さて、夜。
 
大量の同意書と入院の手引きを持って、私は座っていました。
 
よりによって嫁さんは飲み会。
 
一旦世間話をしてはダメだ。帰ってきたところですぐに話さなくては。
 
何を話すかは考えてない。とりあえず今までの経緯と状況の説明をするしかない。
 
21時を過ぎて、嫁さんが帰ってきた。それほど酔ってはいない。
 
飲み会での話をする前に、ちょっと話があるんだけど、と言って、イスに座らせた。
 
「実は、今日病院に行ってきた。」
 
嫁さんはえ?って感じだが、もはや口を挟ませず、一気にしゃべった方が良いと思った。
 
胃カメラでがんが見つかったこと。
紹介された病院に一人で行ったこと。
入院の日程が決まったこと。
そして、事態は相当深刻であること。
 
最後に、同意書の束と入院の手引きを出した。
 
嫁さんの顔から血の気が引いて、首から玉のような汗がボタボタと流れ落ちるのが見える。
 
そりゃそうだ。何も知らずにお酒を飲んで帰ってきたら、3日後に入院。
しかも、がんを取り出す手術すらできるか分からないなんて。
 
検査をしなければ、本当の状況は分からない。手術できるかどうかでもおそらくだいぶ違うだろう。
 
けれど、この時の会話は明らかに「死」を前提としてものであったと思う。
 
嫁さんは何も言えない状態だったが、一言だけ。
 
「これから病院には絶対付き添うから」
 
そう言うと、少し落ち着いた様子。
 
まず、誰に話すべきか。
 
同居している親には話さざるを得ない。
会社にだって話さなければいけないだろう。
じゃあ子供は?兄弟は?
 
結局、子供には「悪い虫をやっつける」とごまかし、兄弟には検査入院とだけ知らせた。
 
みなさんのご想像どおり、私はこの期に及んでも怖いとか、なんで?とか、思っていませんでした。
余命宣告されている現在よりも、死を覚悟してましたが、まったく恐れてなかったことを思い出します。
あまりの急展開だったのがよかったのかもしれません。
 
こうなれば事実を受け入れ、できることをするだけ。
 
まず、がんである、という事実。
おそらく末期に近い状況であるという事実。
 
そして、私にできることは何もありません。
なので、入院に向けて、いそいそと小説やゲーム機、iPadを用意して、暇を潰す準備をしました(笑)。
 
嫁さんも一度受け入れると仕事が早い。
私よりは不安を感じてたでしょうが、黙々と入院に必要なものを準備してくれます。
 
そして、約束事として、とりあえずはがんについて検索しない、ということにしました。
今は余計な情報を入れない方がいい。
 
まずは検査の結果が出てから。
 
かくして、準備万端の体勢で、私は手術できるかどうかを検査する入院をしたのです。
 
ちなみに、病院には必ず付いていく、という嫁さんの約束は、ケンカをしたときに1度だけ破られました。
ケンカの理由は・・・もはや覚えていないようなこと。病気の事じゃないというのがポイント(笑)。
 
しかも、抗がん剤をしないという決意を話す大事なタイミングで(笑)。
 
<つづく>