ウルタールの路地裏から。 -129ページ目

みょん×ソード ep.Ⅰ 楼観剣は風に舞う①

注)この作品は「東方Project」及び「ガン×ソード」の二次創作です。
 原作の世界観やキャラクターの設定の崩壊、そもそも二次創作自体が苦手な方はどうかご注意を。「いいですとも!」「構わんよ」な方は、どうか温かい目で見てやってください。



みょん×ソード ep.Ⅰ 楼観剣は風に舞う


 昼の騒々しさがなりをひそめ、闇の怪異が跋扈する夜の幻想郷。昼とはまた別の喧騒が支配する世界。それは機械巨人が巷を騒がす昨今においても変わらず。むしろその闇は更なる深みを見せ始めるほどであった。その中でも今夜は一際騒がしくなりそうな、そんな気配を匂わせる生暖かい風が吹きすさんでいた。
 そんな夜の人里離れた森に、歩みを進める人影が一つ。


 
 ちりん



 木々を揺らす風の中に、小さな金属音が混じる。
「……また、出たわね」
 人影は呟き、頭のリボンに付けられた装飾品らしきリングに手を添わせた。
「方角は……よし」
 まばらに差し込む月光とはびこる闇がコントラストを生み出す森の中、人影はその歩みを進めていった。闇の向こうに何かを見つめながら。




 数刻ほど前になろうか。
 橙は主人と連絡が取れないことを不審に思い、住処であるマヨヒガを飛び出していた。
 だが、彼女を待っていたのは何者かの襲撃だった。
「っ!」
 橙は襲い来る拳を飛び跳ねて避けると、近くの木を蹴って反転。襲撃者に向けて勢いをつけた跳び蹴りを放つ。
 鳴り響く鈍い金属音。
 全体重と反動を乗せた一撃に、襲撃者は揺らぎ倒れる。
「やった!?」
 橙は短い髪を揺らしながらしなやかに体をひねり、くるりと回って着地。ずれそうになった帽子を押さえながら身をかがめ、二本の尻尾を逆立てる。
 それはまさしくネコ科動物の威嚇態勢。
 橙は大の字に倒れた襲撃者に油断のない視線を向ける。そして、思わず息をのんだ。
 視線の先、月光にさらされたその姿はまさしく異形。
 大きさは人間の成人男性より少し大きい程度だが、シルエットは首のない人型。
 金属製の装甲に全身を覆われ、胸部にはうすぼんやりと光を放つ一対の目のような機関が取り付けられている。
 彼女を襲っていた襲撃者の正体は、機械仕掛けの体を備えた亜人型のマシンだった。
 ぶつんと音を立てて、胸部の目から光が消える。
「……止まった、か。よかったぁ……」
 橙は胸を撫で下ろすと、改めてその無機質なボディに視線をやる。
彼女も近頃幻想郷に流入してきた機械が起す数々の騒ぎについては聞いてはいたが、実際に遭遇したのはこれが初めてだった。
 機能を止め、微動だにしない未知のマシン。襲撃してきた際の容赦ない冷たさを思い出して、橙は身を震わせる。俯いて、自分の肩を抱く。
「藍さま……」
 不安からだろうか、橙は主の名を口にしていた。心細さに負けないように想いを馳せる。そうすれば戦えるから。怖くても我慢できるから。
「……急ごう、やっぱり何かあったんだ」
意を決し顔を上げる橙。
 しかし、
「きゃっ!?」
 闇を裂く強烈な光が一瞬にして橙の視界を奪う。
 続けて、衝撃。
「にゃぁぁっ!」
 大きく吹き飛ばされ、小さな体が宙に浮く。
 肩に走る鈍い痛みと目を焼く光の残照に涙目になりながらも、橙は何とか受け身をとり、前方に視線を向けた。
 そして、言葉を失う。
『ひット』
『たーゲっとデーた照合・妖獣・猫又』
『リんク・ろード』
 四方八方から響くノイズ交じりの無機質な声。
 先ほど倒したものと同じマシンが、橙を取り囲むようにぞろぞろと現れていた。
 すでにその数は両の指を超え、円周に展開しながらじわりじわりと距離を詰め始める。
『『『排除スる』』』
 全方向から響く、たちの悪い異口同音。
 圧倒的不利の状況に橙の動物的本能は撤退を訴えていた。
しかし──
(駄目!)
 彼女の式としての誇りがその選択を放棄させた。八雲の式、藍さまの式である自分が、こんな相手に背を向けてはいけない。
「私だって、式なんだから!」
 痛みに耐え、にじむ涙をぬぐって正面に目を向ける。歯を食いしばり、敵を睨みつけ、身をかがめる。爪を、牙を、魔力の全てを研ぎ澄ませる。
 腕を砲口に変化させ、距離を詰めるマシン群。
 一斉に狙いを定める。
 橙も、飛びかからんと身を伏せる。
「藍さま、紫さま……!」
 主人の名を呟き、心を奮い立たせる橙。
 決死の思いで立ち向かおうとした、その時だった。



