ウルタールの路地裏から。 -127ページ目

みょん×ソード ep.Ⅰ 楼観剣は風に舞う③

(ep.Ⅰ②はこちらhttp://ameblo.jp/nekobaron/entry-10404438418.html )





「まだいたなんて…!」
 橙は、先ほどの場所から少し離れた川辺にいた。
 彼女を取り囲むのは頭のない人型をしたマシン。先ほど橙を襲撃したものと同型のものだった。
 橙を取り囲むその数は先ほどよりも多い。
 何体かは倒したが一向に数は減らず、すでに三十を越える数が橙を取り囲んでいた。
 服はところどころ破れ、すすけ、致命傷は避けたものの何カ所か傷を負っていた。
 加えて、休みを与えぬ猛攻に、橙の疲労は確実に蓄積していた。
「くっ!」
 一列に並んだマシンの一斉射撃。
 その光弾をすんでのところでさける。
 覆いかぶさるように迫りくる拳と鋼の体をぬうようにかわし、隙をみて足払い。
 何体かを巻き込み、動きを止める。
 飛び跳ね、転がり、這い。逃げ道を探す。
 しかし包囲網に穴は見つからず、じわりじわりと、追いつめられていた。
 それでも、彼女は引く気配を見せない。
(ここで逃げたら、私はこのままだ)
 自分に言い聞かせる。
「私だって!」
 なけなしの気迫を込めてマシンに蹴りを放つ。しかし、疲労で威力を失ったその蹴りは、片手で受け止められていた。
「しまっ…」
 言い終わらぬ間に、マシンは片手で勢いよく橙を投げ飛ばす。
「きゃっ!」
 叩きつけられ地面を転がる。なんとか立ち上がろうとするが、そのまま両脇から抱え込まれてしまう。
 捕獲された橙。
 その姿を見て、マシンのうちの一体。リーダー格らしきやや大型のものが橙に近づき、問いかける。
『コンバンワ、お嬢ちゃァん。俺はケイテン(刑天)。このデク共のボスだ。一ツ……聞きたいことがアルんだが、いいかナァ? 』
 他の機体と違い、機械音声ながら流暢な喋り。
「くっ…」
 橙の瞳から、一筋の涙がこぼれた。それは己の無力を嘆く涙。
(やっぱり、だめだったのかな…私じゃ)
 しかし、ケイテンと名乗ったロボットは、少女の涙など気にもとめず続ける。
『八雲の屋敷はどコだ?』
「!」
 橙の目が見開かれた。
(こいつらの目的は…紫さま!)
『レーダーにも反応はナい……噂の結界ってやツ? デク共は気づかなかっタ様だが、俺は戦闘のデータからお前が八雲の式だと気づいた。頭いいだろ、俺? だから結界の解除式か、屋敷の在処を教えてくれないかネェ?』
「嫌だ!」
『何ィ……?』
 橙の瞳に、光が戻る。
「絶対に教えない!」
 満身創痍の体にあるだけの気迫を込めて、橙はケイテンをにらみつけ、吠えた。
『そうかい……ならお前の身体ニ聞いテやろうか!』
 ケイテンの背後に控えていた二体のマシン。その体が展開し、その中から電ノコや赤熱する刃、他大量の得体の知れない機械が姿を現した。
 迫る機械、凶器が、少女に迫る。
(藍さま、紫さま…それに妖夢さん)
 頭をよぎる主たち、そして、妖夢の顔。
 橙の頬を再び涙が伝うが、瞳は気丈にも相手を見据え続けていた。
 想いが、恐怖を凌駕していた。
『気に入らない目ダ……獣臭イ情念の目』
 橙の視線にケイテンは忌々しげな声を上げる。
『でも、終わリだ。弱者は強者ノ贄とナれ』


