みょん×ソード ep.Ⅱ アヤカシノユメ ③
(ep.Ⅰ②はこちらhttp://ameblo.jp/nekobaron/entry-10409674865.htm )
「妖夢さん……」
橙の視線の先、死闘を繰り広げるダンと巨龍。
龍の火炎弾を回避し、斬り払い、時折繰り出される顎と爪の一撃をすんでのところでかわす。
決定打の無い戦況は一見拮抗しているようにも見えた。
しかし、ダンの動きが所々おかしい。
回避タイミングの遅れ、足まわりの乱れなどで避け損ね、浅いダメージを重ねている。
装甲表面に次々と増えていく傷。ダンは少しずつ追い込まれていた。
龍が、その巨体を誇示するように再び鎌首をもたげる。
だが橙には見えていた。
龍の姿の奥に浮かぶ『何か』の姿を。
そう、ダンが戦っているのは龍ではない。龍の姿をまとった『何か』なのだ。
それが龍の幻影の動きに合わせて火炎弾や斬撃を繰り出し、ダンを追いつめているのだ。
橙にその『何か』の姿が見えているのは先ほど彼女が、ここ数日幾度となく襲ってきた怪異の謎を知り、その正体を認識したからであった。
襲い来る龍の幻影。
突然現れた里。
数日たってもどこにもたどり着かない森。
(そうだ、私たちは迷ったんじゃなかった、『あいつ』に迷わされてたんだ!)
幻想郷は元々、内陸のとある辺境の地を結界で切り取っただけの存在。
決して広大とはいえない土地に様々な妖怪がすむものだから、一日のうちに意図せず複数の知り合いに遭遇することも少なくない。
だから、いくら迷ったとて数日もの間誰にも会わず、どこにも着かず迷い続けるなどできるわけがないのだ。
その謎の答えが、突如現れた里。
橙は里とこの周辺の空間を隔てていた茂みの辺りに空間のゆがみを見つけ、同時に気づいていた。それが自分たちを惑わせていた『幻影』と『現実』との境界なのだということを。
幻影はそれが幻影として認識されたとき、種明かしのされたマジックのごとく効力を失う。
幻影の世界に分析の目が向けられ、正体は暴かれていく。
そして橙は確信した。その幻影の中で最も大きなもの、龍の姿をまとって襲い来る『何か』こそが、怪異の元凶であることを。
「何とかして妖夢さんに伝えないと……」
正体が分かっても、橙には『何か』を倒すことはできない。
妖夢に、龍の正体を伝えないと……。
苦戦するダンを見つめ、歯噛みする橙。
いくらなんでもあの中に飛んでいくことはできない。
頭を抱え、考え込む。
伝えるもの、伝えるもの、伝えるもの……。
「伝えるもの……あ!」
一つ、思いつくものがあった。
「あれだ!」
言って手をたたく。
少し前の催し物に使った小道具が、荷物の中に入っていたのを思い出したのだ。
橙はもと来た道を走り出す。
自分にできることをするために。
「うぁぁっ!」
龍の爪の一撃が、ダンを弾き飛ばした。
木を薙ぎ倒しながら転がる巨体。
疲弊した妖夢はダンに受け身すらとらせることすらできなかった。
遠のく意識、吐き気が反応を鈍らせる。
かすむ視線の先では、巨龍の瞳が『その程度か?』と言わんばかりにダンと、その奥の妖夢を見下ろしていた。
朦朧とし、夢幻にとらわれた妖夢の心に再び主の言葉が響く。
『あなたみたいな半人前の未熟者、この屋敷にはいらないわ』
頭痛とともにエコーのように繰り返し響き、妖夢を苛む。
「私は……私は……」
言葉が、心に突き刺さる。
(もう……)
折れかけた心。
心にちらつく諦め。
そこに手を伸ばしそうになった、まさにその時だった。
キィィィィィィン
「!?」
耳をつんざき、脳に響くような高音。