 ヒュン



 軽く鋭く、風を切る音。
 それに続くは閃光、爆発。
 爆風と爆音が橙の髪を揺らし、鼓膜を震わせる。
 晴れる爆炎。その先に視線をやると、橙に近づいていたマシンのうち突出していた5体ほどが、ことごとく真っ二つに斬り裂かれたスクラップと化していた。
 そして、そのすぐ傍で淡い月光に浮かぶシルエット。
 リボンをつけたボブカットの白髪と緑色のスカートが夜風に揺れる。
 己の半身たる半霊を引き連れ、両手には大小二振りの刀を携えたその姿。
 そう、彼女こそが──
「妖夢……さん?」
 白玉楼の庭師、魂魄妖夢。
 妖夢は頷くと踵を返し、マシン群の方に向き直った。
 頭のリボン。その結び目につけられたリングが、ちりんと軽い金属音をたてる。
 残りのマシンが一斉に妖夢を警戒する態勢に移った。
『『驚異対象ノ優先順位を変更すル』』
 一斉に妖夢に砲口を向け、エネルギーをチャージし始める。
 対して妖夢は無言のまま軽く腰を落とし、集中する。
『『発射』』
 放たれた十数もの光弾が一直線に妖夢に殺到し──
 その全てが反射されていった。
『『!?』』
 反射線上にいたマシン数体は自らの光弾の直撃を受け、爆散する。
 マシン群にとって想定外の出来事だったのだろう、全機が事態の分析のため、動きを止めた。
 その視線の先にあったのは、妖夢の前に広がり渦を巻く光の壁。
 妖夢の携える大小二刀のうちの小刀、白楼剣から繰り出される剣技『反射下界斬』の防壁であった。これが光弾のことごとくをその名の通り反射し、はじき返していたのだ。
『戦術変更、近接戦』
 飛び道具が効かぬとみるや、素早く作戦を変更するマシン群。その数はすでに半数以下の7体にまで減っていたが一様に砲口をしまうと剛腕を降り上げ、妖夢に襲いかかる。
 しかし、その判断が間違いであった。
 妖夢の目が、手にした刀と同様の鋭い光を放つ。
 その瞬間、彼女の周囲にいた4体のマシンが一瞬で五体を切断され、機械部品と残骸を散らすことになった。
 それは二刀による流麗な斬撃。そう、近接戦闘こそが彼女の本領なのである。
「残り三つ!」
『戦況不利、戦術変更、もード突撃、トれいル』
 不敵な笑みとともに呟く妖夢に、残りの三体が一直線の陣形を敷いて突撃する。
 先頭の一体が勢いよく拳を繰り出す。
 巨体に似合わぬ素早い一撃。
 しかし、妖夢は軽やかに軸をずらしてその拳を外側に避け、相手の背後に抜ける。
 まもなくして、煌めく白刃。
 背後から袈裟斬りにされたマシンの上半身が重い音を立てて地面に落ちる。
 月下に煌めくその刃、それは彼女の携える大小二振りのうちの大にあたる、持ち主の身の丈を越えるほどの長刀。白楼剣と対になる楼観剣であった。
 妖夢はいつの間にか白楼剣を鞘に納め、両手で楼観剣を構えていた。
 迫る2体目。妖夢は楼観剣を脇構えにして迎え撃つ。
横薙ぎに迫る拳を身を沈めて避け、空いた脇腹に一閃。
 上下に分断されるマシン。
 その断面の向こうから迫る鋼。
「ッ!?」
 分断された2体目の体越しに、3体目の拳が迫った。2体目を捨て石にした連続攻撃の形だ。
 上体をひねり、紙一重で避ける妖夢。ひねった体をそのまま回転させると、遠心力を乗せた刀で勢いよく3体目の腕を切り払う。
 斬り裂かれ、オイルをまき散らしながら宙を舞う腕。
 妖夢は間髪入れず地を蹴って飛び上がると、楼観剣を大上段に構え、
「はぁぁぁっ!」
 裂帛の気合いとともに、真っ向唐竹割りに3体目を叩き斬った。
 左右に断ち切られ、動きを止める鉄の体。
 妖夢は僅かに乱れた息を整えるように、静かな動作で血振りをすると、ゆっくりと刀を鞘に収めた。



