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ちきりんさんが夏休みの読書として紹介していたもの。そのとき過去の書評にもリンクが貼られており、非常に興味深い書評だったためすぐに書店に出向き買い求めてみた。
一読して衝撃を受けた。たしかにここにはすごい世界が書かれてある。これは久々の「広く読まれるべき本」であろう。この手の話題は、文字通り読書以外の手段では知り得ないのではないか(マスメディアや行政はこうした難しい問題には及び腰になりがちだ)。著者の山本譲司氏は議員秘書時代に詐欺容疑によって実刑判決を受け、収監されている間にこの問題に気づいたという。ちきりんさんも言うように、人生は何がきっかけになるか本当にわからないものだ。
個人的に蒙を啓かされたのは、聴覚障害者の世界観のくだりである。我々聴者はものを考えるときに言語をもって考える(頭の中でしゃべる)が、元来耳の聞こえない聾唖者はそうではないはずだ。そうすると、文字を読むときのアプローチも自ずと異なり、何かを考えたりするときの脳の働き方も、聴者のそれとは違うかもしれない。そうした差異によって生じる世界観の違いがあるということに、わたしは本書を読んではじめて気づいた。これはひとつの例に過ぎないが、おそらく多くの読者にとっても目から鱗であろう。これを読むと、健常なる方は、「普通の生活を営んでいる」という事実に罪悪感を感じ、こうした書評を書くこと自体に偽善を感じるかもしれない(わたしは、本書読了後もなんら福祉に関する活動をしようと思っていないし、現に何もしていない)。それでも、本書が広く読まれることだけは期待したい。単に知識として得るだけでも、知らないよりはマシだと思うからだ。
本書は2006年に単行本が上梓されたようだが、本文からはその時点での日本における福祉行政の難しさがにじみ出ており、著者の苛立ちも伝わってきた。しかし、文庫版(2009年)のあとがきによれば、わずか数年で大きな「前進」が生まれていることがわかる。関係者の継続的な活動もさることながら、本書の出版が大きなきっかけになったのであろう。「ペンの力」は改めて偉大だと思う次第である。