夏休みに入って3日目。


夜、コンビニの帰りに俺はふと、


彼女の家の前を通ってみた。


それは本当に偶然な事だった。



彼女の家の前を通ったとき、


家の中から声が聞こえてきた。


(窓は網戸になっていた。)


「出て行ってくれや!」「出ていけや!」


交互に聞こえるこの声と凄く大声で泣く女の子。


この3人が誰かはすぐに分かった。


「出て行け」と交互に聞こえるのは両親の声だろう。


そして、この大声で泣いているのは・・・間違いない、彼女だ。


俺は自転車を止めて、耳を澄ましていた。


彼女の両親に会ったことはない。


でも、こんな家庭なのかなと思った。


時刻はもう10時を回っている。


中学生の女の子に、それはないんじゃないか?


何よりも、こんなに大声で泣いているのに、


そんなに2人がかりで責める事ないんじゃないか?


俺はその時、初めて彼女の泣く声を聞いた。


泣く声というか・・・悲しい声を聞いた。



彼女は学校でいつも明るかった。


俺の前で、おそらくはそれ以外の友達の前でも


弱音や、寂しげな仕草なんてしたことがなかった。


そんな彼女が今、こんなに泣いている。


初めてだった、こんなに悲しい声は。


急激に悲しくなった。


好きな人の泣く姿、泣く声ほど悲しいものはない・・・。


そんな大声で泣くなよ。そんなに辛いのか。


「守りたい・・・」


単純にそう思った。


家の中で広がるこの喧嘩の内容なんて知りもしないが


俺にとってはそんな事は関係なく、そう思った。


彼女の家庭内での境遇は分かった気になってた。




次の日、彼女と会った。


待ち合わせ場所に来た彼女はいつも通り笑ってた。


昨日の夜の俺がいた事は内緒にしておこう・・・。


昨日の事など、気づかせもしないいつも通りの彼女がそこにいた。


そんな彼女を見て思った。


俺は彼女にとっての「本当に安らげる場所」になりたいと思った。


俺自身がそんな存在になれたら。少しでも彼女を癒せたら。


「守りたい」


家族がだめなら、彼氏の俺が。


何も出来ないくせに、かっこつけてそう誓った。




『誰も隅っこで泣かないようにと 君は地球を丸くしたんでしょ?


 だから君がいなければ 俺は隅っこ探して泣く 泣く』


                      ♪有心論