- ものがたり史記 (中公文庫 ち 3-44)/陳 舜臣
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中国の歴史を平易に書いてくれるのは陳舜臣。これは、司馬遷の著した超有名な歴史書である「史記」を、物語風に優しくダイジェストしているありがたい本である。ものすごく短いがそれでいて史記のエッセンスがつかめるという、忙しい現代人にはまさにぴったりな本といえよう。
「史記」について簡単にふれておこう。「史記」は、今から約2,000年以上前に司馬遷というえらい歴史家が書いた、中国で初めての歴史書である(*1)。まあ難しい話はWikipediaでも見てもらうとして、ひとつ重要なのは、この「史記」が今の歴史という概念を語る上で外せない、まさにエポックを作ったといっていい史書であることだろう。
「史記」は、いくつかの編に分かれており、具体的には「本紀」「表」「書」「世家」「列伝」の五つから成っている。この中でもとくに、為政者の記録である「本紀」(ほんぎ)と、それを助ける武将(日本でいえば、御家人?)たちの記録である「列伝」の二つが重要である。「史記」のように、重要な政治家の営みを基本に歴史を描写するような書き方のことを、「本紀」と「列伝」から文字をとって「紀伝体」といい、以降の歴史の記述方法としてスタンダードになっている。キーマンとなる人物の一生を幹として話を追うかたちであるから、物語として非常に読みやすいのが紀伝体の特徴だ。対して、出来事があった順に並べていく叙述法を「編年体」と呼ぶが、こちらはやや無味乾燥な記述になりやすい。ただし、紀伝体のように同じ出来事を何度も描くことがないため、同時代の出来事を把握しやすい。
さて、作者である司馬遷を語る上で、李陵そして宮刑の件ははずせないが、私はこのあたりのことに明るくないので、割愛させていただく。(小学生のころ、漫画で司馬遷のこのエピソードを読んだことがあるが・・・あれはトラウマだ)
そんなことはさておき、陳さんの本はまるで小説を読むように設計されているので、難しく考える必要はない。ものがたりは、殷王朝の暴君、紂王と、悪女と呼ばれた妲己の時代からはじまる。有名な酒池肉林や太公望の時代である。そのまま殷はほろび、次に周王朝が建つわけだが、陳さんはちゃんと天命が革(あらた)まる、すなわち革命のこともちゃんと教えてくれている。まあこんな感じで、「奇貨おくべし」の呂不韋から政、秦の始皇帝、司馬遼太郎で有名な項羽と劉邦、呂太后までを描いて以上230ページ。
陳舜臣はものがたり史記のバージョンアップ版として「中国の歴史」という本も書いているので、もっとちゃんと知りたいという人はこちらを読むといいだろう。私は4巻くらいで中断しているが、はっきりいってこれよりわかりやすい中国通史は日本にはないと思われる。専門家になる人はともかく、歴史を知りたいというレベルの方はまず陳さんの本から入るといいと思う。
(*1)正確には初めての「正史(当時の政権が正式に発表した歴史)」であるが、それ以前の歴史書は伝説であるのでこういう表現としました。