ああ、捕まってしまった。
どんなに踠いても頸に回した手が強くなるだけ。
逃げられない。言い訳をしようともわれには声がない。
なら。と力を抜いてされるがままにする。
「あ、おい!」
案の定、われの力が抜けたことで狼狽える男性。
今だっ!
緩んだ腕をすり抜けて飛び出そうとしたら、
「なーんてね」
ぐっと腕を掴まれ捕らえられてしまった。
あっ!
「これでも声は出さねぇの?あっ!とか普通いうだろ。意地を張ってんのか?それとも俺の事バカにしてんのか?」
ギリギリと腕の骨がきしむほどに力一杯掴みながら苦々しくいう言葉に、われは夢中で首を横に振っていた。
ちがう、ちがう、ちがう。声がでない。伝える術を知らない。それだけなんだよ。
われだって、伝えられるものなら伝えたい。なのにこの人はきっと……目が見えない。
表情で伝えることが出来ない。
伝えられないもどかしさは、われの瞳から涙に変わっていた。
ただ、屋根のあるところにいたかっただけなのに。風も吹かず身の安全も省みず眠れるところにいたかっただけなのに。
われの涙が男性の手に当たったのだろうか、
「泣くんだったら訳を言え!
えっ?あ、冷たい。何だこれ、氷の粒?」
何を言われているのかわからない。ただ、掴んでいない方の手でわれの頬を触り、狼狽えたような声を出した。
冷たいって……なに?