約束の地で | One of 泡沫書評ブログ
- 約束の地で (集英社文庫)/集英社

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著者の馳星周が、『少林サッカー』で著名な周星馳(チャウ・シンチー)氏のファンであり、ペンネームをそこから取ったというのは有名な話であるが、本名の「坂東齢人」が、レーニンにあやかって名付けられたのは案外知られていない。(まあ、今はWikipediaがあるので、この手のトリビアはまず最初に語られるネタだろうがw)
又聞きのさらに又聞きのためほとんど信憑性は無いことをまずお断りしておくが、わたしが大学時代に聞いた話では、かれの父親は熱心な共産党の支持者であり、北海道という土地柄もあって、そういう思想的なところでの葛藤がずいぶんあったらしい。こうした大人たちが、多感な齢人少年に与えた影響はいかほどであっただろうか。
オムニバス形式の短編5編が収められた本作は、『不夜城』や『ダーク・ムーン』、『マンゴー・レイン』のような、血しぶきをあげる描写は少ない。そうではなくて、北海道の田舎を舞台に日本的な絶望をこれでもかというほど描き出していて、田舎の出であるわたしにとっては余計にリアルに感じられる。正直言って読むのがしんどい作品であった。劉健一に感じた「ブラックなカタルシス」は得られない、別の意味で救いようのない話であった。ただただ寂しい、哀しい読後感である。
解説の志水辰夫氏の評がすばらしいので、まずそちらをご一読いただくというのも一興かもしれない。