それは鳴り響く、スピーカーのハウリングだった。
『び、びっくりしたぁ……あ、妖夢さーん!』
続くのは増幅された橙の声。
「ち……橙」
苦笑する妖夢。音の方向に目をやると、そこには拡声器を手に叫ぶ橙の姿があった。
「何やって……」
『聞いて下さい!』
澄んだ瞳がまっすぐにダンを見つめていた。
思わず妖夢は黙り込む。
『威力のある技で、龍の口の奥を狙って下さい!』
妖夢はその理由を問おうとしたが、やめた。
橙が当てずっぽうに言っているのではないことが、その瞳から、声から、表情から分かったからだ。
「分かりました」
ただ一言。肯定の言葉で返し龍を見据える。
左手を懐に回し、取り出すのは一枚のスペルカード。
ゆっくりと頭上にかざしていく。
龍がダンに止めをささんと、巨体の先、とりわけ巨大なその「あぎと」を開いた。満身創痍のダンならば十分にしとめられると踏んだのだろうか。
妖夢はその様を見つめながらも動かず、ただ精神を集中させ続ける。
狙うは、一撃。
龍が突撃を開始した。
巨大な顎がダンに迫る。
妖夢はその奥、開かれた顎の、喉の奥を見つめる。
その先にある一点。
五感の全てを集中し、ただ一点を探る。
狭まっていく距離。ダンは、妖夢は、微動だにしない。
ただ感覚を研ぎすませる。
一瞬を何倍にも引き延ばすほどに。
そして捉えた感触。
それは──柔らかくも恐ろしい、月光の感触。
「ッ!」
妖夢の目が刹那、赤く輝いた。
「断霊剣『成仏得脱斬』!」
高らかに名が宣言され、スペルカードが桜色の光を放つ。それと同時にダンの二刀もまた同色の光に包まれた。
交差された二刀にエネルギーが渦巻き、解き放たれる。
刀身より立ち上るは、桜色に輝く光の柱。
それが真っ向から龍の大顎に叩きつけられた。
光の中、幻影が弾け飛ぶ。
曇天に覆われた森の景色、幻影の生み出した世界の向こうに広がっていたのはきれいな夕焼け空。
その幻影よりも幻想的な『橙色』の陽光に照らされた世界に、幻影の主は引きずり出されていた。
それは灰色のローブをまとい、豪奢な宝石で装飾された仮面を着けた魔術師のような姿のマシン。その腕には何か棒状のものが握られていたが、今の攻撃でへし折られて大部分が吹き飛んでしまっていた。おそらく幻影を生み出していた道具だろう。
「キ……ィィィィェェェェ!」
魔術師マシンは、金切り声を上げながら棒を捨てると、その手の内に巨大な炎の玉を形成しはじめる。
狙う先は橙の居る辺り。幻影を破られた意趣返しをしようというのか。
「あじむ、げらん、いゃーがらん! やーが!」
呪文のような鳴き声をあげて炎を練り上げていく。
「じぐーら……!」
その詠唱は急に止まった。
正面に、橙との間に立ちはだかるダンの姿をみとめたからだ
火球をダンに叩きつけようとする魔術師マシン。
しかし、遅い。
ダンは魔術師マシンに一瞬で近づき、その頭部を鷲掴みにする。
仮面に走る亀裂。それとともに火球が力を失い、消滅していく。空いた腕でなんとか逃れようとするも、ダンの腕はがっしりと頭を掴んで離れなかった。
「私がすべきことは分からない。どうしたら強くなれるかも、今していることが正しいのかも」
妖夢は誰に言うでもなく呟く。
その顔には先ほどの不調は少しも見られず、血色を取り戻し凛とした瞳が、ただ眼前の敵を見据えていた。
「でも、止まってても何にもならない」
響く金属音。
強烈な前蹴りが魔術師マシンを大きく吹き飛ばす。
すかさず追撃するダン。
「だから進みます。あの子と、一緒に!」
コクピットの中、スペルカードが輝きを放った。