「それは貴方の方です」


「!?」『!?』
 響く、澄んだ声。

 それとともに、凶器を展開していたマシンたちが見えない刃で貫かれてバラバラになる。
『貴様ハ……』
 控えていた数体のマシンが声の主に襲いかかる。
 しかし、煌めく二刀一閃。鉄の五体は瞬時に斬り裂かれ、屑鉄と化す。
 ちりん、と響く軽妙な金属音。
 それはリボンに付けられたリングの音。
「主のため、お家に伝わりしこの二刀……」
 静かに響く声。
 気づけば空気は驚くほど冷たく、まるで真冬の夜のように澄み渡っていた。
 前方から迫る数体。両手を刃にして斬りかかるも、声の主は数十の刃の悉くをいなし、受け、そのすべてに反撃。
 折られた刃と、動力パイプから吹き出るオイルが宙に次々と弧を描く。
「今宵ばかりは」
 声に、静かな怒りが宿る。
 背後からの不意打ち。飛び出したマシンは半霊の迎撃を受けて胸部から吹き飛ばされる。
「少女の想いに応えるため、鉄の悪鬼を一体残らず叩っ斬る!」
 声と刀が闇夜を裂いた。
 橙を押さえつけていたマシンが両腕を切り裂かれ、胴体を指し貫かれて機能を停止。解放された橙は、力なくその場にへたりこむ。
 声の主は橙をかばうようにケイテンの前に立ちはだかると、唖然としていた橙に優しく声をかけた。
「迎えにきました、橙」
「妖夢さん!」
 橙の言葉に妖夢は笑顔で返す。
『一匹増えたとてェ!』
「そうですか?」
 ケイテンはすべての戦力を妖夢に差し向けた。あるものは接近戦を、あるものは砲撃戦を仕掛ける体制に入る。
 対して妖夢は白楼剣を鞘に納めると、懐から取り出した一枚のカードを天にかざす。
 カードが緑色の燐光を放ち、それに呼応するように楼観剣の刀身にも同色の光が集まっていく。集う光は刀身を包み込み、輝きを増していく。
刀を脇構えにし、腰を落とす。
 迫る敵、光の弾幕。
 妖夢はその中に一瞬で飛び込んだ。
 刀が一際強い光を放ち、光をまとった刀身が何倍もの長さになる。
「断命剣『冥想斬』! はあぁぁぁっ!」
 強力な踏み込みとともに、横薙ぎ一閃。そのまま一回転。
 巨大な刃が、近づいていた機体も、遠くで砲口を構えていた機体も一刀の下に断ち切っていく。爆発が円を描き、妖夢の顔を照らす。
「我が楼観剣……斬れぬものなどあんまりない!」
 決まり文句を言い放つその口元には笑み。澄んだ瞳には静かな闘志が宿っていた。
『ギ…ッ!貴様!許サん!』
 かろうじて冥想斬の一撃を逃れたケイテンが、斬り落とされた右腕から火花を散らしながら怨嗟の声を上げる。
「マトメテ潰してやる! 』
「!」
 突然、ケイテンは全身から赤い光を放つと、周囲に散らばった仲間の部品を引き寄せ、融合し始める。腕を修復し、装甲や武装を集め、みるみるうちに巨大化。
「そんな…これじゃ…」
 橙は組み立てられる異常な巨体を見上げた。
 その大きさはもはや30メートルを越え、右腕は巨大な大砲に、左腕は大剣と化し、胴体の巨大な二つの目が、橙を見下ろしていた。
『これが、俺たちの奥の手よ!』
 無感動なマシン共の親玉とは思えない、恍惚とした口調で呟くケイテン。
『そして、邪魔な獲物はァ~』
 右腕の大砲を下方に向ける。
『抹殺ゥ』
 遙か上空から響く大音響の声。続けて撃ち込まれる特大の砲撃。妖夢は橙を抱え跳躍し、巨大な砲撃を避ける。
『滅殺ゥッ!』
 さらに、上段に構えた大剣を振り下ろす。
「くっ、もう一度……断命剣『冥想斬』!」
 すかさず妖夢もスペルカードで対応。光剣と大剣が衝突し、火花を散らす。
 しかし、圧倒的な質量差から妖夢は少しづつ押されつつあった。
「妖夢さん! いくらなんでも…!」
「大丈夫! 少し下がってて! ってぇい!」
 刀を操り、大剣を外して横に受け流す。
 轟音が響き、落ちた大剣が地を裂いた。
『超必殺ゥ!』
 ケイテンの胸部、巨大な目が輝き、光線が発射される。
 妖夢は再び橙を抱え、跳躍。
 着弾点の大地が炸裂し、周囲が煙に包まれる。
『抵抗は無駄無駄! 全く無駄! 大人シく…』
 煙が晴れる。
 しかし、ケイテンはそこに妖夢たちがいないことに気づいた。周囲に目を巡らして数瞬の後、すぐ傍。丈の高い杉の木の上に妖夢の姿を見つける。
 妖夢に大砲を向け、エネルギーをチャージし始める。
『吹っ飛びナ!』
「お断りします」
 木の先端に立ち、不適に笑う妖夢。月光が少女と半霊を照らし出す。
 妖夢はリボンの右側の結び目、そこに付けられたリングに、右手の人差し指を通した。
「私たちは、これから紫さまを追わなきゃならないんですからね」
『な…!』
「だから、通してもらいます!」
 リングごと、リボンの結び目を左側に引っ張った。
 妖夢の目の奥と左手に携えた楼観剣に、流動する青い光が宿る。
 楼観剣がゆっくり、高々と掲げられ、振り下ろされる。
 剣に宿る光が闇に軌跡を焼き付けていった。


