恋は二度目のアネモネ -29ページ目


新しい年のはじめ、
わたしは仏頂面だった。
1日遅れの大掃除とお買い物をして、
美味しい料理とお酒をのんだら、
やっと気分が落ち着いた。
今は、
烏賊とわかめと日本酒で
読書の途中のご機嫌な徒然日記だ。


昨夜は、
月の音楽を聴きながら眠った。
とても個人的な、
秘密の音楽。

きみともう一度、
宇宙に遊びに行きたいな。
つかの間の休日。
期間限定のランデブー。
ああ、でも
この人生だって期間限定だよ。
だから
魅力的な出来事は、
ひとつでも多く味わいたい。

ほら、
わたしはこの傷を治すから、
きみはレコードを用意して待っていて。

秘密をふやそう。








とけた。
とろけた。
濃密で甘くて、
ろくでもない。

月の上で笑ったりふざけたり、
この地球で過ごすたった一瞬、
おだやかで不思議な夜。
かけがえのない、夜だったのだ。

毛布よりあたたかいきみに
何度も転がりこんで、
今まで知らなかったわたしに出逢う。
もっと。
教えてほしい。

ときめきはいつも、
肌の表面を
知らん顔して撫でていく。

きみを流したくない。
胸骨のはじっこに、
そっと書いておいてほしい。
月の曲のタイトルでも、
なんでもいいからさ。

現実に帰って、
泣いているわたしを見たら、
きみは泣いてしまうかもしれない。

わたしは、
わたしの理想の中でしか
何も愛さないし、大切にもしないんだと思う。
いやになる。
でもそれが現実だ。
だから夢が夢が夢が夢が
夢がないと死んでしまうの。


今年が終わる今夜と、
新しい年がはじまる今夜、
わたしはもういちど
月の上で呼吸したい。











点在する夜をつなげたら、
きみが浮かぶ。

思い出はいつだってうつくしいから、
そんなふうに線をつないで、
何度もきみを浮かばせる。

突出した中指から、
しだいに女になった体は、
あからさまに発光する 。
きみの性で。

きらきら、ではなく
内がわから
まるで熱をはなつように。

わたしは発光する。

すべてを見られてしまうから、
もう、夜にまぎれることができない。
じわりと浸み出した分泌液が
てらてらと反射するのを遮りながら
ただやり過ごすだけだ。
わたしは発光している。

しだいに濃く、
じっとりと深くなる闇。
ああ
ため息をもらして、
もうきみのかおりもことばも
思い出せないことに気づく。

点在していた夜がからまる。

発光したわたしは、
砂漠の真ん中にぽつんと置かれた、
この世でふたつめの月になる。





きみと、
夜にまぎれて、夜にとけた。
浮かれて千鳥足の大人たちの視線を
するするすり抜けて、
きみとわたしだけの夜だ。

ときめくの。
いいでしょ。
人生は一度きり。
可愛いきみは、わたしに夢中なの。
人間なのだから、
柔らかい肌をくっつけあって、
いたわり合いながら、
仲良く暮らしていけばそれでいいじゃないか。
この宇宙に、
人間はわたしたちしかいないのだから。
傷つけ合うなんて
まっぴらだよ。 
みんな仲良く、
死ぬときまで生きればそれでいいはずだ。


ああ
きみは。
あなたは。
なんて可愛い人間なのだろう。

愛してしまう。
愛さずにはいられないよ。













あんなに濃かったきみの馨は、
もう、薄められた絵の具の青だ。

秘密にした着信がいくつあっただろう。
きみにも、あなたにも。
そうやって日常を演出したい。
情熱的なのわたし。

月並みな言葉でいい。
要するにタイミングと組み合わせ方の問題なのだよ。
かっこつけて。
でもかっこつけてないみたいにしていてね。

かっこ。
カッコ。
「」
『』
()
かっこにも、いろいろある。
言うの言わないの。
それとも言えないの。
かっこの外側にはみ出して、伝わらなかった台詞こそ、
本当に言いたかったことだったりする。

今までに飲みこんできたいくつもの言葉は、
今どこでどうしているの。
そして飲みこまなかった言葉は。

ああ
文字化けしてほしいのだ。

あなたにも誰にも、
わたしにも、
わたしが何なのかわからない。

きみと目を合わせたって、
そこに何も浮かばないなら、
そんなことしたって意味がないから、
するりとかわしたの。
煩わしいことはごめんだ。
ドラマチックとロマンチック以外は、
なんにもいらないよ。
つまらない現実感を携えるのなら、
わたしに近寄ってこないで。