ダンの瞳が鋭く赤く輝いて敵を居抜く。
高まる力、霊力が炸裂する。
人符──『現世斬』
橙色の世界に、ちりん、と軽妙な音が響いた。
現実の光を取り戻した夕焼け空の下、博麗神社へ続く道を歩く二人。
妖夢の心に渦巻いていた「もや」は、幻影が晴れるとともに薄れていた。
それは、橙のひたむきな姿を見て、出立の日に主から渡された不格好なおにぎりの塩辛い味を思い出したからかもしれない。
そう、主はただ自分を追い出したのではないのだ。なぜ忘れていたのか、悪い夢でも見ていたような気分だった。
「今回は、色々と助けられちゃいましたね」
妖夢は少し照れながら、隣を歩く橙に言う。
しかし、橙もまた妖夢に何か言いたそうな顔をしていた。
「……どうしたんです?」
いぶかしむ妖夢の声に橙は顔を向ける。
そして、少しはにかんだ後に口を開いた。
「ありがとうございます、信じてくれて。一緒に、って言ってくれて」
「……橙」
「私でも役に立てたんだ、認めてもらえたんだ……ってそれが嬉しかったんです。だから……」
「ありがとう」
言って、妖夢は手を差し出す。
橙の顔がぱあっと明るくなり、飛びつくように手をとった。
「はい!」
手をとりあって歩きだす二人。
幻影の世界の中、苦難を乗り越えて育まれた信頼。
二人にはまだ悩むこともあるだろう、抱えるものもあるだろう。進む道は明るいとは限らないし、すぐそばに深淵が口を開けているかもしれない。
それでも、強い絆がここに生まれたのは事実である。
夢を抱いて、二人の妖は歩み続ける。
夕陽の下を、二人で。
そして、陽は沈む。闇が、夜が来る。
その闇の中に一点、輝くものがあった。
闇の中においてなお光を放つ九尾の金毛に、透き通るような白い肌。
『傾国の美女』と呼ばれるほどに美しく整った白面に、優しい笑みが浮かんだ。
「橙、成長したな。私もうれしいぞ」
呟くのは、橙の主である八雲藍。
彼女は一人、戦の傷跡残る夜の森に降り立つ。
「さて、私はまだひと仕事か」
藍はため息混じりに言うと、破壊された魔術師マシンに向き直る。
「これは確か、媒介を使って幻影を生み出し精神面から相手を攻めるマシンか。それじゃ、その媒介は……っと、これか?」
残骸の中、手頃な大きさの石に目をとめて拾い上げる。
すると、
「……!」
突然、体に強烈な力と衝動がかけ巡った。感覚が鋭敏になり、理性に揺らぎが生じ始める。
藍はその感覚に覚えがあった。
「……間違いない、月の石だ。人を狂わせ妖怪をたぎらせる、あの忌まわしい月の一欠片……」
そこまで言って納得がいったような表情を浮かべる。
「なるほどね、妖夢が調子を崩していたのもこれの影響か。純粋すぎるのも考え物ね」
意識を集中。式を込めて石を分析する。
「微生物の付着が少ない……永遠亭にあったものじゃないな。まるで取ってきたばかりのようだ……一応、紫様に見せてみよう」
呟き、札の貼られたケースに石を放り込む。
(それにしてもこのマシン、例の奴らの手先だろうが、何のために月の石を持ち出して来た? 実験でもしていたのか……)
考えてかけて、頭を降る。
「私の考える事じゃない、か。まずは報告だ」
言って藍は周囲を見渡す。
そして、他にめぼしいものが無いことを確認すると、金毛をなびかせながら闇の中へ消えていった。
その顔に、笑みを張り付けて。
「さぁ、橙。やっと迎えに行けるぞ。」
次回『みょん×ソード』ep.Ⅲ「届かず、遠く」
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