7割は課長にさえなれません | One of 泡沫書評ブログ

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それは、クダラナイ内容でも、自分の言葉で書くことに意味があると思うからです。

7割は課長にさえなれません (PHP新書 648)/城 繁幸
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昨日発売されたという城さんの新著。中身は相当平易に書かれているので、2時間もあれば十分読める。体調が悪かったので2日かかってしまったが・・・急いで書評して、少しでも売り上げの裾野を広げたいと思える内容。この本は明確な若者に向けたメッセージであり、われわれのような無知な若者世代こそが読むべきだと思うからだ。だから少しでも多くの人がこれを読み、投票行動となって政治家に影響を与えるようになってもらえればこの国の状況も少しはよくなるだろう。


同じような労働市場の改革論に八代尚宏さんの本があるが、少し専門的にすぎ、また学者が書いた本という意味で読書をしない層には敷居が高いだろう。そもそもハードカバーだと読む人は限られる。そういう意味でも、手に取りやすい新書で出したのは大変に意味があるだろう。本文中の「大日本商事」のたとえ話も秀逸だw 対象とする読者層は明らかにあまり本を読まないような層であることがわかるが、そのために非常に話が単純すぎて、もう少し専門的な部分を議論したい人には物足りない内容かもしれない。これは対象読者が異なるからであって、内容の軽さをもって批判するのは少しお門違いの気がする。


労働市場改革の経済学/八代 尚宏
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しかし、そういう意味では城さんの本もいくぶんは工夫が必要かもしれない。たとえば「経団連」「連合」という言葉が割と前触れなく出てくる。ようするにこの程度は前提知識として持っているはずだということだろうが、いまどき労働組合とかを目の前で目にするのは国営系の企業(NTTとかJR)とか、日本を代表する超巨大企業(パナソニックとかトヨタ)くらいでしか目にしないため、(この本が読者層だと想定しているような)若い世代はそもそも「労使対立」というものがどういうものなのかイメージがわきにくいと思う。だから、このあたりも少し解説があるともっと良かったかもしれない。


一方でアマゾンでやたらと評価が高かった大久保幸夫さんの本は今一つ消化不良だった。なぜこんなに評価が高いのだろうか? わたしなどは、かれ自身がこの本で何を言いたいのか今一つ理解できなかった。


日本の雇用--ほんとうは何が問題なのか (講談社現代新書)/大久保 幸夫

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この違和感の正体は何だろう、とぼんやり考えていたのだが、要するに雇用の専門家(?)という立場上、現在の労働市場について大枠では批判を加えることができないという制約があるのではないか、と思う。「新卒一括採用により若手の失業率を低く抑えられている」とか、「第二新卒市場が整備されたため、やり直しがきくようになった」とか、基本的には現行のシステムの組み替えでうまくいくというような論調が多いように思う。そのうえで、各自で考えてがんばれ、という話だ。雇用調整助成金についての議論も迷走気味だ。労労対立という構造にも慎重に交わしているようにすら思える。全体的に、今のやり方の延長線上に解決策があるというのがそもそもナンセンスな気がする。

そして最も重要なことだが、違和感の一番の理由は、経済成長の話と雇用がリンクしていないところだろう。だいたい雇用というのは経済活動に従属する話であって、雇用だけ考えるというのはナンセンスだろう。働き方とか雇用条件とか言う前に、どうやったら生産性が伸びるのか、新しい産業に人をシフトしていくのかというのが見えてこない。大久保さんの場合、(多分にポジショントークもあるのだろうが)ひたすら雇用が云々というから、結局何がしたいのかわからなくなるのだろう。

(まあ、これは「雇用」の本であって、「労働市場」の話ではないよ、ということかもしれませんがね)