日体大 箱根シードはく奪に異議「陸上部員400人が連帯責任理解できない」
このニュースは、日本体育大学陸上部が、所属する陸上部員の大麻事件を受けて、「関東学生陸上競技連盟」なる団体から追加処分を受けたことに対して、処分は不当と徹底抗戦の構えを見せているというもの。以下、ニュースより日体大側の主張と、それに対する連盟側の回答を引用する。
【日本体育大学側の主張の骨子】
〈1〉大麻、偽札の件はいずれも現状では立件されていない。
〈2〉当該学生を既に退学処分としたのに、約400人の部員に加え新入生にも連帯責任を負わせることは理解できない。
〈3〉当該学生が所属した男子跳躍部門は無期限活動停止などの処分を下し、部長ら責任者を解任したにもかかわらず、部全体が処分の対象になったのは理解できない。
〈4〉出場禁止期間を「3か月」とした根拠は何か。また、同期間後に行われる箱根駅伝など3大駅伝にペナルティーを科すのはなぜか。
【関東学生陸上競技連盟側のコメント】
送付したとの報告は受けたが、まだ文書を確認していないので何とも言えない
これに対して、Yahoo!のコメントには多くの意見が寄せられていた。Yahoo!のニュースに残されるコメントは世相というか、標準的な世論が垣間見えて非常に興味深い。
こういうレベルの議論は、おそらく主張している人も、「私もそう思う」ボタンを押してしまう人も、あまり深く考えてはいないものと考えられる。本当は、日体大がどうなろうと、別にどうでもいいのだと思うし、自らが所属する組織が同じ目に逢った際にどうすべきか、という観点から語られたものでもないと思う。要するに「飲み屋での放言」レベルである。
だが逆に、いやむしろ、だからこそこのコメントこそが我が国の「世論」の最大公約数をなしているとも思える。世論というのもおおよそ同じような仕組みで形成されるものだからだ。そういう意味で、私はYahoo!のコメントをいつも楽しみにしている。ここには、我が国の「常識」が詰まっている。
Yahoo!のコメントは時間がたつと消えてしまう(?)ので、ここではあえて一部のコメントを抜き出してみた。なお()書きの数字は、「私はそう思う」のポイント順である。
----------(以下、引用)----------
(1)
私もそう思う:3,237点
私はそう思わない:445点
ならば、汚職をした政治家のいる政党はどこも連帯責任をとらなきゃあいかんなぁ。
あと漢検は組織解体しなきゃな。
(2)
私もそう思う:2,504点
私はそう思わない:1,561点
なぜ連帯責任なのか理解できなければ
「特待制度」も「推薦制度」も「その他助成制度」も全くない所に行けばいい
理不尽であっても組織が、又はその一員が犯したことで
組織構成員が被害を被るのも、理不尽であっても、これまた世の中というもの
いやなら組織を抜ける「権利」は当人にはある
理不尽さを享受すべきどうかは個人の裁量の範囲ですが
組織から恩恵を受けている以上、納得できなくても受け入れるべきと思います
当然、理不尽さには時代による変遷があるのですが
出場辞退とか、1年間活動停止とかという前時代的なものでなかっただけ
個人的にはマシだと思います、チャンスはあるわけですから
(3)
私もそう思う:2,454点
私はそう思わない:1,369点
自分だけ責任取れば何やってもいいのか?自分が退学になるだけでは済まない問題もあるということ。こんなことを考えている学生には抑止力としても「連帯責任」は絶対必要。そんなことも理解できず「あいつが悪いんだから俺たちは関係ない」なんて、大学生にもなってそんなこともわからんのか。やはり不祥事を起こして強引に箱根に出た某大学が悪しき前例となったようだ。
(4)
私もそう思う:2,382点
私はそう思わない:2,228点
大麻ではなく殺人を犯したら、
異議申し立てするだろうか?
高校生と違い節度のある大人が、
犯罪行為を犯したのだから当然の処分。
陸上部として真摯に受け入るべき。
(5)
私もそう思う:1,884点
私はそう思わない:2,889点
全くその通りだと思います。
処分は当事者だけで十分、いつまで連帯責任の処分をしているのでしょうか?
