やばい、気配を消された。音も聞こえない。
焦るな、息遣いだけはどんなに我慢しても我慢しきれずに聞こえてくるはずだ。
葉擦れの音に隠れたいつもとは違う音を探せ。
自分の耳を信じて音を探す。
この温室の中の音はいつも聞いているんだ。その中に入り込んだ違和感は俺の耳は必ず探し出すことが出来る。
自分の身の安全のためにも目が見えないと言うことをわからせないことが必要だ。
たぶんだけど、草を踏む時の身の軽さと、息の音で考えれば俺よりも小さな身体のはずだ。変に抵抗されない限りは俺の目が見えないことを除けば何とでもなる。
「いい加減にしないか!出てこいって言っているだろう?変に抵抗しなければ何もする気はないんだ。
出てきてここに居る理由さえ言えば、なにもしない、ここにいてもいい」
くそっ!猫なで声を出しても自分の位置をわからせないように息を止めているな。
じりじりとする。
俺が目が見えないことがわかれば、何をしてくるかわからない。目的がわからなければ、踵を返してここを出ることも出来ない。
ここが俺の安寧の場所であるためには侵入者を追い出さなければ!
「言っていることはわかるんだろう?何もしないから出てきてくれないか?いつまでも息を潜めているわけには行かないだろう?
なんなら、ここに居ることを許してもいいから」
ガサッ
俺の言葉に動揺したのか、草を踏みにじる音がした。
そこかっ!
俺は恐怖を飲み込み、音のする方に走った。
息を飲む音。手を伸ばし草むらの中に手を突っ込む。
その俺の手が握ったものは細い、細い手首だった。
「捕まえた」
ジタバタと踠いても俺の方が力が上だ。しゃがんでいるだろうそれをぐいっと引き上げ、その首だろうものに腕を巻き付ける。
「力もねぇくせに抵抗するんじゃない。このまま頸をへし折ってもいいんだぜ」
低い声でそう言えば、
ひゅーと言う息遣いが聞こえた。