ブックレビュー「おいしい旅・初めて編」 アミの会編 | ネコのひとり言

おいしい旅・初めて
「アミの会」は実力派女性作家集団。

 

執筆者は作品によって異なり、メンバー以外の作家がゲストとして参加することもあるようです。
今回は坂木司さん(男性)がゲスト。

おいしい旅シリーズは3冊刊行されていて、本書はその1冊目です。

 

行ったことのないところへ行き、食べたことのないグルメを堪能し、その気にさせてくれる至福のひととき。

 

なんて素晴らしい!

■下田にいるか 坂木 司 ★4
・サトウ(独身男性)が伊豆急下田で1泊2日。
・特急「サフィール踊り子号」からの車窓風景や下田海中水族館のイルカショーなど、サトウのワクワク感・高揚感がビシビシ伝わってきます。

・文章にスピードとノリがあり、テンポがいい。
下田深海ザメバーガー
→ 見た目ただの魚フライ、一般的な魚フライとは歯ごたえが違う、断面が白い。
→ 柔らかめのトンカツの歯ごたえに近い、噛んでいると肉っぽさ全開、味は魚そのもの。

下田深海ザメバーガー


■情熱のパイナップルケーキ 松尾由美 ★4
・20代派遣社員の井戸(女性)が3泊4日の台湾旅行。
・ちょっぴりサスペンス、ちょっぴりラブストーリー。男と女のすれ違い。少しボーイズラブっぽいのも面白い。
・主人公にも素直に感情移入できる。
李製餅屋の「パイナップルケーキ」
→ クッキーのような生地、中心にパイナップルジャム

→ 甘いけれど甘すぎず、香り高いパイナップルジャムがバターのきいた生地とあいまって、井戸曰く「これまでのどれよりも美味しい」。

 

李製餅屋の「パイナップルケーキ

■遠くの縁側 近藤史恵 ★3.3
・アムステルダムでのヨーロッパ向け下着の見本市に出張中の、アラサー橋本乙葉。
屋台のフライドポテト・帰国直前にパスポートをなくし、代わりの渡航書が発行されるまでの2日間、アムステルダムをぶらぶら。
・どこかに行かなければならないわけでなく、なにかにせき立てられなくてもいい時間、ほんの少しだけ、息をついて、なにをするでもなく、空を眺めている時間がいい。

アムステルダム・グルメ
(1)屋台のフライドポテト 

→ 山盛りのフライドポテトの上にかけられた白いマヨネーズは、日本のとは全然違って酸味が少なく、少し甘くてクリーミー、芋自体も美味しい。

(2)自販機のクリームコロッケ

→ 熱々のホワイトソースがとろりと口の中にあふれる。

 

自販機のクリームコロッケ


■糸島の塩 松村比呂美 ★4
・川上幸(みゆき)、32歳独身。
・サスペンス仕立て。幸の正体がバレないかとヒヤヒヤ、ドキドキ。
・相手(瀬戸優子)の方が上手(うわて)だったという設定や、予期せぬ展開にも意外性があって面白い。
・ある日突然、瀬戸に誘われ北九州へ旅行。
・逃げ道がなければ、逃げずに正面からぶつかることだ。
「工房とったん」の「またいちの塩」を使ったグルメ
(1)花塩プリン(プレーン)
→ とろとろの食感、塩が自然の甘みを引き立てている。

花塩プリン(プレーン) またいちの塩

(2)おむすび用の塩
→ 米の甘みを引き出し、冷めた時に旨味に変わるよう、とことんおむすびにこだわった塩。

おむすび用の塩 またいちの塩

 

■もう一度花の下で 篠田真由美 ★2
・森住美南22歳、杉並区の一軒家に一人暮らし。
・ある日、知らない人から送られてきた、木箱に入った6本のスプーンと意味深な地図。
・送り主が、子どもの頃の記憶と関連する人物かどうかを確認するため、美南は箱館へ。
・内容が暗すぎて没入感なし、旅情感もなし。本書のテーマにそぐわない。

■地の果ては、隣 永嶋恵美 ★3.2
・片桐萌衣、大学卒業記念にサハリンへ4泊5日のツアー。
・萌衣は彼氏にふられ、地の果てに行きたい気分、それがサハリン。でも、遠くて近い国。
・一方で、ツアー客のある年配女性は、生まれ育った樺太が「外国」になり、遠ざかった感じがして悔しい思い。
・ロシアのウクライナ侵攻ニュースを見ていると、樺太が地の果てよりも遠くなった思う萌衣。
サハリン・グルメ
(1)オヒョウ(魚)

→ 安い冷凍魚とは思えない、美味しい。
(2)シベリア風水餃子

→ サワークリームをたっぷり載せると、水餃子が乳製品の甘さに包まれた別の食べ物へ変身。

シベリア風水餃子

(3))陶器製の壺に入ったたっぷりのイクラ

→ 小粒のイクラは味が濃くて、ディルの香りがして美味しい。溢れんばかりのイクラを脂ののったサーモンとともにクレープで巻くなんて、ここでしかできない贅沢。

■あなたと鯛茶漬けを 図子 彗(ずしけい) ★3.5
・モンちゃん(女性)は予備校講師。
・地元愛媛の劇団員「ののさん」と友だちになり、モンちゃんは劇団の裏方をサポート。
・食への関心を失った萌衣に対しののちゃんは、「人は美味しいものを食べて幸せになる義務がある」、「美味しいものを食べる幸せを捨てるなんて許せない。あたしが、モンちゃんをご飯好大好きに改造する」とよく食事に誘った。
・一緒においしいご飯を食べる彼氏が、いつか現れるのを待つモンちゃん。
宇和島の鯛茶漬け 
→ 極上の美味しさ、生け簀直送の鯛は新鮮。
→ 切り身にタレと卵をからませて、熱い昆布出汁をかけるのが主流。

宇和島の鯛茶漬け わびすけ