楽園の眠り | One of 泡沫書評ブログ

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世の中にいったいいくつの書評ブログがあるのでしょうか。
すでに多くの方が書いているにもかかわらず、なぜ書評を続けるのか。
それは、クダラナイ内容でも、自分の言葉で書くことに意味があると思うからです。

楽園の眠り (徳間文庫)/馳 星周
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主題とまったく関係ないが、ホリエモンこと堀江氏のブログは非常に示唆に富んでおり、一見の価値ありであろう。もちろん異見を唱えたいエントリもたくさんあるが、内容はおおむね真摯に書かれており、逮捕されてからこっち、氏の見識は年齢相応の落ち着き(というより、一般の人に対する配慮?)がみられるようになった。


常々思っていたが、ふだんから他人と意見が違う状態に置かれていたり、意見の異なるひととの議論に慣れていないと、安易な二元論に陥ってしまい、せっかくの気付きや提言も見逃してしまう。学校の先生などが往々にして浮世離れしてしまうのはこのあたりに理由があるのではないか。わが身を振り返ってみても、高校や大学のころは大変に視野が狭く、それこそ「2.26事件」の青年将校のように純粋まっすぐであった。思い当たる節のある方は、ぜひ意識的に「反論者の意見に耳を傾ける」努力をしてみてはいかがだろうか。




さて本作は馳星周の作品である。もともと小説はあまり好んで読まないのだが、京極夏彦と馳星周だけはなぜか気になってときどき手に取ってしまう。馳といえば、「不夜城」で一世を風靡し、日本の小説に「ノワール=暗黒小説」というジャンルを持ち込んだパイオニアで、わたしもずいぶんと読んだ。とくに「不夜城」の最終部「長恨歌」は出色の出来で、読み終わった後は、正直、震えた。人間の根源的な悪意と哀しみを描かせたら馳の右に出るものはない。しかし、売れっ子作家に共通する隘路に馳も陥ってしまったのか、似たような作品がつづくため、正直食傷気味であったのも事実だ。ネタばれを恐れずにいえば、「同性愛」「セックス」「主人公が死ぬ」的なパターンである。「マンゴー・レイン」「漂流街」「虚の王」「雪月夜」「ダーク・ムーン」・・・等々。しかし、まあ、結局のところわたしはこのパターンが好きなのだ。


しかし、本作はこれまでの馳作品とは一線を画す、なんとも物悲しい小説であった。扱う題材はなんと「幼児虐待」。しかも登場人物に悪人がいない。人死にもほとんどない。主人公すらも救いがなく、感情移入できない傾向にある馳作品の中にあって異色の出来といっていいのではないか。終盤の展開も、なんだか筆になめらかさが足りず、なんとなく序盤の伏線を無理やり回収したかのような出来で、勝手な想像を言えば馳自身書いていて恥ずかしくなったのではないか? とすら思えるほどであった。うまく表現できないが、多作の作家にありがちなあまり練りこまれていない脚本とでも言おうか。東野圭吾などはあまりに多産であるためこうしたある種の「手抜き」がまま見られるのだが、馳はその真逆の作風であったはずだ。そういう意味でも、かなり意外な展開であった。


作家はデビュー作を超えるために作品を作るといわれるが、さもありなんという感じだ。とりあえず、馳作品は「不夜城三部作」から入られることをお勧めしたい。「長恨歌」の劉健一がカッコよすぎる・・・


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