 橙は、その鮮やかな戦い振りに見とれ、呆然としていた。
 突然の展開に緊張が抜けてしまったのもある。
しかし、それ以上に彼女を驚かせたのは妖夢の強さだった。
 自分が一人でも苦戦した相手、それも多勢の相手を、スペルカードもなしにあっという間に倒してしまう力量。今までにも彼女の剣技をみたことはあったが、ここまで間近でその強さを見せつけられたことは無かった。
 橙にとっての妖夢とは、どちらかといえば普段、周囲の面々にからかわれて涙目になっているようなイメージが強かった。また、主人同士の仲がいいこともあって日常の場で遭遇することが多く、橙にとって妖夢は戦いよりも日常に近い存在である。
 だからこそ、そんな彼女の戦う姿、驚くべき強さを目の当たりにして橙は驚きを隠せなかった。
 目の前で月光になびくボブカットの白髪が、意志を秘めた瞳が、とても頼もしく、また美しく見えた。


 
「大丈夫?」

 


 いつの間にか振り返っていた妖夢の言葉で現実に引き戻される橙。
 惚けたように思いふけっていたことに気づくと、少し恥ずかしくなり、照れ顔を隠すように黙って頷いた。
「そう、よかった」
 無事を確認し、微笑む妖夢。橙は服に付いた汚れを手で払うと、ぺこりとおじぎをした。
「あの、ありがとうございました」
「いえ、いいんですよ。通りすがりってやつです」
 妖夢は照れくさそうに返すと、今し方斬り捨てたマシン群に目を向ける。
(どこもかしこも機械だらけ……やはり)
 火花を上げ、沈黙する鉄の人形。
 その異形に重なるものが妖夢の頭をよぎる。
 白玉楼を襲ったならず者、幻想郷の各所に流れ着いた巨大な機械人形。
 妖夢は何故だか、よくないことが起こるような気がした。
 理由は分からない。しかし、日増し強くなる戦いのにおいが、彼女の心を騒がせていた。
 もっと強くならねばならない。あのような不覚、二度ととらぬように・・・。
 そう、思いを強くした矢先。
  


 ぐぅぅ
 


「~~~ッ!」
 大きな腹の音。妖夢の顔が急に真っ赤になる。
 この音は乙女にとって、また剣士として、その両方の不覚の記憶を喚起させる因縁の音だった。
 しかし、そのあたりにまだ無頓着な橙は恩返しの好機と見たか、目を輝かせる。
「そうだ、お礼と言ってはなんですけど……ご飯、食べていってください!屋敷もすぐそこですし」
「……すみません」
 その無邪気な好意が、何より妖夢には痛かった。




ep.Ⅰ②へ続く