ブックレビュー「山女日記」 湊かなえ | ネコのひとり言
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「妙高山」、「槍ヶ岳」など山名を冠したタイトル7編のオムニバス。
 
それぞれの作品で登場する人物の誰かが他の作品でも登場するという、ちょっと変わった構成が新鮮です。
 
8/15付け新聞広告で興味を持ち読書。
 
頂上を目指すまでの間に起きる、登場人物の心の葛藤や同伴者の生き方などから、主人公の女性がどう感じたかを綴っています。
 
私も体が回復したら、ぜひ妙高・火打山縦走をしたいと思っています。
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(1)妙高山 ★4
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山に登って価値観が変わるのだとしたら、それに結論を委ねてみたい、と律子が同期の由美と妙高登山。
これまでも由美の言動にこころよく思っていなかった律子が突然キレ、思っていることを由美にぶちまけるまでの経過がとても面白い。
 
イメージ 2特に律子の、「30リットルのリュックがパンパンに詰まっていて(中略)、化粧品をボトルのまま入れているのかもしれない」なんていう心情描写が、律子と由美の性格を的確に表現していて秀逸!
由美の純粋な考え方・生き方から、自分の結婚観に疑問を持ち始めた律子の出した結論は・・?
 
笹ヶ峰が出てきます。
 
ここは妙高高原の標高1300mの別天地で、山登りが好きな人は妙高・火打山へ、アウトドアが好きな人はテントを張ったりオートキャンプをしたり、ハイキングが好きな人は夢見平へのハイキング、キノコ狩り・・・と色んな楽しみ方ができます。
私たちも2006年に訪れましたが、そのときは乙見湖までのハイキング。
ここから眺める雪をいただいた妙高の山はとてももすてきでしたぁ。
 
(2)火打山 ★3
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妙高~火打山は一般的には縦走コースらしいのですが、(1)に登場する二人とは別の女性(美津子)が主人公の物語。
 
途中(1)で登場した律子と由美も脇役程度に出てくるのが面白い。そして、彼女らの生き方が美津子に少なからず影響を与えているというのも見どころ。
 
バブルの残骸を背負っていると見られている美津子と、プロデューサー巻きをするような同世代の婚約者堅太郎の火打山登山。
 
格好をつけようなんて思わずに素直になれば、新しい世界が開けてくる。
 
(3)槍ヶ岳 ★4
イメージ 5三度目の挑戦で初登頂を目指す牧野しのぶと、偶然に同行することになった60代夫婦らしき?二人組(本郷、木村)の槍ヶ岳登山。
 
牧野しのぶの父と木村さんをオーバーラップさせながら、納得できなかった父の行動が理解できるまでの経過が見どころです。
 
「余裕を持てないのは未熟である証だ」という父の言葉に思わずナットク。
 
また、牧野しのぶの「私は海抜0メートル地点から山頂を目指したいわけではなく、ロープウエイなどは積極的に活用したい派だ。山の楽しみは何と言っても稜線沿いを歩くことにある」という登山哲学。
私もまったくそのとおりです!
 
この物語のコースで私も登りましたが、やっぱり槍ヶ岳山荘から頂上まではスリリングでしたね。
 
(4)利尻岳 ★4/(5)白馬岳 ★3.5
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姉と妹二人がそれぞれの山に一緒に登山。
利尻山では妹、白馬岳では姉の視点から描かれています。
 
そして、なぜ姉が妹を誘って登山することになったかが、次第に明らかにされます。
人生のゴールって何なのか。
 
「歩き続けるのはゴールが存在することを知っているから」、
「雨が降っても一緒にいたいと思える人であることを、誇りに思う」という妹の言葉が印象的。
 
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私は会社の山岳部仲間5人で利尻山に挑戦したことがありましたが、天候が悪く、標高300mのポン山近くの甘露泉水で断念しました。
 
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一方、白馬岳は3回登りました。アイゼンをつけての雪渓歩行とお花畑、広大な展望食堂で飲むビールが美味しかったことが記憶に残ります。
 
(6)金時山 ★3
梅本舞子と彼・小野大輔との金時山登山。
 
イメージ 12「ジグソーパズルは完成しているのに、作りたかったのはこの絵だっただろうか」、
「自分には思い描いている絵がない」、
「なりたい自分の姿を思い描くにはどうすればいいんだ・・」と舞子は逡巡します。
 
何か違うんだなぁという思いは誰にもあるもの。
その答えを見つけるのがむずかしい。
 
金時山は登ったことはありませんが、近くの明神が岳はあります。
 
ここからの富士山も素晴らしい。
 
(7)トンガリロ ★3
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ニュージーランド北島、トンガリロ国立公園にあるトレッキングコース。
 
帽子デザイナーの立花柚月と彼・吉田くんが登山。
 
思い描く理想と現実とのギャップをどう埋めていくか?
理想を追求する柚月と現実を選択した吉田くん。
どちらが正解かは分からない。
 
一般的には、男の方が女より選択の自由度が狭い気がしますが・・。
 
↓8/15の新聞広告
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