妄想恋愛シミュレーション -98ページ目

FRATELLI 第1章ー3

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第1章ー3


(尋弥)


次にゆうさんに会ったのは、翌月の月初め。


いつものように【FEBR】の編集室に出かけた時だ。


S出版社は、銀座に新しく建ったばかりの洒落たビルに引っ越したばかりだ。


白い艶消しのガラスをふんだんに利用しているから、白を基調とした内装に柔らかな光が反射して、優しい光で満ちている。


ロビーを行き交う人たちも、自信と気品に胸を張っているようにみえた。


そんな中、髪をだらりと下げ、俯いて早足に歩いている後ろ姿は、俺の視線をすぐに抜いた。


ゆうさんだ。


ロビーの真ん中に堂々と流れるエスカレーターを通り過ぎ、その奥の3基あるエレベーターも素通り。


一体、どこへ行くんだよ。


気になって背中を追いかけると、ロビーの一番奥、階段室と書かれた白い扉にスーッと消えていった。


確かに。


階段なら、そうそう人と会う事もない。


S出版社はこのビルの2階から4階までを占領している。


【FEBR】の編集室は4階にある。


迷わずエレベーターを選択した俺は、ゆうさんよりも早く風間さんの元へとたどり着いていた。


「もうすぐ、ゆうさん来ますよ」


「あれ?会ったのか?」


「いえ、階段室って扉に入ってくゆうさんの後姿を見かけたんです」


「おお、そうか」


風間さんは、相変わらず、どうってことない顔してそう言った。


数分して、ゆうさんが到着した。


おどおどとガラスの扉を押して入ってくる。


スタッフの人たちが挨拶の声を掛けても、決して視線を上げないし、表情を崩す事もない。


「おう、お疲れ。変わりはないか?」


ゆうさんは、バッグの中から取り出した茶封筒を、スウッと差し出した。


「サンキュ。ゆうさ、この後、別に何もないだろ?1時間くらい待てる?また別件があってお願いしたいんだよ」


「・・・別件・・・」


ゆうさんの空気のような声を初めて聞いた。


「そう、うちのマタニティ向けの雑誌で、特集記事の絵入れをお願いしたいってさ。単発だからいいだろ?」


ゆうさんはコクリと頷いた。


「今からちょっと会議だから、その間応接で待ってて。尋弥は対談、いつもの取材室な」


風間さんは俺のコラム担当の朝倉さんを呼んで、応接と取材室の用意を依頼した。


応接と言っても、編集部の隅に低いパーテーションで区切られただけの狭いスペースだ。


質素な2人がけのソファがローテーブルをはさんで向かい合わせに置かれている。


朝倉さんは、ゆうさんをそこに導いて、そして俺の名前を呼んだ。


「尋弥さん、そろそろ行きましょうか」





対談が終わり取材室を出ると、ちょうど会議から戻ってきた風間さんと会った。


「もう昼だな。尋弥、忙しいか?ランチでもどう?」


「オゴリッすか?」


「なんだよ、お前の方が稼いでるだろうが」


そう言いながらも、どうやら奢ってくれる流れのようだ。


風間さんは自分のデスクに資料をドサッと置くと、パーテーションの向こうで待っているゆうさんに声を掛けた。


俺もパーテーションの上からそっと覗く。


1時間も何をして待ってたんだろ。


ローテーブルの上に数冊の単行本が載っていた。


表紙の絵を見ただけで分かる。


俺の大好きな作家の、大好きなシリーズもの。


スピード感と意外な展開で、毎回楽しませてもらってる。


「ゆう、お待たせ。今からランチ行くぞ」


ゆうさんは、え?っと小さく呟くと、首を横に振った。


「たまには付き合えよ。ほら、行くぞ」


風間さんはゆうさんの腕を強引に掴むと、ソファから引きずり立たせ、ぐいぐいと引っ張るように連れ出した。



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