2006年7月23日、NHKスペシャル「ワーキングプア~働いても働いても豊かになれない~」という番組が放送されました。この番組は大きな反響を呼び、当時まだ認知度が低かったワーキングプアという問題への社会的関心を大きく高めたそうです。
反響を受けてNHKでは、その後の2006年12月10日に続編「ワーキングプアII努力すれば抜け出せますか」、
2007年12月16日にはさらに「ワーキングプアIII~解決への道~」を放送しています。
記事のタイトルに掲げた本は、上の3本のNスペのうち「ワーキングプア」と「ワーキングプアII」の内容にそって、番組では放送し切れなかった内容も盛り込んで書籍にまとめたものです。
私は番組のことは知らず、この本も図書館の労働問題の棚で偶然手に取ったにすぎないのですが、この本に出合えて本当によかったと思っています。
格差や貧困を扱ったルポタージュはもちろん他にもありますが、海外ではなく日本の状況を、これほど生々しい危機感をもって報告したものは初めて読んだという気がします。
この本は、様々な理由でワーキングプアに陥ってしまった人を、時間をかけて丁寧に取材しています。不安定な非正規雇用からついにホームレスになった若者、海外で作られたスーツに客を奪われてしまったベテランの仕立屋、妻に先立たれ、子どもを抱えリストラに会った会社員、その外にも多くの人々が登場します。
共通するのは、みな本当に誇りをもって働きたいという気持ちがある、または実際に働いているのに、最低限の生活をする収入さえ得られていないこと。それに、貧困の原因がもはや個人の努力ではどうにもならないレベルの問題であることだと思います。
この本は、そうした人たちの現状について、かなり徹底して事実を報告することにこだわっており、データの引用や原因の分析については極めて控えめです。かえってそれが、このルポに強いものにしていると思います。
私は(自分でいうのも何ですが)かなり穏やかな性格なほうだと思うのですが、この本を読んで、抑えがたい怒りを感じました。どうして、こうした人々がこんな過酷な生活を強いられなければならないのだろうと・・・。
この本の副題は「日本を蝕む病」となっています。まさに病だと、私も思います。手を打たなければ、社会のあらゆる人的・物的基盤を侵食し続けるという危機感をおぼえます。
国や企業は、社会保障関連支出を減らし、非正規雇用を増やし、それで財政を健全化するとか国際競争力をつけるなどと主張することがあります。しかし、国民や被用者の尊厳と引換えに手に入れた黒字や成長といったものは、一体どういう意味を持っているのでしょうか・・・。
最後に、放映された番組の動画サイトを紹介しておきます。もちろんこうした動画は適法ではないのでしょうが、DVDもなく、NHKオンデマンドでも何故か視聴できない状態なので、観てみたいという人には今はこれしか手段がありません。
NHKスペシャル
「ワーキングプア-働いても働いても豊かになれない」(その1)
「ワーキングプア-働いても働いても豊かになれない」(その2)
「ワーキングプアII-努力すれば抜け出せますか」
既に有名な番組と書籍ではありますが、この記事によって少しでも、また新たにこの作品が知られるきっかけになることを願っています。