人間集団における人望の研究 | One of 泡沫書評ブログ

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人間集団における人望の研究―二人以上の部下を持つ人のために (ノン・ポシェット)/山本 七平
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人望について研究したという書。


「人望」、このポピュラーのようでいて、その実、中身のよくわからない魍魎のようなもの。山本七平はこうしたあいまいな存在を言葉で説明し、言葉に還元する術にかけては他の追随を許さない。本書は著者の晩年の著であり、また紙数も少ないため、いい感じに肩の力が抜けた、氏の著の中では比較的読みやすい部類に入るだろう。


本書のサブタイトルは「二人以上の部下を持つ人のために」である。ご賢察のとおり、これは当時のサラリーマンの処世を説いた「ビジネス書」である。「人望」。この不思議な概念はいったい何であろうか。山本氏は「人望」の正体を明らかにするだけでなく、それを身につけるための具体的な「対策」まで説明してくれる。私などは浅学にして朱子の「近思録(きんしろく)」などと言われてもピンとこないが、山本氏はこの古典や「旧約聖書」などを用いて当時の(もちろん現代のわれわれにも通用する)サラリーマンに易しく説明する。「教養主義」が忘れ去られて久しいが、やはり読む人が読めば古典も十分現代に通用するノウハウ集になりうるという証左であろう。大学で「一般教養」をやるのも、一部のエリートに対する回りくどい帝王学と考えれば、まあ無駄にはならないかもしれない。(もちろん、多くの学生には退屈極まりないであろうが)


なお本書が上梓されたのは昭和58年、当時の時事ニュースを織り交ぜて敷衍するものだから、それから四半世紀も過ぎた今となってはことばの意味がわからない。「無党派市民連合」「コスモ・エイティ」とか言われてもなぁ・・・。私などはまだ毎日お昼寝をして、温めたミルクをおやつとして飲んでいたよ。


さて、ここまで書いてきて、「じゃあその人望を得る方法ってなんだよ」と、書に当たるつもりがない粗忽者のために、本文91ページに非常に端的に説明されているものをここに抜粋しよう。


「―――『近思録』には「具体てい中間目標は、九徳である」とは記されていないが、「九徳最も好し」とあるから、具体的には、これに到達することを目指せばよいであろう。(中略)次に挙げると


(一)寛大だが、しまりがある

(二)柔和だが、事が処理できる

(三)まじめだが、ていねいで、つっけんどんでない

(四)ことを治める能力があるが、慎み深い

(五)おとなしいが、内が強い

(六)正直・率直だが、温和

(七)大まかだが、しっかりしている

(八)剛健だが、内も充実

(九)剛勇だが、義(ただ)しい」


こうして引用すると非常に「なんだ、そんなあったり前なことかよ」と思えてしまうが、まあ真実は言葉にすると平凡なものだという真理であろう。なお、言うまでもないが実践してみようと思った方は、私のこのまずい引用で満足せず、本書に当たっていただきたい。せいぜい500円ちょっと、250ページ程度の薄い文庫本である。買って読んでください。


また、このほかにも、部下を持った時の心構えについて山本氏の意見を拝聴したいという奇特な方がいれば、私は迷わず次の本をお勧めしたい。


帝王学―「貞観政要」の読み方 (文春文庫)/山本 七平
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それにしても、最近、山本先生の本がよく復刻されてるなぁ・・・と思います。余談ですが。