- 外資系企業で成功する人、失敗する人 (PHP新書)/津田 倫男
- ¥756
- Amazon.co.jp
その名もずばり、外資系企業でやっていくためのハウツー本。やや劇画的な表現が多く「それホント?」と聞きたくなってしまうが、著者の経験を通して得られた実感なのだろうから、それなりに真実をついているのだろう。とはいえ、奥付に見る著者の外資歴は7年間だ。これを長いと見るか短いと見るかは、それこそ本書を読んでから判断してほしいが、うがった見方をすれば、「もしかして、これって外資をドロップアウトした著者のルサンチマンなんじゃ?」とも思える。それくらい、ここで登場する「匿名」のボスや同僚たちは身も蓋もない。
しかし、それを割り引いて考えたとしても、ここに書いてあることが本当に外資系のアウトラインだとしたら・・・わたしはとてもやっていけそうにない。それくらい、外資系企業というのは、教育やら文化やら、何から何まで「日系」一本でやってきた人間にとっては身も蓋もないものとして描かれている。その獰猛さは、肉食獣、というよりも、個人的には”猛禽類”というイメージのほうがしっくりくる。のんびり日本語の壁に守られている場合じゃない! という強迫観念に駆られたりするほどだ。あまりにもわれわれの常識と違いすぎて、こういうやり方でどうやって組織が円滑に回るんだろうか? と思ってしまうほどだが、それはきっと、わたしが日系しか知らないからなのだろう。
われわれはつい、「外資系」というと米国資本を思い浮かべてしまうが、実際はそれだけではないし、そこで働くホワイトカラーたちも様々なバックグラウンドを持つことを忘れてしまう。この点、本書ではヨーロッパ、華系、印系などもバランスよく記述があってためになる。といっても最後の方にちょっとだけ書いてあるだけだが。
わたしが個人的に耳にしたり、目にしたりする外資系(金融系)の企業はとてもこんな印象は受けないが・・・それはおそらく、わたしのカウンターパートが日本人ばかりだからなのだろう。きっと管理職層や経営層はこの本に書いてある通りなのかもしれない・・・本当のところはわからない。まあ、これから日系企業を出て外資系に転職する人は、読んで損はないと思う。
さて、ちょっと本筋からはそれるので以下は時間のある人だけ読んでほしい。わたしが個人的に強く感銘を受けたのは、欧州系におけるホワイトカラーに見られるスノッブぶりと、それに対応するために必要な「教養」の必要性について書いてある点だ。
日本においてはもう「教養」なんてものを見かけるのは、大学1年生のときくらいだろう。もしかしたら、今はそれすらもないのかもしれない。それくらい、日本は階級格差のないフラットで「民主的」な国になっているが、こうした教養がまだエリート層に浸透している国家(英国とか)にすれば、ハイクラスなホワイトカラーに教養がないほうが違和感を感じるそうだ。まさに、エリートと非エリートを分ける見えない壁といえる。
わが国にも、かつてはちゃんとエリート層がいた。日本の場合は中国の影響を強く受けているから、エリートの徳目は儒教だった。だから論語を中心とした四書五経が、上流階級に要請される基本知識としてまさに「教養化」していたわけだ。逆に卑しい出の人間は、読み書きそろばんができればあとは要らない。士大夫以外が余計な知識を得るのは有害だという考えがあったのだろう。
しかし今や階級はもとより、「知的エリート」とか「知識階級」みたいな存在はすでに消え去り、現在はすでに大学全入時代となって久しく、小中高は言うに及ばず、大学でも分野が違えばこういう教養は一切やらない。徹底した教養の排除と極端な実学指向は、もちろんみなさんご存じの通り戦後の奇跡的な復興と、世界史にもまれな超急速経済成長を下支えしたが、逆に一般的な教養というのを無駄なものだという空気が蔓延してしまった。
しかし今は、少なくとも欧州系のホワイトカラーにとっては、こうした一見無意味な「教養」こそが、その人の「格」を底上げし、信用を増す効果があるというのだから皮肉なものだ。