メトロに乗って001 | Turtlewalk

Turtlewalk

亀の歩み。遅てもええやん。自分のペースで歩いたらええやん。

50年生きて、2月の建国記念の日をこれほど待ち望んだことは無かった

時期外れの陽気の中、週末の仕事を終えた

職場近くの最寄駅、カーパーキングに車を停めて

持ってきてあった服に着替えて、大きいリュックを背負い

秋以来の関空へと向かった

行き先はNRT。成田空港

初めて行く空港だ。でも今回は迎えてくれる人がいるので

不安よりもワクワクが止まらないと胸を踊らせた

1時間ちょっとのフライトはウトウトするかしないかの内に

関東平野へランディングした

 

暖房の効いた空港の到着ロビー

着膨れたMA-1で待つ大好きな人

歩み寄って一瞬の軽いハグ

もっとギュッとしたいのをグッと堪えた

 

上野行きのチケットを買ってくれてるというので

夜中の閑散とした空港を駅へ歩く

売店も自販機でさえも営業を終了していた

 

乗り込んだスカイライナー。斜め前の外国人の若い女性が

座席から振り返って「エクスキューズミー」と話しかけてくる

手を握りたいと思う気持ちを抑えて

彼女に返答する。どうやらwi-fiを使いたいようだった

電車のフリーwi-fiを教える、その後も何度か話しかけられる

そんな彼女は僕らと一緒に上野で降りた

ホームに立つ駅員にまで「アリガトゴザイマス」と挨拶していた

 

1年とちょっとぶりの東京、日付はもう12日になろうとしていた

真夜中の上野公園を二人でテクテクと歩いた

子供の頃の話、冬のマラソンの話を聞いた

若者が屯して楽しそうにお酒片手に話してる声が聞こえていたが

遠目だったので、夜空の下で短くキスをした

 

夕飯難民だった。街はこんなにも明るいけど

チェーン店の牛丼屋くらいしか開いていなかった

僕らは飲まないので居酒屋の選択肢も無かった

地下鉄で旅館の最寄りに移動。すぐそこだというので一旦荷物を置きに行く

部屋には既に布団が敷かれている。

ふかふかの布団の上でたくさんの想いの詰まったハグをしてた

取り止めもないので、すぐ近所の24時間やってる弁当屋で焼肉弁当を買い

部屋で平らげた。温めが弱くなってしまい、量も少し足りなかったが

そんなことは何の問題でも無かった

 

先ほどから何度か鼻歌程度に口ずさんでいる斉藤和義の話をしてくれた

「メトロに乗って」という歌があって。東京をデートで回る歌だと教わった

それが何だかとても僕らにハマっているという

僕もすぐに聞かせてもらい、とてもほっこりとして気に入った曲だった

僕らは暖房も入れないまま明け方ようやく眠りについた

 

短い睡眠時間で目が覚めてしまい、幸せな朝を迎えた。

東京滞在のタイムリミットはまだあるのにカウントダウンを気にしてしまっていた

布団の中、相手の体温を感じながらウトウトダラダラ時間を貪る行為は至福だった

今朝の予定は決まっているので身支度を整えて、まずは腹ごしらえ

日曜日の新宿南口。昼前だけどやはり人は多い

少し放浪したがルミネでオムライスの店に入った

結構早食いを自負していたが熱々のハンバーグオムドリアに苦戦して

ゆっくり食べましたという相方に負けていた

 

小田急で登戸駅へ向かう。知らない初めての街並み

所狭しとひしめく住宅街

隣は寝不足にさせたせいで船を漕いでいた

多摩川を越える。河原の少年野球が

日曜日のお手本のように行われている

それはもう連綿と何十年も続く景色の一部で

春みたいな今日の陽気なら散歩にピッタリのコースだと思った

 

登戸駅はどこもかしこもドラえもんで溢れていた

ホームの駅名の表示も、電車の到着のチャイムもドラえもん

コインロッカーに荷物を預けて

直通のバスに乗る。ここにはエスパー魔美やキテレツ大百科も散りばめられている

程なくして到着したのは藤子不二雄ミュージアム

二十日ほど前にネットでチケット予約してずっとウキウキしていた

 

1階は藤子不二雄Fのドラえもんへの取り組みとその資料が展示されていた

思い入れとか、奮闘がたくさんあって、なんだか涙が滲んだ

読み込むのにほぼ1時間を要した

ようやく2階に上がると先生のSF作品のコーナーがあった

マイナーでよく知らない作品がたくさん並ぶ

その奥に噂で聞いていた「綺麗なジャイアン」が待っていた

外のテラスのようなところ行列に並んで順番を待つ

持ってきていた自撮り棒のリモコンの調子が悪くて

結局普通の自撮りになってしまったがジャイアンを挟んだツーショットは

なかなかよく撮れていた

展示が終わりミニシアターで映画を見た後は裏庭でピースケやどこでもドアと撮影

頼まれていた限定のどら焼きも買うことができた

 

