GOOD-善き人- | 猫棒徒然雑記_mirror

猫棒徒然雑記_mirror

コラム系日々雑記。半径5センチの超近視眼的日常。

2024年4月6日(土)~21日(日)
東京都 世田谷パブリックシアター
 

作:C.Pテイラー
演出:長塚圭史
出演:佐藤隆太、萩原聖人、野波麻帆、藤野涼子、北川拓実、佐々木春香、金子岳憲、片岡正二郎、大堀こういち、那須佐代子

 

あらすじ

ヒトラーが台頭し始めた1930年代のドイツ・フランクフルト。
大学でドイツ文学を教える“善き人”ジョン・ハルダーは、妻や3人の子供たち、認知症の母親の面倒をみながら暮らす良き家庭人であった。ただ一人の親友はユダヤ人の精神科医モーリス。彼には家族の問題や突然訪れる妄想について打ち明ける事ができた。その妄想は、幻の楽団と歌手が登場し、状況に合わせた音楽を演奏するというもの。現実と妄想の区別がつかなくなっていると、ハルダーはモーリスに訴える。一方、モーリスも、自分がユダヤ人であることで、ナチスの反ユダヤ主義により、自分がドイツにいられなくなるのではないかという大きな不安を抱えていた。
そんなある日、ハルダーは講義を受ける女子学生アンから、このままでは単位が取れないと相談を受け、その夜自宅に彼女を呼んでしまう。夜遅く雨でずぶ濡れになって現れたアンに、彼は好意を寄せ、関係を持ち始めてしまう・・・
公式サイトより
 
ナチスの台頭と滅亡を描いた
演劇作品はいくつもいくつもあって、
たいていは迫害される人々、
もしくは、
台頭していくナチスをアンチヒーロー的に
描いていく作品ばかりなのだけど、
 
この作品の主人公は、
善良なる知性あふれるドイツ人。
 
ドイツ文学の研究者である大学教授、
唯一の友人がユダヤ人の精神科医。
 
精神的に不安定の妻と、
認知症の母を抱え、
ストレスの強い生活を送ってくる。
 
そんな彼の元に、
ナチスが人道の専門家としての意見を求めてくる。
 
ユダヤへの迫害が始まり、
親友から国外脱出への手助けをしてくれと懇願されても、
ナチスの目をつけられることを恐れて、
同情し心配するけれど、
 
彼は何もしない。
 
やがてナチス親衛隊へ参加することになった彼は、
脳性麻痺の患者たちへの安楽死として、
いつもと同じようにリラックスする環境として、
毒ガスのシャワー室を提案する。
 
人道的見地から、
それは受け入れられていく。
 
という筋立て、
善良な大学教授が
ナチス思想とだんだんと同化していく過程が
描かれていく。
 
これはもう、佐藤隆太さんの負荷は
相当すごいと思った。
 
彼は一瞬たりとも、
悪いことは考えない。
 
自分の愛する者のため、
自分の国をよくしていくため、
その考えしかない。
 
いやあ、もう、怖い怖い怖い。
地獄への道は善意で舗装されている。
 
という諺が
ドイツの諺だと知ってゾッとしたわけですが、
 
淡々とした演出が、
より異様さと異常さをクリアにしていて、
始終圧倒されてしまった。
 
彼の幻聴としての音楽を
生バンドで演奏しているのだけど、
これが最後の最後で、
本当に恐ろしい結果を生む。
 
幻想の中で生きていられたら、
自分は幸福だろう。
それが幻想であると、
自分がしてきたことの結果を
目の前に突きつけられたら、
 
人は人を保てなくなる。