お前、どうして助けなかった」
「助けるって…」
「彼女だよ。どうして助けなかった」
「どうしてって、あんなんどうしろっていうんですか!」
「どうにだってなるだろ、お前なら」
「なりませんよ!どうがんばったってあんなボーリングの球100倍にして削岩機くっつけたようなやつ、どうしようもない
でしょ!だいたいあんたなんなんだよ」
不精に伸びきったぼさぼさの髪、ほつれて所々破れているコート、獲物を狙う獣のような鋭い眼の男。
「お前、まだ寝ぼけてんのか?」
彼女にも言われた言葉、まるで僕がこの状況を理解していて当然と言わんばかりの言い草。
「まいいや、お前一旦帰れ」
「は?」
「お前が向こうにいないと世界が崩壊すんだろ、帰れ」
しばらく走ると彼女に追いつくことができた。
後方からは相変わらず黒球の迫る破壊音が響く、振り返ると霧の奥に黄色い目はぼんやりと浮かんで見える。
彼女と僕、延々と続く一本道を走り続ける。
小さなカーブもなければ脇道もありそうにない、どこまでも続くまっすぐな道。
この場所がすべてにおいてまったくの謎なのは相変わらずだがそれ以上にあまりの変化の無さにその謎を解く鍵もまるで見当たらない。
「おまえ・・・ゼェゼェ・・なんか楽しそうじゃないか?」
「え?そぉ?」
もうどれくらい走っただろうか。
男の俺がこんなに息があがっているというのに彼女にはそんな様子が微塵もない。むしろ清清しいほどの笑顔で軽快な足取りだ。
「はぁはぁ・・・なぁおい!」
「ん?」
「なんなんだよあれ!っつーか結局なんなんだよここ!」
「なにが?」
「なにが?…って全部だよ!おまえなんか知ってんだろ。っつーか俺に隠してんだろ!」
「さぁ~」
彼女は僕の問いをすべて軽く受け流す、全くもって答える気はないようだ。
「さぁ~じゃねぇよ…ハァハァ…ったくどこまで走ればいいんだよ。どこまでいってもまっすぐじゃどうにもなんないだろ」
「もう少し、もう少しだからがんばって」
「もう少しってなにが!もう……限界だぞ…」
「ほら、見えた」
彼女は少し見上げるように目線を進行方向より更に先にやる。
霧の向こうにうっすらと周りの建物よりずっと巨大なシルエットが見える。
「あそこまでいけばいいのか?!」
「うん、そう。あそこまで行けばきっとなんとかなるから」
「よっしゃ、もうちょっとだろ。急ごう!」
「うん。それじゃあ元気でね」
「え?なにが?っておい、なにやってんだ」
言葉を投げかけても隣に相手がいないことにブレーキをかける。
僕の数十メートル後方、彼女は走るのを止め、立ち止まっていた。
「私は、ここまでだから」
彼女は少し悲しそうに八の字眉でこちらに微笑みかける。
「はぁ?!なにいってんだ!」
「来ないで!」
歩み寄ろうとした俺に彼女は静止をかける。
「悠は行って。私はここまでしかいけないから」
「なに言ってんだよ。早く行くぞ!さっきのやつがすぐそこまで来てんだぞ」
「さっき手を取ろうとした時、すり抜けたでしょ。もう私とあなたは同じ世界の人間じゃないの。わかるでしょ?それに…」
彼女は顔をそむけたいがためのように背を向ける。
「それに…あなたを殺したのはわたしだから」
「はぁ?」
彼女が俺を殺した?何を言ってるのかさっぱりわかんないが話の内容がどんなものだろうと今はそれどころではない。街を喰らう黒球はもう目と鼻の先にまで来ている。
「いいから今はとにかく逃げるぞ!」
「それじゃあね」
そう言い捨てると彼女は覚悟を決めたかのように凛と立ち、ただただ黒球と向かい合う。
「おいバカッ!それじゃあねってなんだよ!なにやってんだ!」
疲労困ぱいの脚に鞭打って彼女に近づこうとするがうまく力が入らない。一度立ち止まってしまったせいで余計にこたえているのかもしれない、すでに立っているのもやっとな状態だ。
俺の叫びも無情に黒球は迫り、そして…
俺の目の前で彼女を飲み込んだ。
後方からは相変わらず黒球の迫る破壊音が響く、振り返ると霧の奥に黄色い目はぼんやりと浮かんで見える。
彼女と僕、延々と続く一本道を走り続ける。
小さなカーブもなければ脇道もありそうにない、どこまでも続くまっすぐな道。
この場所がすべてにおいてまったくの謎なのは相変わらずだがそれ以上にあまりの変化の無さにその謎を解く鍵もまるで見当たらない。
「おまえ・・・ゼェゼェ・・なんか楽しそうじゃないか?」
「え?そぉ?」
もうどれくらい走っただろうか。
男の俺がこんなに息があがっているというのに彼女にはそんな様子が微塵もない。むしろ清清しいほどの笑顔で軽快な足取りだ。
「はぁはぁ・・・なぁおい!」
「ん?」
「なんなんだよあれ!っつーか結局なんなんだよここ!」
「なにが?」
「なにが?…って全部だよ!おまえなんか知ってんだろ。っつーか俺に隠してんだろ!」
「さぁ~」
彼女は僕の問いをすべて軽く受け流す、全くもって答える気はないようだ。
「さぁ~じゃねぇよ…ハァハァ…ったくどこまで走ればいいんだよ。どこまでいってもまっすぐじゃどうにもなんないだろ」
「もう少し、もう少しだからがんばって」
「もう少しってなにが!もう……限界だぞ…」
「ほら、見えた」
彼女は少し見上げるように目線を進行方向より更に先にやる。
霧の向こうにうっすらと周りの建物よりずっと巨大なシルエットが見える。
「あそこまでいけばいいのか?!」
「うん、そう。あそこまで行けばきっとなんとかなるから」
「よっしゃ、もうちょっとだろ。急ごう!」
「うん。それじゃあ元気でね」
「え?なにが?っておい、なにやってんだ」
言葉を投げかけても隣に相手がいないことにブレーキをかける。
僕の数十メートル後方、彼女は走るのを止め、立ち止まっていた。
「私は、ここまでだから」
彼女は少し悲しそうに八の字眉でこちらに微笑みかける。
「はぁ?!なにいってんだ!」
「来ないで!」
歩み寄ろうとした俺に彼女は静止をかける。
「悠は行って。私はここまでしかいけないから」
「なに言ってんだよ。早く行くぞ!さっきのやつがすぐそこまで来てんだぞ」
「さっき手を取ろうとした時、すり抜けたでしょ。もう私とあなたは同じ世界の人間じゃないの。わかるでしょ?それに…」
彼女は顔をそむけたいがためのように背を向ける。
「それに…あなたを殺したのはわたしだから」
「はぁ?」
彼女が俺を殺した?何を言ってるのかさっぱりわかんないが話の内容がどんなものだろうと今はそれどころではない。街を喰らう黒球はもう目と鼻の先にまで来ている。
「いいから今はとにかく逃げるぞ!」
「それじゃあね」
そう言い捨てると彼女は覚悟を決めたかのように凛と立ち、ただただ黒球と向かい合う。
「おいバカッ!それじゃあねってなんだよ!なにやってんだ!」
疲労困ぱいの脚に鞭打って彼女に近づこうとするがうまく力が入らない。一度立ち止まってしまったせいで余計にこたえているのかもしれない、すでに立っているのもやっとな状態だ。
俺の叫びも無情に黒球は迫り、そして…
俺の目の前で彼女を飲み込んだ。