気がつくとそこにいた。
濃い霧に覆われあたりを見通すことはできない。
ぼんやりと浮かぶ街灯の明かりの並びがどこまでも続くこれが一本道だということを思わせる。
「怒ってる?」
背後から聞こえた声に振り向くとそこには彼女が立っていた。
彼女は言葉を続ける。
「ごめんね、巻き込んじゃって。私のせいでこんな・・・」
少しうつむいて申し訳なさそうに話す。どんなときでも明るくポジティブなのが取り柄の彼女にしては珍しい普段あまり見せない表情だ。
「だけど・・・・ちょっと嬉しかったな。悠(ゆう)があんなに大胆だなんて考えたこともなかった。ぁ、こんなことになったのに嬉しいなんていったら怒る?でも、嬉しかったんだからしょうがないよね、ありがと」
彼女はこの状況に唖然としている僕を無視して徒然としゃべる、まぁそれが彼女のいいとこと言えばいいとこなんだけど。
「なぁ」
「ん、なに?」
「ここはどこなんだ?なんで俺たちこんなところにいるんだ?全然訳わかんねぇんだけど」
「悠ったら、ぼけてるの?…まぁ突然の事だししょうがないか」
混乱してあたふたする俺に対して彼女の表情はまるでこの状況をまるで気にしてないかのように笑っている。
改めてあたりを見回してもやっぱりまるでなにもわからない。
辺りを包む濃い霧、等間隔に続く街灯、道の両端は背の高い影がそびえているのがうっすらとわかる、建物だろうか。
一通り周囲に目をやったあと再び彼女に目線を戻す。
ずっと違和感は感じていたが今気づいた、彼女の服装が白いワンピースに身を包み裸足だ。こんな格好をした彼女は初めて見る。
自分はいうと・・・・・いつもどおりの制服だ。
「とりあえずいこっか」
「行くって・・・どこに?」
「だって急がないと食べられちゃうよ?」
「は?食べられるってなんだよ!ていうかどこなんだってここ」
「ほんとにわかんないの?」
「だから聞いてんんだろ」
彼女は必死に訴える僕を覗き込むように不思議そうな顔をして屈む。
まるで今の状況が当然かのように言われてもどう反応しろってんだ。
とりあえずいつまでも尻をついてるいるのも格好悪いしそろそろ立ち上がろう。
「はい」
腰をあげようとヒザに手をついた僕に彼女が手を差し出す。
「おう」
もう片方の手を彼女に伸ばして掴もうとする。しかし…、
お互いの手は触れ合うことなくすり抜ける。
彼女に掴んでもらうことを前提に荷重をとっていた俺は予定外の事にバランスを崩して再び尻餅をつく。
「なぁ……今、手が」
「ほら、早く立って。置いてくよ」
こちらに背を向けてしまった彼女が催促する。僕の疑問を拒絶するように被せられた言葉は、少し冷たくなっていた気がした。
「いやでも今、手が」
「いいから早く、たぶんもうそこまで来てるよ」
「だからなにがだよ」
「なにって、ほら」
その瞬間、側面を突き破り巨大な黒い球状の物体が道路に飛び込んできた。
「はぁ!!!なんじゃこりゃあ!」
自分達がいまいる道幅よりもずっと直径の広い球体は霧の立ち込めるこの状況でもその存在感はまるで霞まない。
「さぁ立って!走るわよ」
「えっ、ちょ!」
彼女は僕を置いて駆け足で霧の奥へと消えていく。
「おい待てって!」
引き止める俺の声なんてまるで届いてない。
背後の黒い球体がまるで機械が起動するような音を立てながら目を連想せる黄色い光をふたつ浮かび上がらせる。
そしてそれはついにその大口を開け、道も建物も容赦なく噛み砕きながらこちらに前進を始めた。
「だあああああああああ!!!!!」
迫る球体から逃げるように僕も急いで立ち上がり彼女の向かった方へ走りだした。