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この稿を書く直前に池田先生の本が電子化されていたので少しだけさわりを読んでみた。要らない本は読まずに捨てろ(サンクコスト=埋没コストだから読まない方が合理的)とか、古典なんか読んでも挫折するだけだからまず入門書を読めとか、相変わらず見も蓋もないことが書いてある。経済学にコンプレックスを持ち、その前には数学を復讐しなければならないと思って小島寛之氏の本を買い求めた私涙目。
と、いうことでこの本は前回に引き続いて経済学がいかに役に立つかというのを専門家がやさしく解説した本。ある意味、経済学史の趣がある内容だ。わたしのように、経済学者といえばアダム=スミスから一気にマルクスとケインズまで飛んでしまうような「バカ」にとっては、ハルサーニとかセンとかギルボア、シュマイドラー、ロールズといった、どちらかというとマイナな経済学者の理論はあまりなじみがなく、正直、頭に残らなかった。もちろんこれはわたしの記憶回路のほうに問題があるのであって、本自体は良くできていると思う。単になじみがないことで記憶が定着しにくいのだろう。
ただ、どうやら著者の専門が「数理経済学」「意思決定理論」というものであり、後半に著者自ら語っているように、著者の目指す方向性は、推論に依拠した意思決定を経済学的に導くという、先ほど述べたギルボアとかシュマイドラーといった先達と同様の研究分野であるらしい。そのためにやや専門にバイアスがかかっており、あまり一般的な経済学の紹介とは言えない。したがって昨今流行りの金融政策や財政政策などをを学ぼうとする人には向いていないだろう。
ということで内容についてはあまり理解できなかったのだが、印象に残ったのは小島氏が自らの生い立ちと、こうした歴代の経済学者たちの生い立ちを重ね合わせているようにみえることだ。著者はこれらの経済学者の生い立ちと、当時の時代背景を簡単に解説し、一見ドライな印象を与える経済学者の心の中に、世の中を少しでも良くしたいという希望を読み取って感動したのだろう。それが副題でもある「みんなをより幸せにするための論理」というところに現われているように思う。なかでもとくに、ノーベル経済学賞を受賞したセンのエピソードなどは印象深かった。アマルティア・セン。たった数ページで理解できたとは思えないが、非常に心に引っかかった人物だった。いずれ論文を読んでみたくなった。
小島氏の本はこれから学問を志そうとする初学者にとって、「勉強もなかなかおもしろそうだ」と思わせる良い導入書となるだろう。参考文献や論文もちゃんと巻末に掲載されていて良い。
それにしても、ここのところいろいろな経済学の入門書(?)を斜め読みしているわけだが、あんがい専門家にとっては当然(?)の「功利主義」とか「労働価値説」とか、経済学の初歩的な概念の理解がないことに気付く。こういう経験を繰り返すと、だんだん理論や学説の整理が余計に混乱して、本を読む前よりもわからなくなってしまう。やはり本来は教科書をまず最初に読むことが一見回り道のように見えて一番いい方法なのだろう。わかっていながら、横着なのでつい新書でお手軽に知識を得ようとして失敗を繰り返してしまう。実際、本文中には著者の本である「文系のための数学教室」を参照しろとの記載があるが、以前に同書を読んだはずのわたしは何の話かさっぱりわからず、危うく同じ本を二冊買うところだった。素人は勉強するだけ無駄なのだろうか・・・。
文系のための数学教室 (講談社現代新書)/小島 寛之

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