辞書というものはとても面白くて、あの日以来、われは辞書の虜なった。
しょうさまの言葉はいつも難しかったけれど、わからないことは辞書をひいて理解すると言うことを繰り返していた。
「潤、ページを捲る音が止まないな」
しょうさまが笑いながら言う。
その声も聞こえないくらい夢中になっていたわれは、
「じゅーん」
そういわれるまで呼ばれていることにがつかなかった。
『はい、なんですか、じゃなかった、なんでしょうか』
慌てて音を立ててしょうさまのところに行く。
「大辞林は愛読書になったな。敬語まで覚えたのか。
本当に、お前は頭が良い。
その順能力には頭が下がる。
せっかく敬語も覚えてきたのだから、所作も覚えなくては行けないな」
[所作]急いでページを捲る。
たちい、ふるまい
?????
「俺はな、昔から身に付けられているから教えてはやれるが、上手く出来ているかの判断をしてやることはできない。
いづれお前を連れて演奏会にも行くつもりだから、その時にお前がバカにされたりしないようにしたいんだ。
執事に命じておくから、その時間は集中して勉強しろ。
早く覚えるんだぞ。
……その、な、お前がいないと寂しいから、な」
!!!
しょうさまが、われがいないと寂しい?え?え?え?
すごく、嬉しい!!
『がんばります!はやくおぼえます!しょうさまにはじないようなおつきのひと?になれるようになります!きょうからでもいいです!われも、われも、』
「潤、早い早い」
『……われも、しょうさまのそばにいられないのはさみしいし、かなしいです』
耳がとっても熱い!
でも、われの心は決まってるんだ!
しょうさまのおやくにたつこと!!
ぎゅーっと手を握ったら、しょうさまは空いた手でわれを抱き締め、額に口唇をあてた。
「潤、かわいい潤。
俺はお前が好きだよ」
せ、せ、接吻!
われは、天にも舞い上がる気持ちだった。
『われも、しょうさまがすきです』
その口づけが小さな恋の始まりだった。