私はいつも主人の散髪をしています。
結婚前からやっているので、主人の頭髪の変遷は、ひょっとすると本人よりも敏感に感じ取っていたかもしれません。
すでに頭髪が後ずさりしてきた方、頭頂がやけに冷えると感じてきた方、必ずその前に、「おや?」っと思った時期があるはずです。
わが主人も同じです。そう、かなり前の話になります。
そんな時期に、私の学生時代の友人から一本の電話が入りました。なんでも、とある化粧品の販売をしているとか・・つまりセールスの電話でした。
あまり化粧品にお金をかけるタイプではない私は、一応お付き合いに、洗顔クリームと栄養クリームを買いました。(決して安くはありません)
友人は帰り際に言いました。「私の主人は、この洗顔クリームを使って洗髪をしたら、抜け毛が止まって、今はふさふさと保っている」と。
けなげな私は決心しました。この高級洗顔クリームを主人に使わせよう!
それから数週間後、
「これのせいで、これのせいで・・・」 「は?」
そうです、値段が高いから有効だとは言えないのです。後で調べて分かったことですが有効どころか、真逆の事をやってしまったのです。
助けを求める手に、革靴がそれを踏みつける、そんなドラマのように、私は1本、2本を大事にする時期に、束にして引っこ抜くような事をしてしまったのです。
よろよろになった人間に、後ろからど突いたようなものです。
そしてその結果・・・風前の灯・・・
「薄くなっても、たとえ禿げあがっても私の気持ちは変わらないよ!」と取って付けた様なことを言っても、虚しく響くだけ。
私は主人の「毛」にそれなりの責任があります。
そんな頭髪を、私はず~と散髪をしてきました。
つい最近、札幌で展示会もあるという事で、「そろそろ髪を切ってもらいたい」と。
いつものようにナショナルの「カットモード」を充電し、準備万端。
裾は3mm、中間6mm、そして最後のトップは9mmとリズミカルにカセットを変えていく。
あえて説明はしませんが、このトップの9mmの段階になると、髪の毛そのものがあまり引っかからなくなる・・
私はいつものように順調に作業を進める。
が、今回はいつもと様子が違う。
トップの9mmになっても、軽快に、いつも聞くことのない「ジョリジョリ」という音が心地よく聞こえてくる。
さすがの私も、その異変に気が付いた。
慌ててカセットを見ると、そこには「3mm」と・・9mmのはずが3mmと・・
のけ反る気持ちをぐっと抑え、そっと9mmに取り換える。
しかし、普通でさえ9mmではあまり髪の毛が引っかかってこないのに、3mmで掻き削った後に、9mmでやっても引っかかってくるはずもない。
ナショナルの「カットモード」は、スカースカーと虚しく頭頂を滑っていく。
鏡を見ていない主人は、今自分の髪の毛に何が起こっているのか知る由もない。
ああ、もう元には戻らない、であれば、黙っていよう、私はいつもより無口で仕事を終える。
こんなアクシデントがあったにも関わらず、その後主人は何も言ってこない。
そうか、3mmでカットしても分からないくらい毛が少なくなったのか~、私は私なりに納得していた。
がしか~し、現実はそう甘いものではなかった。
数日後、運転する私の横で主人は
「いつもと違うんですが・・・」