1.学習の成果

 

「運命の・・・アカイイトだ――――――――」

 

ちょうど1年前、僕の競馬人生はここから始まった。

その少し前から馬券を買い始めたし、東京競馬場にも行ったことがある。

だが、自分なりの魅力を見出したのは昨年のエリザベス女王杯だった。

 

・調教

・持ち時計

・上がり3ハロン

 

馬の能力を計る指標は様々だが、要は「速く走れる馬」が強い。

そんなことは分かり切っている。

だが、

 

強い馬が勝つとは限らない

 

それを学んだレースだった。

ウマ娘でも、スキル編成とキャラの固有スキルを組合せ、運を絡めてジャイアントキリングすることがある。

同様に、

 

・トラックバイアス

・適性

・展開

 

で、時として大波乱が巻き起こる。

3連単339万だって奇跡じゃない。

確かに多少の運は求められるが、それでも枠と脚質分布からある程度は予想できるし、事後的に説明もできる。

ディープインパクトが如何に優れた名馬であろうと、彼が活躍した時代の競馬を僕は楽しめなかっただろう。

 

ギャンブルとは不確実性を楽しむためにするもの

 

そして、ただ運に身を任せるだけではない。

不確実性の中から、多様な未来を推測し、より期待値が高いと思える道を選び取り、実現させる。

それが競馬の魅力だと思う。

 

あのレースから1年が経ち、学習の成果を提出する日が巡ってきた。

まず思う。

 

「今年も荒れるだろう」

 

そして思う。

 

「荒れるとして、誰が先にゴール版を駆け抜けるだろうか?」

 

候補馬を全く絞れない。

逆に言えば、18頭全てにチャンスがある。

出馬表に頭を抱える中で、成果の提出期限は着実に迫りくるのであった。

 

 

2.コワレロ

 

11月13日 9時30分 府中にて―――

 

僕は東京競馬場に来ていた。

僕の定番パターンである、「GⅠの裏の競馬場訪問」だ。

 

ハッキリ言って、GⅠ会場に直接乗り込むのは賢明とは思えない。

人が多いとパドックがよく見えないから前哨戦から賭けづらくなるし、メインレースは人が溢れ返るのでレースを観るどころではない。

何より、僕は人混みが大嫌いだ。

 

一方、関西のGⅠを関東から観る場合だと、

・前哨戦:人が少ないのでパドックもレース観戦も快適

・GⅠレース:相変わらず人が少ないので快適。巨大スクリーンと実況音声で解説してくれるので十分盛り上がれる。

・競馬新聞:前哨戦用に買うついでに、GⅠレースの情報も仕入れられる

と、良いことづくめだ。

 

府中の前哨戦をチビチビと賭けながら、とあるアナウンスを待っていた。

 

「阪神の天気ですが、晴れから小雨へ変更になりました。」

 

コ・ワ・レ・ロ

 

「阪神の天気ですが、小雨から雨へ変更になりました。」

 

コ・ワ・レ・ロ

 

「阪神の馬場状態ですが、良からやや重へ変更になりました。」

 

コ・ワ・レ・ロ

 

「阪神の馬場状態ですが、やや重から、

 

 

へ変更になりました。」

 

もう、人気決着などあり得ない。

そう確信した瞬間だった。

 

ただの雨ではない。

阪神は6週連続のAコース使用。

走れなくはないものの、内の馬場はそこそこ痛んでいる。

そこに雨が降り注ぎ、競走馬が踏み荒らしていけば、特に内側は致命的に痛むに違いない。

事前に雨予報と聞いて期待していた展開に、胸の高鳴りを抑えられずにいた。

 

よし、気合いを入れよう。

 

 

馬場内広場でワールドグルメフェスが開かれており、府中の戦いを9Rで早々に切り上げた僕は、酒と肴をつまみながらエリ女モードへ突入した。

酒は関係ないように思うかもしれないが、グルメフェスの食事スペースには中継モニターが置かれており、阪神競馬場の様子を確認できた。

 

予想通り、阪神芝の内側で泥が飛び跳ねていることも、アカイイトの馬体が絞れたことも、パドックで府中牝馬とは別物の仕上がりだったことも全て確認できた。

もう、迷わない。

 

 

3.いや、候補が広すぎる。当たる訳がない。

 

馬連 1頭軸流し 各500円

軸:14 アカイイト

相手

5 マジカルラグーン

9 ウインキートス

13 ウインマリリン

17 ウインマイティー

 

3連複 1頭軸流し 各100円

軸:14 アカイイト

相手

馬連の相手 4頭

6 ホウオウエミーズ

15 ライラック

16 テルツェット

 

おまけ(?)