ほっこりとした気持ちのまま都内へ戻り秋葉原へ向かう

小腹が空いて、喧騒から外れた場所にあるココスで腹を満たす

次は2つ目の目的。ジムで合同トレーニング

どこにでもあるジムで、実は登戸の駅前にもあったのだが

よく行く店舗で設備のことも割っているこの店舗を選んだそうな。

1階と地下の2フロア。日曜のせいか人は多い

まだ僕一人ではやっていない、ペンチプレスのやり方を教わった

それ以外にはいつものマシンやアブローラーにも挑戦した

ジムに来てた人の中でも相方は一際大きく素敵な存在感を醸していた

 

ジムの汗を流すのは両国と決めていた。国技館のすぐそばの「江戸遊」

ちょっと値段は張るけど綺麗だしいいサウナだった

外気浴の場所もたくさん椅子が用意され結構混んでいたように思う

相方のいつもの場所に僕がいることが不思議なんだと言っていた

 

少し歩こうと、夜の東京を二人で。

蔵前橋を渡る時、ちょうど綺麗にスカイツリーが見えていた

春の心地の陽気が続いていて湯冷めしない程度に暖かい夜だった

勢いに任せて雷門まで行き、夜中でもやってる浅草寺のおみくじを引いた

「凶」だった。だけど何だか今は最強な気がして全く嫌な気にならなかった

 

最終日、10時のチェックアウトギリギリまで居た

人目を忍んで接触できるのはこれが最後とばかりに

僕は動物園のパンダがタイヤで遊ぶように

相方にしがみついて腕の中いっぱいの彼を抱擁した

 

天気予報で言ってた通りの雨の月曜日だった

昨日よりやはり気温も低い

駅前の100均の店で揃いのビニール傘を買う

 

すぐそばの鬼子母神へ参拝。まだ朝早いので

御朱印はいただけなかった。でも僕は

「恐れ入谷の鬼子母神」という言葉を知っていたが

実在するとは知らなかったので、とても嬉しかった

 

谷中。テレビではよくロケをしているのを見かける

谷中銀座。みんなが記念撮影している

商店街の入り口でパチリ。でもこちらも早い時間のせいで

開いてる店はまだ少なくて、通り抜けて終わってしまった

団子坂下から谷中霊園、上野桜木まで散歩

途中「愛玉子」という中華のデザートが食べられる店の

話になり、谷中霊園を下ったがコロナで持ち帰りしかやってないと

張り紙されていて断念した

少し戻ったところのケーキ屋でお茶をした

店先に二つ並んだビニール傘も愛しく寄り添って見えた

 

乗り込んだバスは不忍池に到着した

僕の背中の荷物が重そうだと相方がコインロッカーを提案してくれた

上野駅なら帰りに寄るからとロッカーに預けようとしたら

コインロッカーの手前にポツンと置かれたストリートピアノが目に入った

ロッカーにリュックを入れてピアノのところに戻ると

彼がおもむろに「メトロに乗って」を弾こうかと言って腰掛けた

ウォーミングアップのつもりで彼が奏でた曲は

駅構内に響いて、動画を撮っている僕にもよく響いた

そしたらなんだか涙が出てきた

もう一度きちんと取り直して上野を後にした

こんな経験初めてだった

 

押上を目指す。地上634メートルのスカイツリーへ。

今日の唯一の目的は財布の購入。

春の財布は縁起がいいので。僕らが新しく始まったこともあり

それを記念に財布を買いたかったので

ソラマチなら良いのが見つかるもかもと思いやってきた

まずは腹ごしらえと思ってレストランフロアを探すと

話題にしてた、もんじゃがあった

1も2もなくもんじゃ焼きの店に並んだ

値段は少々高いと思った、高いのに腹が膨れない

でも、慣れた手つきで彼に焼いてもらって食べたもんじゃはやはり美味かった

そうそうソラマチに財布はなかったのだった

 

浅草仲見世にはたくさん店があるしそこならばと

色々巡ってみた伝法院通りや和風の小物店など

どうも女性向きの財布が多く見られた

結局のところ、アメ横なら確実にあるということで

再びの上野駅

 

アメ横に向かう前に昭和が色濃く残る上野地下街も少しだけのぞいた

僕の若い頃の天王寺を思い出す感覚だった

彼が多慶屋を思い出したと言ってアメ横を通り過ぎて

案内してくれた。幼い頃、ファミコンのカセットはいつもここで買っていたと

エピソードも話してくれた

紳士服のフロアに全く高くはない合皮のお財布が少しだけ並んでいた

自分の希望に近い感じの財布を見つけた

でもまだ本命のアメ横を見てないからそっちも見てみようと提案してくれて

僕らは今きた道を戻った

 