こういうことをすれば部員内の雰囲気も悪くなり、将来性のある選手が陸上競技を断念する人もでるかもしれない。
マイナス効果ばかりでプラスになることはほとんど無いと思います。
----------(引用ここまで)----------
こうした意見を並べてみると、我が国における「常識」が垣間見えてくる。おそらく、十数年前なら「連帯責任当たり前」という声が多数を占めただろう。だが今は、「いまどき連帯責任なんて時代遅れ」派も一定数いるようである。乱暴に分析すれば、だいたい意見が二つに分かれているようだが、傾向としてはやや「連帯責任当たり前」派のほうが少し多いように見受けられる。また、一方で「連帯責任当たり前」派も、「連帯責任時代遅れ」派も、現職の政治家の不祥事については同意見というのもなかなかワイドショー的で、いかにも「世論」みたいである。
さて、ここまで述べておいて私の見解を保留にするわけにはいかないだろう。陸上競技はまったくの門外漢だが、この件については、論理的には日本体育大学側のほうに分があることが明らかである。したがって法的には何ら強制力および妥当性がないはずの「関東学生陸上競技連盟」が、日体大に対する重い処罰を下した理由には、Yahoo!の掲示板での議論に代表される「行間」が原因であると推測する。私なりに敷衍するとその「行間」のポイントは以下のとおりである。
(1)日本において、法を犯す以前に、倫理に悖る行為をしたことは許されがたい。
すなわち、実刑や起訴、立件の有無を問わず、疑わしいことがすでにひとつの罪悪となる。
(2)スポーツはとくに神聖であるべき。特に学生スポーツではクリーンかどうかがもっとも重要である。
(3)多くの加盟者からなる団体は、法的になんら拘束力や強制力がなくとも、「村八分」という強力な権力を行使することができる。
ということで、論理的な根拠は薄弱であるが、我が国における暗黙の倫理には大きく抵触するため、連盟の下した結論のほうが現状では妥当である、というのが、私の結論である。おそらく多くの人にとって非常に説得力のある判断なのだろう。これは、私などがどうこう言えるレベルの議論ではないかもしれない。
いわゆる正攻法(理詰めで攻めていく)ではダメなパターンであり、日体大としてはいかに周囲の同情をひくかというアピール、プレゼンテーションで勝負するしかないであろう。あまり強硬に対抗しても連盟の態度を硬化させてしまうため、なだめたりすかしたり、うまく世論を誘導していく必要がある。また、最終的な落とし所としては、日体大には大変申し訳ないが、間をとって、「他の2大会は涙をのむが、箱根駅伝にだけはせめて出場させてもらう」くらいで妥協することも(カードの一つとして)覚悟したほうがいいかもしれない。
(・・・と、ココまで書いておいて、どうやら日体大が連盟の裁定を全面的に受け入れた(?)旨のリリースを行っていることに気付きました(こちら )。本当に一罰百戒的な裁定が下されたようです。結局、3大会の出場はどうなったのかここではうかがい知ることができませんが、学長の無念さが伝わってくるようです。ここから先は興味がわかないので、日体大のその後についてはめいめいで調べてください。)
山本(七平)先生がよく指摘していたように、こうした事件を受けて、「では、今後もこのようなことが起きる可能性があるため、あらかじめ加盟団体に所属する部員、学生が刑法に抵触するような罪を犯し立件された場合に、連盟としていかなる処置をとるか具体的に決定しておこう。執行猶予の場合は本人の退部・退学処分および当該大学の直近3カ月の大会出場停止としそれ以外のペナルティは原則認めない。一方で実刑の場合は・・・」という動きにならないのが、我が国の文化であろう。おそらく今後も同じような「行間の読みあい」は続くことになると考えられる。一方の説く常識ともう一方の説く常識のどちらが正しいのか、妥当であるのか。時代とともに移り変わる「暗黙の了解」は、今後10年でいったいどちらに振れるだろうか。そもそも「関東学生陸上競技連盟」なる団体が何を目的とする組織で、どのような権限を持つ組織なのか判然としない状況では、今後も同じことが繰り返されるのではないかというのは杞憂ではないだろう。
2009年4月30日追記:関東学生陸上競技連盟は、箱根駅伝等の陸上競技大会を主催する団体ということでした。組織の目的は明らかだったわけですね。よって、本文中で「したがって法的には何ら強制力および妥当性がないはず」などと主張しましたが、そもそも主催者であるわけですから、加盟団体の選別をする権限は明白に有しているようです。よくよく調査せず書いてしまい、大変申し訳ありませんでした。なお、自戒の意味をこめ、あえて誤解を招く表現部分は削除しません。