 

とにかく

・上位人気3頭は切り

・重馬場適性

・外枠

の3点を重視した。

 

そもそも重馬場で走ったデータ自体が無い馬ばかりであったが、ウインの3頭はゴルシ産駒や時計の掛かりまくる札幌記念の実績があることを考慮し、期待できると判断した。

後は海外のマジカルラグーンも、パンパン良馬場の府中は無理でも重の阪神なら、と賭け目に入れた。

3連複は更に大穴狙いで、外枠の差し2頭と、果てには最低人気のホウオウエミーズまで賭けることにした。

 

我ながら思い切ったものだ。

ちなみに馬券が当たった場合、

 

アカイイト複勝

馬連 アカイイトーウインマリリン、アカイイトーウインマイティ―

 

のみ数万円。

残りは6桁以上の払い戻しという一撃必殺の馬券構成だ。

いくら穴党の僕でも、ここまで無茶な構成にすることは稀だ。

 

だが、

・阪神開催

・エリザベス女王杯

・重馬場

という3条件が揃った以上、ここが勝負所だと判断したのであった。

 

 

そしてレースが始まった。

 

序盤はローザノワールが先手を取り、マジカルラグーンが少し競り掛ける展開に。予想通りだ。

マジカルラグーンはスタートが優秀と聞いていたので、府中牝馬Sのようにローザノワールは多少ペースを上げざるを得ないと読んでいた。

1000m通過は60秒3。普通の2200m戦なら平均ペースだが、重馬場だと考えるとやや速いと言えよう。

 

しかしアカイイトは最後尾

そうか。やはり3戦連続馬券外だとダメなのだろうか・・・

レースを眺めながらも、ただただ不安に押しつぶされそうになっていた。

 

運命の第3コーナー。

下り坂に入り、差し馬にとってはここから捲り上げる好機となる。

何より、昨年の3連単339万はその捲りから生まれた。

 

そして今年も、7枠のオレンジの帽子が後方から捲り上げていった。

そうだ、今年も見せてくれ。

そう思った。いや、思いたかった。

 

15 ライラック

 

アカイイトは最後方に控えたまま。

 

―――NO FUTURE―――

 

そこから先はよく覚えていない。

直線の短い阪神で、仕掛け遅れは命取りだ。

もう逆転はあり得ない。

 

あぁ、ジェラルディーナおめでとう。

あぁ、気紛れで買い目に入れたライラックが来るなんて凄いなぁ。

 

スクリーンをぼんやり眺めながら、茫然自失に暮れていた。

 

「ライラック、そしてその後にナミュールと・・・

 

アカイイト

 

が来ました!」

 

我が耳を疑った。

確か最後方に居たはず。

また二桁着順だろうと、姿を追ってすらいなかった。

 

「諦めたら、そこで試合終了です」

 

試合終了していたのはアカイイトではない。僕だったようだ。

我に返った後、もう一つ重要な事実に気付いた。

 

 

 

第3コーナーで投げ出してしまった馬券だが、実はかなり惜しいラインを突いていた。

3連複の人気の無い方の2頭を当て、残り1頭が4着に入ったのである。

 

1着 18 ジェラルディーナ

2着(同着) 13ウインマリリン、15 ライラック

4着 14 アカイイト

 

という結果で、4番人気のジェラルディーナが絡む3連複ですら、9万オーバーの高配当が付いたのである。

11番人気のアカイイトが絡んだら、20万は余裕で付いただろう。

14100円の軍資金が10倍以上に膨れ上がって返って来たに違いない。

そう思うと、悔しい思いで溢れ返りそうになったが・・・気付いた。

 

いや、買えねぇわ

 

冷静になると、既に3連複は相手7頭で21点も購入してしまっている。

ここから的確に、ジェラルディーナだけを追加できただろうか。

他にも候補は沢山居たのだ。無理だろう。

 

というか、アカイイトを軸にした時点で、アカイイトが3着以内でないと絶対に当たらない。

順位は1つ差だとしても、着差は2馬身差以上付けられている。やはり厚い壁なのである。

やはり10万馬券の夢は遠いな、と思い知らされたのであった。

 

府中を後にしながら、こう思った。

 

「1年間の成果、結局当たらなかったけれども、可は貰えますかね?」

 

と。そして、

 

「アカイイト、ありがとう」

 

と。

荒れるという予感に従って予想したこと、そして、実際に大金の影だけでも拝めたこと。

十分すぎる位エキサイトできる時間だった。

 

課題は未解決のままで終わったが、またの機会にとっておくとしよう。

そうだな、ライラックが適性外のレースで負け続け、忘れ去られた頃にこういう「非根幹・道悪・外差し馬場」が再現されれば賭けるとしようか。

 

 

・おわりに「非常に勝手な個人の希望」

 

アカイイトの次走ですが・・・

 

GⅡ 京都記念(阪神2200m)

 

でいかがでしょうか?

次で6歳馬、4歳秋でブレイクした晩成型といっても、残された時間はそう長くないと覚悟しています。

 

今回の4着で底力を感じられたと共に、正直限界も見えました。

レースレベルが高くなく、コース・枠・馬場状態が全てハマり、写真判定で何とか4着となると、他のGⅠでは苦しいように思えます。

 

GⅠ勝ちから1年が経過し、府中牝馬Sの別定2キロハンデのような罰ゲームから解放されたことを考えると、GⅢやGⅡに目を向けても良いのではないでしょうか。

レースの格よりも適性を重視し、1勝でも多く勝つ姿を見たい。それがある程度現実を見据えた、1ファンとしての希望です。

 

 

僕にとっては今年イチのビッグレースが終わってしまいました。

後はアスクビクターモア(有馬?)の雄姿を見て終わりかねぇ。

クラシック3戦通して本命、菊花賞は単勝一本勝負君で府中のモニター越しに応援していたので、今後はタイトルホルダーばりの活躍を期待したいものです。

 

いや、まだありました。

僕が大勝負すべきレースが。

 

中日新聞杯(昨年:3連単236万)

 

大金を賭けた戦いは、まだ終わらない。

(つづく)