 描かれるは「V」の一文字。
 




 音もなく、生命もなく、ものを結びつける引力もなく。ただ虚無が広がる場所。そこに漂うは巨大な揺りかご。
 その揺りかご中で、一つの力が脈動する。
 ディスプレイに青く流動する光がともり、文字が描かれる。


「DANN of THURSDAY」
 「boot up A-OK」
 「chester vitals A-OK」
 「LZ-C A-OK」
 
「execution」
  
 主の声に答えるように「それ」は揺りかごから射出され、時空を裂いて飛び去った。

 それは、巨大な剣だった。


『とドめ!』
 ロボットは構わず妖夢に大砲を発射。
 光弾が大気を焼き、引き裂きながら妖夢に迫り、爆裂。
 しかし、その一撃は上空から飛来した「何か」に受け止められていた。
 爆風の向こうに現れたもの。それは機械的なデザインの巨大な剣。
 妖夢を守るように飛来し、砲撃をものともせず大地に突き刺さっていた。
 爆風がかき混ぜた風が、下で様子を見守っていた橙の髪を揺らす。



「…すごい」
 橙は思わず、口に出していた。
 巨大な剣はその大きさもさることながら、清廉な美しさに包まれていた。

 橙の目には、すさまじく、そして正しき力の象徴のようにそれは映っていた。


 
 妖夢はすかさず柄の部分に空いたハッチから、剣の中に乗り込む。
 その中は青く光る流体に満たされた空間。妖夢はその中心の床に、片膝を突きながら楼観剣を突き刺す。すると、刀の柄が変形し手を包むような形になった。
 青い光が光度を増し、楼観剣に、妖夢に、巨大な剣に力が循環し、つながっていく。
 背後のスクリーンに「DANN」の文字が浮かび、前方には外の風景が映っていく。


「ウェイクアップ、ダン!」


 妖夢の言葉とともに、巨大な剣が地面から離れ、宙に浮かんだ。
 そして、その姿を変えていく。鍔や柄だった部分が変形し、形を変え人の体をなしていく。
 それはまさに巨大なヨロイ。巨大な刃を背負い、右手に刀を携えた白銀の鎧武者の姿だった。
 轟音をたて着地。それと同時に、目にあたる部分に青い光が宿る。
『まさか、その機体…! その<ヨロイ>ハ…!』
 ケイテンが畏怖とともに後ずさった。
「よし…動く」
 妖夢は動きの感触を確かめるように、楼観剣を握りこむ。
 すると、妖夢のマシンも同じように刀を握りこんだ。
 心を整えるように一呼吸。
マシンがゆるやかな動きで右手の刀を構える。
「魂魄妖夢、ダン・オブ・サーズディ、参る!」
 妖夢の名乗りとともに、ダンと呼ばれたヨロイが動き出す。
『か、刀一本でぇ、何がデキる!』
 ケイテンはダンに向け大砲を乱射。しかし、妖夢のダンは滑るような動きで弾を避け、距離を詰めていった。
『く、来るナぁ!』
 ケイテンの胸部が開き二門の重機関砲が火を噴くも、ダンの進撃は止まらない。刀を回転させてその全てを弾き飛ばし、さらに距離を詰める。
 一閃!
 ケイテンの右腕が断ち切られ、オイルが飛び散った。
 さらに、左拳で追い打ち。
 よろめく巨体。
『ガアァッ!調子に乗ルな!』
 体勢を崩し、怯みながらもケイテンは左手の大剣で薙ぎ払う。
 飛び散る火花。
 刀と大剣が、再びかみ合った。
 しかし、今度のサイズは互角。
 ならば──
「押し勝てる!」
 ダンは巧みな剣裁きで刀を弾きとばし、懐に入る。
「たあっ!」
 切り上げるように、一撃。その勢いのまま真上に跳躍する。



