第10話 寝技 前編
詰まるところ、話はこうだ。
スリーピース編成バンドをやりながらホストをやっているイケメンの彼は、新しいギターを探している。
曲が作れて、動員数が見込めるから、俺と組みたいらしい。
目をキラキラさせて、イケメンが言う。
ニルヴァーナがやりたいらしい。
俺の代わりに、マツダが応える。
「兄さん、コイツは忙しいから無理だぞ。」
マツダの声に反応して、イケメンの連れが動く。
カウンターに4人並んで座っていたはずなのに5人いる。
入り口から、俺、マツダ、イケメン、エロマドンナ…マスター。
マスターは、俺とマツダにしかわからないように、背を向ける彼女の肩越しから、隙間だらけの胸元を覗き、髪の毛の匂いを嗅いでいる。
しかし、ひどい店だ。
俺は、カウンターから下がり、アイスコーヒーをドリップしている娘さんを呼ぶ。
「すいません、マスターが、アイスコーヒー作るの手伝いたいそうですよ」
カウンターに、マスターそっくりだが、可愛らしい笑顔の娘さんが顔を出す。
「あら、珍しい。手伝ってくれるの」
席を立ちあがり、掃除をしていた「てい」のマスターが、応える。
「タクヤとマツが、うちでバイトするってぞ!」
「あら、本当に」
苦笑いする俺に、睨みつけるマスターとマツダ。
「…バンドは嫌だよ。俺、最近はdizzy mizz lizzyの1stと、ドヴォルザークの家路なんかを聞いてるんですよ。クラッシックはわからないけどよいですよ」
「わからないですね」
「ニルヴァーナも、いいけど、コード進行が単調に感じてね。他の話は何だっけ?」
「夜の話です。」
「ヤバい話かな?」
「多分。」
ダイナーのマスターがグラスを拭きながら遠ざかる。元警察官は、ヤバい話には近づかない。
白い脚を組み替えながら彼女がタバコをふかす。
手足の細さで誘惑する女だ。
マツダは、ナプキンに長渕の歌の歌詞を書いている。こいつは、なんなんだ。
「聞いてもらえますか?」女は、杉本彩のような声。妖しく甘い声だった。

