どのアーティストでもそうですが、アルバムを聴くと、最初はシングルカットされるような曲が気に入りますが、だんだんと、その他のもっとさり気ない作品の方を好きなることが多いです。
『海を見に行こう』はスピッツのアルバム「三日月ロック」に収録された、どちらかといえば小品です。
時間も短く、アレンジもシンプル。
私は、この作品がとても好きです。
明日 海を見に行こう
眠らないで二人で行こう
朝一番のバスで行こう
久しぶりに海へ行こう
という歌詞の曲。
海とえば普通は夏というイメージが多い気がしますが、この曲は「照れながら若葉の色」という部分があり、初夏のようです。
バスで、というのが、いかにもスピッツという感じです。
チェンバロ(といってもアコースティックではないみたいですが)とアコースティックギターの音色が陽気でのんびりした雰囲気の明るいアレンジで、ドラムもほとんどありません。
崎山さんはタンバリンを叩いています。
でも、メロディの終わりの「行こう」という歌詞の部分で音程がストンと5度下がり、これが繰り返されます。
それが、何か割り切れない、単純でない感じを与えます。
歌ってみると、かなり歌いづらい。
意図されているのだと思います。
二人で海へといえば、普通は恋人と、というイメージでしょうが、この歌ではそれもわかりません(スピッツの歌ではそういうことが多いです)。
ハ長調の曲ですが、サビの部分はイ短調で、少し翳りを感じます。
間奏部分で、突然ドラムとシンバルが入るのが、岩に砕ける波音を連想させます。
この曲と少し似ている歌詞の曲に、『青い車』(アルバム「空の飛び方」)があります。
君の青い車で海へ行こう
おいてきた何かを見に行こう
でもこの曲はすぐ後でこんなふうに歌うので、恋人と海で死ぬ歌ではないかなんて言われているようです。
そして輪廻の果てへ飛び下りよう
終わりなき夢に落ちて行こう
『海を見に行こう』のほうは『青い車』よりは明るいし、地に足の着いた感じなのですが、この同じ「三日月ロック」に収録されている名曲『水色の街』は、同じ水でも川をテーマにしてはっきりと不吉な感じの歌なので、この『海を見に行こう』も、なんとなくそれに引っ張られて聴いてしまいます。
最後まで残るシンバルとドラムの音を聴いて、なぜかうっすらと不安を感じます。
それにしてもこの「三日月ロック」というアルバムは、『夜を駆ける』、『水色の街』、『ハネモノ』というスピッツの曲の中でも名曲中の名曲が入っており、その他に『さわって・変わって』、『遥か』、『旅の途中』、『けもの道』なんかまで入っているという、恐ろしいアルバムです。
スピッツと、草野さんの才能は本当にすごい・・・と思います。