「正しく使えばステロイドは怖い薬ではない」という嘘 | 今日も花曇り

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今回、自分のアトピー悪化をきっかけに、ひさびさにアトピーに関する情報を収集してみて、心から失望したことがあります(希望を感じたこともあります、後述)。

それは、皮膚科や医師の説明に、20年前と相も変わらず「正しく使えばステロイドは怖い薬ではありません」と呪文のように書かれていることです。

 

これは事実ではありません。

なぜなら、まさに私がそうだったからです。

 

生後すぐから、医師の指示に従ってステロイドを使い続けていました。

最後は東京女子医大にアトピーで入院し、当時、アトピー性皮膚炎のまさに権威であり、日本皮膚科学会編「アトピー性皮膚炎治療ガイドライン」の著者でもあった川島眞教授に治療を受けた結果、ステロイドでは全くコントロール不能になったからです。

そして、こうした経緯をたどる人は、私だけではないのです。

 

なぜこうなってしまうのか。

 

根本的な原因は、「ステロイドは怖くない」という意味が、「ステロイドの副作用は回避または軽減できる」という意味だからです。

そして、その「副作用」とは「毛細血管の拡張」や「皮膚委縮」などを指すのであって、「だんだんとステロイドが効きづらくこと」や、「地獄のようなリバウンド」は、含まれていないのです。

 

一般的な皮膚科医は、それらをステロイドの副作用とは認めていません。

内服ならばともかく、ステロイドの外用で、そんなことが起こるはずはないと考えられているからです。

 

確かに、私は長年にわたりステロイドを使い続けていましたが、「毛細血管の拡張」や「皮膚委縮」は起こりませんでした。

その意味では、医師のいうところの副作用はなかったのです。

 

しかし、本当に恐ろしいのは、そんな皮膚表面のことではなく、徐々に、身体が外用ステロイドなしでは、ひと時も正常な皮膚を保てない状態になっていくことです。

たぶん、多くの重症アトピー患者は、身をもって、本当に死にたいほどの苦しい体験をもって、これを痛感しているはずです。

 

私が絶望するのは、現にそうした患者が多く存在しているのに、「そんなはずはない」「標準治療は間違っていない」と事実を無視できる、多くの皮膚科医の思考なのです。

私は医学は科学であり、医師は科学者であると考えたいですが、目の前の現象を「そんなはずはない」と無視するのは、科学者の態度ではありません。

そしてそれが何十年経っても変わらないことに、本当に失望します。

 

なお、ステロイドは常に害だと言いたいのではありません。

一時的な身体の不具合がアトピーという形で現れたのであれば、ステロイドで症状を抑えつつ、身体の回復を待ったり、不調の原因を除去できる場合があります。

本来、対症療法とはそういうものだと思います。

そうしてコントロールできる人も実際にいますが、できない人も確実に存在します。

 

そうした人が「正しく使えば大丈夫」という医師の言葉を妄信することには、本当に警告したい。

それでダメになったとき、医師は何も責任はとってくれません。

退院後、すぐに坂を転げ落ちるように悪化した私に、医師から「こんなんじゃまた入院だよ!」と不機嫌そうに投げつけられた言葉を、今も忘れません。

この人の言うとおりにしていてもダメなのだと、絶望と諦めと怒りを感じました。

 

一方で希望を感じたのは、アトピーは単なる皮膚病ではなく、その他の内臓や骨格や精神などの複合的な原因による全身的な症状だ、と考える(西洋医学の)医師が、以前よりかなり増えたと感じることです。

また、ステロイド以外の有効な薬が多く登場しているのも、医学の進歩を感じます。

 

私がアトピーになってから、気がつけば半世紀近く。

医学と医師がアトピーの本質に向き合って、根本的な治療法が開発されることを心から願う気持ちです。