「だれかがふさいだ気分でいるとき、おかあさんはこう助言します ― 『世界中のあらゆる不幸のことを思い、自分がそれとは無縁でいられることに感謝なさい!』って。いっぽう、わたしはこう言います ― 『外へ出なさい。野原へ行って、自然と、日光の恵みを楽しみなさい。あなた自身のなか、神様のなかに、もう一度しあわせを見出すように努めなさい。あなたのなかと、あなたの周囲にまだ残っている、あらゆる美しいもののことを考えなさい。そうすれば幸せになれます!』」

― アンネ・フランク (深町眞理子 訳 『アンネの日記』より)
「『フーガの技法』を聞いていると、死を前にしたバッハのつきつめた努力に、音楽が今まで誰にも見せることのなかった深所の扉をひらくようにおもわれてく る。これは結局未完成に終わったが、それはことによったら、音楽に神があらかじめ定めておいた運命なのではないかという気持ちさえするのである。ともあ れ、バッハの最後の作品が、こうしたものであったことは、バッハと、そして音楽に対する私の信頼を一層深くしてくれるようである。」

― 遠山一行 (「名曲のたのしみ」より)
「子どもたちの世界は、いつも生き生きとして新鮮で美しく、驚きと感激にみちあふれています。残念なことに、わたしたちの多くは大人になるまえに澄みきっ た洞察力や、美しいもの、畏敬すべきものへの直観力をにぶらせ、あるときはまったく失ってしまいます。もしわたしが、すべての子どもの成長を見守る善良な 妖精に話しかける力をもっているとしたら、世界中の子どもに、生涯消えることのない『神秘さや不思議さに目を見はる感性』を授けてほしいとたのむでしょ う。この感性は、やがて大人になるとやってくる倦怠と幻滅、わたしたちが自然という力の源泉から遠ざかること、つまらない人工的なものに夢中になることな どに対する、かわらぬ解毒剤になるのです。」

― レイチェル・カーソン(上遠恵子 訳 「センス・オブ・ワンダー」)より