 月を背景に、白銀の刃が宙を舞う。
 橙にはそこに、妖夢の姿が重なって見えた。そして、何故かは分からないが、自分の主たちの姿も。
 強く、気高く、優しい。
 自分の力に誇りを持ち、何かのために戦える人の姿を。
「私も、できるかな?」
 一人、呟く。
 その顔は希望に満ち満ちていた。 
 強さへの憧れが、少女の心に明日への道を作り出していたのだ。



『貴様ァァァァ!』
 怨嗟の叫び声をあげるケイテン。胴体が展開し、巨大な砲口が姿を見せる。
 凶暴なエネルギーがチャージされ、全身から蒸気が噴き出す。砲口が上空のダンを捉えた。
『空なら逃げられマい!』
「逃げる必要なんて…ないっ!」
『消しトべ!』
 発射される巨大な光弾。
 しかし、妖夢は刀を逆手に持ち変えると、加速。ダンを正面から突っ込ませる。
 加速、加速、加速。
 増す速度。縮まる距離。交差──
「ちぇぇぇぇぇぇぇぇすっ!」

 広がる爆炎。閃光。

『な……』
 逆手の刃は速度のままに光弾を、その向こうのケイテンごと、真っ二つに断ち切っていた。
 ダンがケイテンに背を向ける。
『強…イ!』
 爆散するケイテン。
「切り捨て、御免」
 リボンについたリングが揺れ、ちりん、とその音を響かせた。




 すでに白み始めた空の下、剣の姿に戻ったダンが飛び去っていく。橙と妖夢はそれを下から見守っていた。
「さぁ、行きましょうか」
 言って歩きだす妖夢の後を、おずおずと橙がついてくる。
「あの、妖夢さん」
「ん?」
「本当に、いいんですか?」
 不安げに聞く橙に、微笑みで返す妖夢。
「迎えに来た、って言ったでしょ?」
 その口調は、まるで妹と話す姉のようだった。
(あ…そうか、そうなんだ)
 橙は、この一晩の間に妖夢に抱いた様々な思いに、やっと納得がいった。
(妖夢さんも、いっしょなんだ。)
 ふふっ、と小さく笑う橙。
「どうしました?」
「何でもないです!そうだ!」
 橙は何か思い出したように、持ってきた大きなカバンを探り始め、包みを取り出して妖夢に差しだす。
「これ、どうぞ」
「?」
 包みを開ける妖夢。出てきたのはちょっと焦げ気味の焼き魚。
「ついて行くの許してもらおうと思って、さっきの川辺でとってきたんですけど……戦いで焼けちゃってたみたいなんです」
 ちょっと照れ気味に言う橙。
 妖夢はその手から魚を一匹受け取ると、また優しく微笑んだ。
「ありがとう」
「はい!」
 二人は笑顔を交わし、歩きながら焼き魚を分け合いって食べる。
 空を見上げると、見事な朝焼けが広がっていた。
「わぁ……」
 美しい景色に驚きの声を上げる橙。
 それを優しく見守りながら、妖夢は主たちに想いを馳せる。
(私も強くなろう、この子と一緒に。それでいいんですよね……幽々子様、紫様)
 顔を上げる妖夢。その問いに答えるように、リングがその響きを奏でる。
 互いの思いを胸に、迎えた夜明け。
その柔らかな光の中、二人の足音はどこまでも続いていった。




ep.Ⅰ 終






次回『みょん×ソード』ep.Ⅱ「アヤカシノユメ」



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