しばらく走ると彼女に追いつくことができた。
後方からは相変わらず黒球の迫る破壊音が響く、振り返ると霧の奥に黄色い目はぼんやりと浮かんで見える。
彼女と僕、延々と続く一本道を走り続ける。
小さなカーブもなければ脇道もありそうにない、どこまでも続くまっすぐな道。
この場所がすべてにおいてまったくの謎なのは相変わらずだがそれ以上にあまりの変化の無さにその謎を解く鍵もまるで見当たらない。
「おまえ・・・ゼェゼェ・・なんか楽しそうじゃないか?」
「え?そぉ?」
もうどれくらい走っただろうか。
男の俺がこんなに息があがっているというのに彼女にはそんな様子が微塵もない。むしろ清清しいほどの笑顔で軽快な足取りだ。
「はぁはぁ・・・なぁおい!」
「ん?」
「なんなんだよあれ!っつーか結局なんなんだよここ!」
「なにが?」
「なにが?…って全部だよ!おまえなんか知ってんだろ。っつーか俺に隠してんだろ!」
「さぁ~」
彼女は僕の問いをすべて軽く受け流す、全くもって答える気はないようだ。
「さぁ~じゃねぇよ…ハァハァ…ったくどこまで走ればいいんだよ。どこまでいってもまっすぐじゃどうにもなんないだろ」
「もう少し、もう少しだからがんばって」
「もう少しってなにが!もう……限界だぞ…」
「ほら、見えた」
彼女は少し見上げるように目線を進行方向より更に先にやる。
霧の向こうにうっすらと周りの建物よりずっと巨大なシルエットが見える。
「あそこまでいけばいいのか?!」
「うん、そう。あそこまで行けばきっとなんとかなるから」
「よっしゃ、もうちょっとだろ。急ごう!」
「うん。それじゃあ元気でね」
「え?なにが?っておい、なにやってんだ」
言葉を投げかけても隣に相手がいないことにブレーキをかける。
僕の数十メートル後方、彼女は走るのを止め、立ち止まっていた。
「私は、ここまでだから」
彼女は少し悲しそうに八の字眉でこちらに微笑みかける。
「はぁ?!なにいってんだ!」
「来ないで!」
歩み寄ろうとした俺に彼女は静止をかける。
「悠は行って。私はここまでしかいけないから」
「なに言ってんだよ。早く行くぞ!さっきのやつがすぐそこまで来てんだぞ」
「さっき手を取ろうとした時、すり抜けたでしょ。もう私とあなたは同じ世界の人間じゃないの。わかるでしょ?それに…」
彼女は顔をそむけたいがためのように背を向ける。
「それに…あなたを殺したのはわたしだから」
「はぁ?」
彼女が俺を殺した?何を言ってるのかさっぱりわかんないが話の内容がどんなものだろうと今はそれどころではない。街を喰らう黒球はもう目と鼻の先にまで来ている。
「いいから今はとにかく逃げるぞ!」
「それじゃあね」
そう言い捨てると彼女は覚悟を決めたかのように凛と立ち、ただただ黒球と向かい合う。
「おいバカッ!それじゃあねってなんだよ!なにやってんだ!」
疲労困ぱいの脚に鞭打って彼女に近づこうとするがうまく力が入らない。一度立ち止まってしまったせいで余計にこたえているのかもしれない、すでに立っているのもやっとな状態だ。
俺の叫びも無情に黒球は迫り、そして…
俺の目の前で彼女を飲み込んだ。