何十年ぶりかに来たアメ横は時間が止まっていた

三宮のガード下に似て、店がいくつも連なっている

皮の店が多くて見応えがあるのだが、如何せんお値段が張る

それで結局大して財布も見ないうちにアメ横を1周して終わってしまった

いよいよ、多慶屋かと思ったその時

彼が閃いたように「あと1軒だけ付き合って」と

メイン通りを外れた路地に案内してくれた

「WOOD CRAFT GOODS」というお店

入り口のショーケースにはいかついパイソンの財布やら

クロコの頭の部分が使われているカバンが飾ってある

。。。入りずらい。でもそのショーケースの裏に店内の陳列で財布らしきものが

チラッと見えていて「あれ財布かもよ」と相方に言って

僕らは足を踏み入れた。おかみさんらしき女性が声をかけて来てくれた

僕は見えていたものはキーケースだったので少し小さかった

残念と振り返り、店内の奥を見たらガラスケースにびっしりと革製品が並んでいた

歩みを進めると「どんな感じかわかれば」と女性がまた声をかける

なんだかやはり高そうと思い気の無い返事をしていたら

ショーケースの隅にちょっと変わった色味の財布を見つけた

それはダメージ加工が既に施された財布だと言っていた

19000円の2割引でこれくらいよと女性が電卓を弾いた

え、2割引?女性はこっちの加工してないやつはもう少し安いと

勝手に隣の財布を取って袋から出して僕に見せてくれた

これは16000円の2割引。なるほど

「でも小銭入れを別で持ってるので小銭入れの部分が入らないんですよね」

じゃあと女性がまた探してくれた

こっちは小銭入れのないタイプ。とのこと13000円の2割引

やはり革製品だし1万以上は当たり前ですよねえと

ダメ元で喉につっかえていた言葉を発してみた

「あのー、ちなみに1万円切るのとかあるんですか?」

あるよ!と女性はショーケースの奥をまさぐってくれたが

在庫管理があまり分かってなくて、僕の肩越しに

真後ろに座っていた店主に声をかけて聞いた

僕は店主の存在に気づいてなくてギョッとしたが

デニムのエプロンにニット帽が似合ういい店主だった

この辺かなと教えに来てくれた店主。

それはさっき見せたわよ、嗜める女将。

これそうやろ、と別のを取り出した店主

女将が受け取ると。そうそうこれこれ

これ7000円。それの2割引!

え!と驚く僕ら。でも在庫は最後の1個だという出来れば

二人でお揃いがいいなと思っていたのでちょっと落胆してたら

まだ棚を漁っていた店主がこっちの方が安いと

別の財布を見せてくれた、これなら6000円。そしてまたまた2割引

以前に作ったものだから安いんだと言ってた

そしてこれが3個の在庫。おお!喜んだら

店主が、これちょっとここの色がハゲてると言い出した

あら、それも味ってことかなと思おうとしてた

というかこの時点で値段、在庫数、小銭入れ無しの二つ折りと

条件が揃ったので買うと決めてたのに

店主がすぐ塗るからと後ろの店主の作業場へ移動。

と言っても1歩だけ進んだところ。そこで何か始めた

どうやら何か靴墨のようなものを塗って綺麗に元通り仕上げてくれた

もう完落ちでしたね。これ買います

 

二人それぞれお支払い。糸も手縫いしてて

もし切れたら無料で直してあげると言ってくれて

「足元悪いのにありがとうね」と労いまでくれて

今日の財布探す放浪の旅が全て報われた瞬間でした

店を出て、相方の持つ店主が塗り直した財布を取り上げる

そして僕のもう一つを渡す。そして僕は言う

「これをあげるから、それをちょうだい」

財布は人に買ってもらう方が良いのだと聞いたので

お互いのを買ってあげたと言うことで交換しました

戦利品を手にスタバでお茶して

 

とても良いことがあったので二人は饒舌に話しました

成田へ向かう時間が迫り、再びスカイライナーへ

帰りは、行きの時に出来なかったので脱いだダウンを抱えて

その下でずっと手を握っていました

帰らなくて良いのなら。

同じ空は繋がっているけど、スカイツリーの見えるこの空の下で

この人と過ごせていけたら良いのになあと

そんなことを考えながら空港へ向かいました

成田の国内線は人が極端に少ないので

通路やエスカレータでも大胆にキスをせがんで別れを惜しみました

 

次の約束はまだないけど、離れた時からもう会いたい

そう思える恋がまた始まりました