『多様性の科学』(マシュー・サイド著) | 今日も花曇り

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読んだ本や考えたこと、仕事について。

読書会の課題本として読みました。

何年か前に話題になった本らしく、「知性と展望に満ちた、魅力的な読み物だ!」(ジェームズ・ダイソン)とのこと。

こういう、海外の著名事業家が激賞する本はなぜか苦手なので、私としてはあまり読まないジャンルです。

 

 

題名からは学究的な内容を期待しますが、そういう本ではありませんでした。

内容としては組織マネジメント論にかなり寄っていて、要するに、組織が成功する鍵は多様な考えや意見を取り入れることだ、というものです。

 

アメリカのCIAが、9.11には数多くの予兆がありながらそれを阻止できなかったのは、CIAが高学歴の白人男性ばかりで多様性を失っていたからであるとか、

第二次大戦でイギリスがドイツの暗号機エニグマの暗号を解読できたのは、暗号の専門家のみならずチェスやクロスワードパズルのエキスパートもチームにいたからである

といった、興味深い具体例が紹介されています。

 

日本でも昔から「三人寄れば文殊の知恵」というくらいで、たぶんそれ自体は、誰もがなんとなく分かってはいるのだと思います。

 

ただ、多様性という、それこそとても複雑な問題について、もっぱら「成功のための鍵」という見方に終始していることが、物足りないというか、表面的に感じました。

成功への道だから大事というなら、成功につながらない多様性は不要になるのか?

 

と思ったら、もともと原題は『REBEL IDEAS The Power of Diverse Thinkings』とのこと。

『反逆者のアイディア 多様な思考の力』とかでしょうか。

最初から、そこに絞った本なのでした。

 

このタイトルは、著者自身が2016年に、イギリスのサッカー代表を強化するために多様な分野から集められたチームの一員として技術諮問員会に参加した経験から来ているようです。

 

その委員会で目から鱗が落ちるような体験をした。

メンバーはみな無給で参加していたが、互いをよく知るようになるにつれ、次に会うのがどんどん楽しみになっていった。

委員会の会合は、ほかでは決してできない勉強ができる場だった。

みんなが知らないことを誰かが発言したときは胸が躍った。

各メンバーが自身の経験から導き出すアイデアはある種独特だった。

言わば「反逆者のアイデア」だ。(本書62頁)

 

多様性は大事。

でも、現実にそれを尊重しながらうまくやっていくのは、非常に難しい。

 

超大国と言われるアメリカと中国を見ると、それを感じます。

アメリカは非常に多様性のある国だと思いますが、国内では大きな矛盾や分断に苦しんでいます。

この本が出版されたのは2019年ですが、今年大統領に返り咲いたトランプ氏は、多様性をあからさまに排除しようとしています。

一方の中国は、急激に発展しましたが、一党独裁であり、圧倒的多数を漢民族が占める、多様性を尊重するとは言い難い国です。

世界中で、移民や難民について困難な問題があります。

 

私自身は、多様性を認めるのは、成功のためというより、最後は、成功を犠牲にしてでも尊重しなければならない何かのためではないのかと思いました。