- 希望を捨てる勇気―停滞と成長の経済学/池田 信夫
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池田さんの本。すばらしいと思う。
何がすごいって、とにかくわかりやすい。誰しも今の日本に閉塞感を感じているだろうし、景気後退にかんするマスコミ情報の胡散臭さに辟易していると思う。しかし、ではなぜ閉塞しているのか、そして何がどう胡散臭いのかはなかなか説明できないものだ。しかし、本書はほとんど網羅的に現代の閉塞感の原因を解き明かしている。
通常、既得権益層(というより、マスコミ)の多くは何やら社会学的な発言をする際にある種の胡散臭さが付きまとうが、なぜ胡散臭いかというと、自分の所属する何かに遠慮しているからだろう。(中にはまれにモリタクのように金儲けに徹している人もいるが、多くの偉い人は本音で語れない”大人の事情”があるのだと思う。) 著者の場合は誰にも遠慮しないから、現実はこうだとあっさり直言する。だからわかりやすいのだと思う。
著者も断っているとおり、これは著者が過去にブログや雑誌で書いたことの再録だから、そういう読者にとっては内容的に真新しいところはない。しかし、そうはいってもやっぱり一冊の本にまとめられているところが良い。ソフトカバーで読みやいところも吉だ。
読みどころを引用しようとすると引用だらけになってしまう。「事後の正義」とか「退出障壁」とか「補完性」とか、説明を受けると「ああそうなのか」と膝を打つ経済的なエッセンスが超わかりやすく紹介されている。
分量的には243ページという少なさで、これ以上要約しようがないほどだが、あえてわたしなりに敷衍すれば、本書のエッセンスは以下の通りだろう。
「今の日本はオワタ。原資のない所得再配分では衰退していくだけだ。成長を続けるには今の産業構造、労働市場を変え(構造改革)て、イノベーション(革新)を促進するしかないが、今のままでは構造的に無理で、衰退するしかない。でも、逆に考えてこのまま衰退してくというのも一つの手だ」
最後の一文は著者の真意を外している(単なるわたしの思い込み)かもしれないが、著者はブログなどでも「幸福と富はイコールではなく、むしろ両者はトレードオフの関係にある」と分析しており、必ずしも経済的に豊かになることが幸せへの道ではないと説明していた気がする。むしろ、社会が成長した後の衰退は成熟した国家が必ずたどる道であり、豊かさの意味を見直して生活の質的向上を目指すべきではないかと説く。あとがきにもこうある。
「日本のように経済的に成熟した大国が急速な成長を続けることは不可能だし、それは望ましいとも限らない。多くの調査によれば、一人当たりGDPと「幸福度」の相関は低く、日本は所得は高いのに幸福度では世界で90位前後だ。単なる富の増大よりも、むしろ安定した生活や公平な社会を望む人が多い。所得の量を増やすことより、生活の質を高めることを考える時期だろう。
経済学では、単純な功利主義にもとづいて幸福(welfare)と富(wealth)を同一視し、資源配分の効率(つまり富の最大化)を目的としてきたが、これは自明ではない。行動経済学の実験によれば、多くの人が効率よりも公平を重視する。経済学では、効率と公平は別の問題だと考えてきたが、実際には両者にはトレードオフがある」
人生金がすべてじゃない、というレトリックは、何も考えずに語ると単なる資本主義否定論者の妄言になるが、経済成長とのトレードオフとしてとらえれば傾聴すべき意見になり得るということだろう。もちろん単に経済成長を諦めようというのではなく、成熟した国家に相応しいバランスのとれたトレードオフを意思決定していくことが求められるということだ。
というか、いろいろグダグダ書いてしまったが、本書を読んだ方が早い。ぜひ読んでください。
池田先生、民主党のブレーンになるか、大臣にでもなったらいいんじゃないでしょうか。本当に。