ウルタールの路地裏から。 -120ページ目

みょん×ソード ep.Ⅱ アヤカシノユメ ①

 それは失われた夢の向こうにあるおとぎの国。
 大地に野望、空に弾幕あふれるボンクラたちの理想郷。
 人呼んで、幻想郷。
 最強のヨロイを操る少女、妖夢。
 失踪した主を捜す少女、橙。
 戦の夜を越えて共に歩む二人。
 その進む道は、彼女たちを何処へ、どんな事件へと導いて行くのか。




みょん×ソード ep.Ⅱ アヤカシノユメ



 曇天の空に、白刃が躍る。
 それを振るうは白銀の鎧武者、ダン・オブ・サーズディ。
 空中より襲いかかる有翼の機械竜を真っ向から叩き斬り、正面の大柄な機械竜の突撃を横っ飛びにかわして横一閃。
 機械竜の首がどす黒い体液の尾を引きながら宙に弧を描き、その首なしの巨体が突進の勢いのままもんどりうって倒れた。
「はぁっ…はぁっ…」
 ダンのコクピットに響く、荒い息づかい。
 妖夢は精神を繋ぎ止めるように歯を食いしばると、瞳を巡らせて次の相手を捜す。
「──ッ!」
 視界に迫る巨大な顎。
 ダンはその一撃を跳躍でかろうじて避けた。
 眼下を通り抜けていくのは巨大な龍。
 その口はダンを軽く一飲みにできるほどの大きさで、かわし損ねていたらただではすまなかっただろう。
 妖夢はダンをなんとか操って着地させるが、体勢を大きく崩してしまった。
 ぐるるとうなり声を鳴らしてダンを睨みつける巨龍。
 鱗に覆われた太く長い体に巨大な顎。神話に語られるその姿は見るものに圧倒的な威圧間を与えた。
 妖夢たちは数日前からこの神話の怪物の襲撃を受けていた。数体の機械竜を引き連れて来ては先に襲わせ、その死角から襲ってくる巨龍。
 理由は分からないが、襲ってくる以上迎え撃つしかないのが現状だ。
 巨龍の目が、ギラリと光る。


 ドクン


 妖夢の心臓がひときわ大きく鼓動した。手が震え、めまいとともに眉間がちりちりと痛む。
「くっ」
 龍は幻想郷においても神格化された存在だ。
 それを前にして体が恐怖を訴えているのだろうか。
「でも、負けられない」
 長刀を構えるダン。
 鎧の武者が龍に相対する。
 ダンが間合いを詰めんと走り出した。
 巨龍は口からの火炎弾で迎え打つ。
「なん…の!」
 長刀で火炎弾を斬り払い、さらに間合いを詰める。狙うは伝承にもある弱点の喉元。逆鱗と呼ばれる部位。
 しかし、刀が思ったように動かない。
「がっ!」
 数発の火炎弾がダンの足や胴体に直撃した。
 煙を上げ、揺らぐ機体。
 それでも突撃は止まらない。
 ぎりぎりまで近づき、刀を勢いよく突き込む。
「……ったぁ!」
 だが、その攻撃は空を切った。
 避けられたのではない。
 龍の姿は炎の雨が晴れるとともに、霞のように消え失せてしまっていたのだ。
 周囲に目を向けるも、残るは機械竜の残骸のみ。
「また、か…」
 妖夢は少し掠れた声で呟くと床から楼観剣を引き抜いた。


 ちりん


 リングが、虚ろな響きをコクピットに響かせる。




 剣の姿になり、空へ戻っていくダン。
 橙はそのすぐ下に妖夢の姿をみとめると、足早に駆け寄っていく。
「……大丈夫ですか?」
 心配そうに聞く橙の言葉に、妖夢は薄い笑みで返した。
「大丈夫、行こう」
 曇天の下、二人は深い森を歩き出す。
 その行き先は博麗神社。
 紫の屋敷からはほとんど正反対ともいえる位置にあるその神社は、神社でありながら常に何かしらの妖怪が顔を出しているということで、妖怪にとっての待ち合わせスポット、もしくは絶好の宴会場として有名になっていた。
 ……当の巫女本人は複雑そうではあったが。
 何はともあれ、神社が妖怪たちの集う場所であるのは事実である。さらに幻想郷屈指の情報通である天狗と鬼が入り浸っているとなれば、紫に関して何らかの情報が得られる可能性は高い。
 そう踏んだ二人は神社への道のりを歩いていた。
 しかし、一向に人里にすら着く気配がない。森は入り組んでいる上、巨龍の襲撃が続いたので迷ってしまったのだろうか。
 数日もの間、二人は森の中をさ迷っていた。
「やっぱり、お屋敷から歩くと遠いんですね……いつもは紫様の力で神社まですぐなんですけど」
 きょろきょろと周囲を見回しながら話しかける橙。
「紫様はたくさん寝るから、静かなところが好きなのかな? お出かけはスキマですぐだから不便じゃないし」
 橙は話を続ける。
 一方、妖夢は先ほどの敵に思いを巡らせていた。
「でも藍様は人里も遠いからお買い物が大変だって……」
 ここ数日しきりに仕掛けてくる龍とその僕。前の機械人形とは違うようだが目的が分からない。
「この前の油揚げの特売のときなんか、日付が変わる前に出発したから、途中で寝ぼけて永遠亭に……」
 機械の竜はともかく、あの巨大な龍は? あれだけのパワーを持ちながらなぜ撤退したのか。
「……妖夢さん?」
「!」
 橙の言葉で思考の海から引き戻される妖夢。
「あっ、藍さんがどうしたって?」
「……もう、返事くらいしてくださいよぅ」
 橙は頬を膨らませてすねてみせた。
 大妖怪の式神であることを思わせない、幼く愛らしい仕草。
 そんな微笑ましい姿を見せる少女を心配させまいと、妖夢は笑顔を作ってみせる。
「ごめんごめん、少し考えご──」
 妖夢の視界が、がくん、と急に下がる。数瞬してそれは自分の足から力が抜けたせいだと分かった。だが、それが理解できたとき既に妖夢の意識は暗転し、深い闇の中へ沈み込んでいた。




「え…? あ、あわわわわ、よよよ妖夢さーん!?」
 目の前で急に倒れる妖夢。突然の出来事に橙の頭は真っ白になる。
 妖夢の肩をつかんで揺り動かすも、反応がない。
「ど、どうしよ……え~と」
 腕を組み、幼い頭脳をフル回転させる橙。
(藍さまなら……私が風邪の時……)
 どうしていただろうか。記憶をたどり、答を探していく。
「そうだ、まずは……」
 一つ思いついた橙は仰向けに転がした妖夢の額に、自分の額を会わせる。


 ごちん


「痛~~~ッ!」
 失敗、勢いがつきすぎた。
 頭を抱えしばし悶絶する橙。
 しかし、それでも妖夢に目を覚ます気配はなかった。
 改めて、そっと額をつける。
 額を通じて伝わる熱さに意識を集中させる。
「熱は……少し高いくらいかな? …よし」
 橙は妖夢を抱き起こし、その小さな背中に背負う。小さいとはいえ彼女もれっきとした妖獣、一人背負う程度ならば十分な力は持ち合わせている。
「とりあえず、安全なところに運ばないと!」
 妖夢さんは、私が守らなきゃ。
 小さな胸に決意を込めて、橙は薄暗い森を走り出す。
 


ep.Ⅱ②へ続く